愛され続け100年以上「卍最中」の歴史に区切り。創業145年弘前市の老舗・開雲堂さんに惜別の声絶えず
青森県弘前市。かつて城下町として栄えた桜の都、そして私の生まれ故郷にて、ひとつの節目を迎えようとしている和菓子屋さんがあります。
「開雲堂」さんは、創業明治12年創業。現在の建物は昭和3年に建て替えられたもので、私の両親にとっても「土手町の和菓子屋さんといえば開雲堂」というほど馴染み深い街の景観のひとつだったよう。ですが、諸般の事情にて閉店を決断され、地元のニュースや新聞、さらにはSNSでも大きな波紋を呼んだ連休明け。
幸いなことに、このほど開雲堂さんの銘菓でもあり、青森県弘前市の初代藩主・津軽為信公の没後300年を記念して二代目のご当主が生み出した最中をいただくことができました。
今回は弘前市の市章が刻印された最中「卍(まんじ)最中」をご紹介。
原材料の表記をご覧になり、おや?と思った方はいらっしゃるでしょうか。
いんげん豆の後に、「小豆」という文字が記されているではありませんか。いんげん豆は白餡の材料、では小豆というのはあんこ…?いえいえ、実は卍最中は白餡の最中なのです。
一般的な焦がし種(茶色い皮)の最中は、つぶし餡や粒餡を挟んでいるところが多く、有名どころやご自身であんこを挟んで出来立てを召し上がっていただくタイプでも小倉餡もしくは胡麻やナッツなどややアクセントになるような食材を合わせているものが多数。しかし、開雲堂さんの卍最中は豆からじっくりと炊き上げる白餡を挟んでいるのです。
その白餡は実に不思議で、さらりとした甘味と水分量はしっかりと保持しつつも、開封した瞬間から存在感を放つ香ばしさを手玉に取るような甘露を湛えているのです。若干ではありますが、べっこう飴のような厚みのある甘さが舌の上から広がっていきます。
また、白餡に散らされているのは小豆。時折歯先に伝わる皮の食感もまた一興。車通りの多い土手町の雪に散らばる足跡のよう…と、思いを巡らせることができるような年齢になったのねと思わずひとりで「ふふふ。」と。
その歴史に幕を下ろすということは、様々な理由があれど並大抵の意志では実行できることではないと思うのです。従業員の方がいらして、美味しいと購入なさる方がいらして…
それなのに私はというと、感謝の前に「寂しい」「悲しい」という自分勝手な気持ちが湧き上がるのです。
しかし、開雲堂さんのお菓子の味も、有難いことにこうして綴ることができる今。ならば私は私なりの方法で記録を残し、「美味しい。」と「ありがとうございました。」という思いで寂しさも悲しさもまるごと抱きしめながら、同じく閉店を惜しむ方から頂戴した卍最中を噛みしめ、溶かして自分の中へ落とし込んでいこうと思うのです。
最後までご覧いただきありがとうございました。
<開雲堂>
青森県弘前市土手町83
(あまりにもお問い合わせ等が多くご対応しきれないということ、そして製造が追いつかず臨時休業となる日もございますので、店舗情報は住所だけとさせていただきました。)