炎天下の部活動 「みんないっしょ」という危険因子――熱中症対策:肥満傾向の生徒に特別な配慮を!
知られざる熱中症と肥満との関係
この炎天下のなか、今日もまた学校では運動部活動に子どもたちが参加する。多くの人たちが子どもの熱中症に神経をとがらせている。
誰もが知っている「熱中症」。気温と湿度が高いなかの運動は厳禁、屋内でも危険、水分さらには塩分の摂取が必要など、これら具体的な対策もまた、誰もが知っている。
ところが、熱中症についてまだ十分には知られていない危険因子がある。「肥満」である。肥満の場合、軽い運動でもエネルギー消費量が大きいため熱が発生しやすく、さらには脂肪が熱の放散を妨げるため、体温が上昇してしまう。それが熱中症へとつながるのである。
炎天下で運動するならば、肥満という危険因子を見過ごすことはできないはずである。それにもかかわらず、日本の教育に特有のある思想が、肥満リスクの認識を妨げている。そのようなことを考えてみたい。
熱中症による死亡事例の7割が肥満
驚くべきデータがある。学校管理下で1990~2011年度に発生した熱中症による死亡事例(38件)で、肥満度が標準体重から20%を超えているケースが全体の71%を占めているというのである(注1)。このデータについて、国立スポーツ科学センターのセンター長である川原貴氏は、「肥満は熱中症のハイリスクグループ」と警告する(注2)。
じつは、アメリカの研究でも熱中症と肥満の関係が指摘されている。高校生を対象にした調査では、2005/2006~2010/2011年シーズンに熱中症を罹患した生徒のうち、37.1%が高度肥満(obese)、27.4%が肥満(overweight)と、計64.5%の生徒が肥満傾向にあったという(注3)。
「みんないっしょ」という危険因子
肥満と熱中症の関係を示すデータや論拠がありながらも、どうにも肥満リスクへの関心は低い。私はその根底に、日本の教育における「みんないっしょ」の思想が横たわっているのではないかと考える。
「高齢者は熱中症に気をつけましょう」という注意喚起がある。そこでは「みんな」ではなく、「高齢者」というグループが対象となっている。いみじくも先述の川原貴氏の言葉にあるように、肥満は熱中症のハイリスク“グループ”である。「みんないっしょ」に運動をしているとき、肥満グループの子どもたちは、身体に大きな負荷がかかっている。「肥満」というグループを意識して、その子どもたちに特別な配慮の目を向けるべきである。
私たちは「みんないっしょ」が大好きだ。しかしその思想はときに、特定のグループや層が抱えるリスクを見えなくさせてしまう。何もこれは、熱中症に限ったことではない。肥満グループにおける熱中症、初心者層におけるスポーツの重大事故、さらには貧困層における低学力・・・日本の学校教育をグループの視点から捉え直すことで、救われる子どもは多いはずである。
注1) 日本体育協会『スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック』p. 38.
注2) 川原貴、2012、「スポーツにおける熱中症」『日本医師会雑誌』141(2), p. 302.
注3) Kerr, Zachary Y. et al., 2013, Epidemiology of Exertional Heat Illness among U.S. High School Athletes, American Journal of Preventive Medicine, 44(1), pp. 8-14.