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ロシア国防次官の電撃訪朝の目的は武器の調達か、それとも売却か!

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
金正恩総書記とロシアのクリボルチコ国防次官が密談?(朝鮮中央通信から)

 北朝鮮の軍事代表団を率いて7月8日にロシアを訪問した金琴哲(キム・グンチョル)金日成軍事総合大学総長が滞在先のモスクワの湖で溺死したとの情報に目を奪われていた最中にロシアの軍事代表団がいつの間にか北朝鮮を訪問していた。

 今朝の北朝鮮の国営通信「朝鮮中央通信」は代表団が平壌に到着した日については触れていなかったが、金正恩(キム・ジョンウン)総書記が昨日(18日)、労働党本部庁舎でアレクセイ・クリボルチコ国防次官が率いる軍事代表団を接見した、と伝えていた。

 金総書記が外国の次官クラスと接見するのは極めて珍しい。今年1月に中国外交部代表団を引率して訪朝した孫衛東外交部副部長は金総書記に会えず、面談相手は崔善姫(チェ・ソンヒ)外相だった。

 金総書記と面談する前日に誕生日を迎え49歳になったばかりのクリボルチコ国防次官の担当は軍需産業である。主に武器の調達から輸出(売買契約など財政)を手掛けている。

 一例を挙げれば、2018年には国内の武器生産業者から新型戦闘機「スホイー57」を12機購入し、また2022年8月には5千億ルーブル規模に達する新型ICBMや最新防空システム、戦闘機などの購入契約を締結していた。ウクライナ戦争が始まってからはウクライナ戦場に武器を供給するのが最大の業務になっているのは言うまでもない。

 クリボルチコ次官は今年6月のプーチン大統領の訪朝にも随行していた。この時は北朝鮮のメディアにはラブロフ外相をはじめマントゥロフ政府第1副首相、ノバク政府副首相、ベロウソフ国防相ら閣僚のみ紹介され、クリボルチコ次官の名前はなく、その他随行者扱だった。今回は厚遇されていることがわかる。

 配信された写真をみると、同席者は誰一人おらず、1対1で対面していた。

 表敬訪問の慣例としてクリボルチコ次官は金総書記にプーチン大統領の挨拶を伝え、これに金総書記が謝意を表し、ロシアのウクライナ戦争に「強力な支持と強固な連帯」を表していた。

 それ以外のやりとりについては一切明らかにされてなかったが、気になるのは「席上で相互の安全利益を守るための両国間の軍事分野協力の重要性と必要性に対する認識が共有された」(朝鮮中央通信)ことである。

 それと、金総書記の発言で軽視できないのは「両国の軍隊がより固く団結して新時代の朝ロ関係を力強く導き、地域と世界の平和、国際的正義を守っていく上で重要な役割を果たさなければならない」と発言していたことだ。「両国の政府」あるいは「両国の人民」ではなくて、「戦闘的絆で繋がった両国の軍隊」という表現を使ったのはこれまた異例である。

 プーチン大統領の訪朝時に発表された「露朝包括的戦略パートナーシップ条約」には宇宙、生物、平和的原子力、人工知能、情報技術などの科学技術分野から農業、教育、保健、スポーツ、文化、観光分野での交流と協力が謳われていたが、軍事分野の協力は直接的には盛り込まれていなかった。

 軍事面では「防衛能力を強化する目的の下、共同措置を取るための制度を設ける」ことと「軍事的およびその他の援助を提供する」条項のみだった。後者については「一方が個別的な国家、または複数の国家から武力侵攻を受けて戦争状態に瀕する場合」との前提条件が付いていた。即ち、有事の場合に限定されていた。

 北朝鮮と外国との軍事交流は国連安保理決議で一切禁じられている。それをあえて承知の上で、金総書記は軍事協力の重要性と必要性について公言したわけだから軍事交流を今後、公然と行うことを宣言したのに等しい。ちなみにクリボルチコ次官は2022年3月ウクライナ侵攻に責任を負う者として米国から資産凍結など制裁対象に指定されている。

 クリボルチコ次官の訪朝を機にロシアは北朝鮮から新たに砲弾を含め様々な兵器を購入することが予想される。それも、金総書記相手の直談判なので即断即決されるものとみられる。

 ちなみに金総書記の兵器に関する関心は並々ならぬものがあり、この2か月間だけで狙撃兵小銃生産工場と240mm砲台車生産工場(5月11日)、戦術ミサイル兵器システムの生産現場(5月14日)、重要国防工業企業所(5月17日)、国防科学院(5月28日)、軍需工場(7月2日)などを視察する一方で、240mm砲の試射(5月10日)、新技術を導入した戦術ミサイルの試射(5月17日)、600mm多連装ロケットの威力射撃(5月30日)、多弾頭ミサイルの発射実験(6月26日)に立ち会っていた。

 今回のクリボルチコ国防次官でもう一つ注目したいのは、ロシアからの北朝鮮への武器供与の有無である。

 金総書記は昨年9月に訪露した際、コムソモリスク・ナ・アムーレ飛行機工場を視察し、核兵器搭載可能な「ツブレフ(Tu)―160」、「Tuー95MS」「Tuー22Ms」の3つの戦略爆撃機や多目的戦闘機、追撃機、襲撃機をはじめロシア空軍が装備している近代的な軍用飛行機を見て回っていた。「ミグ31」に搭載する極超音速ミサイル「キンザル(Kh)47」にも関心を示していた。

 北朝鮮とすれば、韓国空軍よりも劣勢な空軍力を補強するため何としてでも「MiG―31」戦闘機や第4・5世代戦闘機の「スホイー35」や5世代戦闘機の「スホイー57」をロシアから手に入れたいところだが、ロシアが韓国を刺激しかねない最新戦闘機の北朝鮮輸出を承諾するのか大いに注目される。

 なお、冒頭の「溺死した人物」について韓国政府高官は昨日、金琴哲金日成軍事総合大学総長ではなく、別人のようだ」とコメントしていた。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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