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建設とメディア業界は過労死要注意? 国の「過労死白書」で実態が明らかに

今野晴貴NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。
(写真:ペイレスイメージズ/アフロイメージマート)

 今年はオリンピックが開催される。その背後で、建設業では労災事故も複数発生している。

 今年の秋に発表された2019年度版過労死白書では、過労死防止のために、国が重点的に取り組むべき業種として、「建設業」と「メディア業界」が挙げられ、その調査結果が示されている。

 メディア業界といえば、広告業に含まれる電通が、高橋まつりさんの過労自死事件を引き起こしたことが記憶に新しい。建設業界とメディア業界は「過労死要注意」の業界なのである。

 今回の記事では、建設業とメディア業界を取り上げ、労災の発生状況やその背景について、過労死白書からいくつか特徴となる点を解説していきたい。

突出する「60代・現場作業者」の脳・心臓疾患

 まず、建設業で労災認定された311件の内訳を見ていこう(2010年1月~2015年3月)。

 第1-1-2図を見ると、50代、40代を中心に、脳・心臓疾患の件数が多いことがわかるが、そのなかでも、60代の「技能労働者」の数が16件と抜き出ている(ここでいう技能労働者とは、建設現場で実際に作業・工事を行う労働者を指している)。

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 実際、この10年ほどで、建設業で働く高齢労働者の割合は増加している。国交省の資料によれば、いまや建設業で働く労働者の約3割は、55歳以上の高齢者である。こうした状況のなかで、労災も増加しているということだ。

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 そして、この脳・心臓疾患は、「長期間の過重業務」を原因として発生している(第1-1-5図)。これは、先の技能労働者に限らず、現場監督や管理職、事務・営業職においても同様である。建設現場は危険を伴うことも多いが、そうした特殊性以上に、「労働時間」の問題が、労災を引き起こす大きな要因となっているのだ。

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30~40代が精神障害のボリュームゾーン

 次に、精神障害の発生状況について見てみよう。40代、30代を中心に、とくに「現場監督、技術者等」で精神疾患が多数発生している(第1-1-3図)。精神疾患の場合、高齢労働者の件数は少なく、相対的に若年層に多い傾向にある。

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 精神障害の発生要因としては、現場作業者である「技能労働者」の場合、「事故や災害の体験」が最も多い(第1-1-7図)。自身が事故に遭う場合だけでなく、同僚が事故に巻き込まれたのを目撃するなどしたときもこれに該当するだろう。

 一方、「現場監督、技術者」の場合には、「仕事の量・質」に大きな変化があった場合に、精神障害に罹患するケースが多い。仕事量が大幅に増えた・減ったことや、もともと従事していた仕事内容が変更になったことが、労働者の精神面に大きな影響を与えているのである。

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日常的に「過労死ライン」で働く現場監督者は6人に1人

 ここからは、建設業で働く労働者や企業を対象に実施されたアンケート調査結果を見ていこう。

 まず、労働時間について、第1-1-12図は、1週間の平均的な労働時間を労働者に聞いたものである。多くは、週40~50時間のなかに含まれているが、「現場監督」の場合、週60時間以上も働いている者は、16.2%に上る。これは、現場監督者の6人に1人は、「過労死ライン」かそれ以上の長時間労働をこなしていることになる。

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 現場監督者の長時間労働がなぜ発生するのかを見ると、「業務量が多い」や「人員が不足している」ことが主要因として挙げられているが、ここで注目したいのは、「事務書類が多いため」という理由が49.3%も占めていることである。膨大な事務作業に忙殺され、長時間に及ぶ残業をこなす現場監督者像が浮かび上がってくる。

勤務間インターバルに消極的な企業

 では、こうした長時間労働の現状にたいして、企業はどのような取り組みを実施しているのだろうか。結論からすると、具体的な対策には消極的であると言わざるを得ない状況にある。

 なぜなら、過重労働を防止するために企業が実施している取り組みとして最も多いのは、「適切な賃金水準の確保」であるからだ(76.6%)。もちろん、適切な賃金を設定することは重要ではあるのだが、このことが、直接に過重労働を防止することにつながるかは、疑問が残るだろう。

 一方、より直接的に効果が出ると想定される「人員の増員」に取り組んでいるのは、33.8%と少ない。実施を検討・予定している企業は57.6%に上るから、人手不足にたいして問題意識があることはうかがえるが、「適切な賃金水準の確保」とは対照的である。

