「昔の日本」に見入るニューヨーカー。ゴッホも影響受けた浮世絵が海外で高く評価 「名所江戸百景」展
先日、ニューヨークのブルックリン美術館にポール・マッカートニーの写真展のメディアプレビューに行った帰りしな、同じフロアで別の展示プロジェクトが賑わいを見せていることに気づいた。
浮世絵画家・歌川広重が描いた江戸の美しい景色「名所江戸百景 feat. 村上隆」展だ。同美術館所蔵の広重作品118点を展示したもので、この展覧会のために現代美術家・村上隆が制作した模写作品とのコラボ展示となっている。
広重によって描かれているのは花見、花火、落葉、雪景色など四季折々の江戸の風景と街並み、そこで暮らす人々だ。アメリカでは知識層にHiroshigeとして広く知られ、日本人が顔負けするほど海外ではその価値が高く認められている。
この日、筆者が驚いたのは来場者が熱心に作品に見入っていたことだ。ちょうど平日の正午近くだったが来場者は割と多く、彼らは明らかに流し見ではなく熱心に一点ずつ鑑賞していた。何人かは上半身を屈め細部までチェックしている。
ある来場者は「日本の昔の暮らしが伝わってきて興味深い。ディテールまで見てしまう」「非常に保存状態が良い」と感想を言った。浮世絵(木版画)のファンだという別の来場者は以前ニューヨークのギャラリーで購入した作品をベッドルームに飾っているそうだ。知識層のニューヨーカーはこのようにして、ワンオブアカインド(世界に一つ、自分だけの特別)の空間作りを楽しむのだ。
日本ではあまり知られていないが、浮世絵ファンは実は海外に多い。浮世絵と言えば広重のほか、海外では葛飾北斎の『The Great Wave(富嶽三十六景 神奈川沖浪裏)』や『Fine Wind, Clear Morning(凱風快晴)』があまりにも有名だ。
そもそも鎖国を終えた日本が開国した時に何が起こったかというと、西欧ではジャポニズムブームがわき起こり、北斎にしろ広重にしろ浮世絵は芸術家(フランスの印象派含む)に多大なる影響を与えてきた。かのフィンセント・ファン・ゴッホから建築家フランク・ロイド・ライトまで、実は浮世絵の大ファンだったのだ。
ゴッホに至っては、広重の「名所江戸百景」の亀戸梅屋敷をベースに模写した「Flowering Plum Orchard (after Hiroshige)」(1887年)といった作品もある。
筆者は以前、ニューヨークで三代続く浮世絵(木版画)専門ギャラリーのアメリカ人オーナーを取材したことがある(文末参照)。デービッド・タロウ・リバートソン氏は祖父の代から収集してきた1万点以上の浮世絵を、世界中の知識層に販売している。
一体どんな人が購入しているのかと問うと、リバートソン氏は「日本食が好きな人、日本を旅した人、コレクションが好きな人、部屋に雪景色を飾りたい人などだよ」と教えてくれた。
この「名所江戸百景」展の様子を見ても、改めて海外で日本の浮世絵が認められていることを、まざまざと実感したのだった。
これらの作品は1930年にブルックリン在住のアナ・フェリス氏が書籍の状態で同美術館に寄贈したものだ。劣化を防ぐために普段は展示されておらず、今回は2000年以来実に24年ぶりの展示となっている。なるほど、ファンがじっとしていないはずだ。
広重展は4月5日から8月4日まで。
詳細:
Hiroshige’s 100 Famous Views of Edo (feat. Takashi Murakami)
#EdoAtBkM
米・NYのギャラリーが浮世絵、木版画...日本の古典アート専門にこだわる、その理由 (nippon.com)
(Text and most photos by Kasumi Abe)無断転載禁止