 さらに、長時間労働を抑制する最も効果的な取り組みとして考えられる「勤務間インターバル制度の導入」については、53.5%が「実施予定はない」と回答している。

 このように企業が勤務間インターバルを積極的に導入しようとしないのは、「顧客の理解・協力を得ることが難しい」と感じているからである(45.5%)。労働者の健康や命よりも、取引先との関係や自社の経営が優先されている様子が如実に現れている。

メディア業界に広がる精神障害

 ここからは、メディア業界で労災認定された52件の内訳を見ていこう。

 第1-2-1図を見ると、「広告業」で精神障害が多く発生していることがわかる。

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 年齢別では、「29歳以下」の若年層を中心に、精神障害の認定件数が多くなっている(第1-2-3図)。

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 こうした精神障害の発生には、「仕事の量・質」が大きく関わっているようだ。なかでも、「仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった」が最も多く、次いで「2週間(12日)以上にわたって連続勤務を行った」といった出来事が、精神障害を罹患させる要因となっている。とくに後者からは、「労働時間」の問題が、労働者の精神面に影響を与えていることがわかる。

繁忙期は3人に1人が「過労死ライン」

 ここでも、労働者や企業へのアンケート調査結果をもとに、労災が発生する要因・状況について見ていく。まず、労働時間について、1週間の平均的な労働時間は、想像するほど長時間ではない。「40時間以下」と「40時間以上50時間以下」で7割を超えており、週60時間以上働いている労働者は、割合としてはそれほど多くはない。

 だが、最も忙しかった時期については、事情が大きく異なってくる。「放送業」では37.9%が、「広告業」では31.4%が、週60時間以上という長時間労働を担っているのである(第1-2-13図)。これは、3人に1人の割合で、「過労死ライン」に相当する時間、労働していることになる。

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「顧客」を優先するメディア業界

 そして、こうした長時間にわたる時間外労働が発生する要因が、広告業において特徴的である。メディア業界全体としては、「業務量の多さ」や「人員不足」といった、他産業にも共通する理由が挙げられている。

 一方、広告業においては、「顧客からの不規則な要望に対応する必要があるため」が65.0%、「顧客の提示する納期が短いため」が45.1%にも上った。つまり、「顧客」との関係が第一に優先されるため、その要望・要求に応えざるをえず、その結果として、労働者には精神障害を引き起こすほどの長時間労働が強いられているのである。

 実際、メディア業界が過重労働の防止に向けた対策に及び腰であるのは、自社の利益だけでなく、顧客を強く意識しているからだ。「広告業」では、「納期や期日の交渉が実質的に厳しい」が47.8%、「顧客の理解・協力を得ることが難しい」も32.7%であった。また、露骨に「収益が悪化するおそれがある」と答えた企業も、27.9%に上っている。

取引関係を規制する社内ルールを

 このような状況にたいして、「社内のルールがあるから、何時以降の依頼は受け付けない」や、「新たな依頼については、最低何日の日数を要する」といった制約を設け、顧客との公正で適切な取引関係を築くことができれば、話は変わってくるだろう。

 顧客や取引先との間に、「自社のルール」を盾として打ち立てることで、労働者は自分たちを守ることもできる。こうした働く上でのルールは、労働法などの法律とは直接に関係ないから、労働者自身が会社と交渉して、形作っていくしかない。だが、何も1人で立ち向かう必要はない。

 こうした交渉事は、労働組合(ユニオン)を通じて行うことができる。自分たちの働き方そのものを、よりよいものに変えていくことだってできるのだ。

 実際に、ユニオンを通じて、デザイン業界で働く労働者が、「定時以降の依頼は、基本的に当日作業としないことを、事前にクライアントに伝える」や「定時以降に作業が多く及ぶと事前にわかっている事案は、基本的には受け付けない」といった、クライアントに対するルールを作成させた事例も存在する。

 多くの職場に蔓延する長時間労働に歯止めをかけ、労働者自身が自分たちの働き方を「デザイン」していくためにも、ぜひユニオンを活用してほしい。

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NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

NPO法人「POSSE」代表。年間5000件以上の労働・生活相談に関わり、労働・福祉政策について研究・提言している。近著に『賃労働の系譜学 フォーディズムからデジタル封建制へ』(青土社)。その他に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。流行語大賞トップ10(「ブラック企業」)、大佛次郎論壇賞、日本労働社会学会奨励賞などを受賞。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。専門社会調査士。

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