日産、新型リーフ発売 電気自動車はパソコンのようになるのか?「コモディティーにはならない」と日産社長
日産自動車が電気自動車(EV)の「リーフ」をほぼ7年ぶりにフルモデルチェンジして10月2日から国内で発売する。海外でも来年1月以降、欧州や米国で売り出す。ディーゼル車の排気ガス問題を契機にして欧州ではEVシフトの動きが速まり、米テスラも今年に入り、量産EV「モデル3」を売り出した。EVが自動車業界を熱くしている。
ドイツで約130年前に誕生した自動車が大きく変わろうとしている。モーターと電池が中核部品となれば新興企業が自動車業界に参入し、クルマがコモディティー(汎用品)になるという見方もある。クルマもパソコンなどのデジタル家電のような存在になっていくのだろうか。
トヨタ自動車の豊田章男社長は8月4日のマツダとの資本提携発表の席で「未来のクルマを決してコモディティーにしたくない」と話した。その背景にはクルマの電動化が進めば性能面で差別化が難しくなるという見立てがあるからだ。6日の日産リーフの発表会では西川廣人社長は「コモディティーにはならない」と言明。開発担当の坂本秀行副社長も「ガソリン車などよりも自動化技術などやれることが多くなり、(メーカーごとに)やれるかどうかでむしろ違いが出てくる」と言った。既存の自動車メーカーが新興勢力に対して「クルマの世界は甘くないぞ」と牽制球を投げた形だ。
格段にアップした性能
新型リーフと先代リーフを比べると様々な点で進化した。出力は38%増の110kWへ。懸案の航続距離は2010年モデルの200キロから2倍の400キロ。2015年モデルの航続距離280キロから比べても42%長くなった。リチウム電池の体積はほぼ同じだが、エネルギー密度は2010年モデル比67%アップした。
こうした改善は、電池材料の進化や電池とモーターとの連携を効率よくする制御技術の改善、空力性能アップのための車体設計、車体の軽量化と足回りの工夫といった機械工学や制御工学、材料工学など多数のエンジニアの知恵の集大成だといえる。パソコンのようにCPUとディスプレー、キーボードを組み立て、ソフトウエアを入れれば、ほぼ同じような機能が引き出せる「モジュラー型」の製品ではない。リーフの進化の歴史をみるとガソリン車やディーゼル車などと同じように様々なノウハウを微妙に組み合わせて最適解をつくる「すり合わせ型」の製品だったのだ。
排気ガスの規制をクリアしなければならないガソリン車などに比べ制約が少なくなった分、EVは坂本副社長の指摘するように「やれることが増えた」ようだ。アクセル操作だけで発進、加速、減速、停止、停止保持ができる「e-Pedal」を新型リーフは標準装備した。普通のクルマで使われている摩擦ブレーキとハイブリッド車やEVで使われている回生ブレーキをスピードなどに応じて精緻に組み合わせて生まれた仕組みだ。自動車開発に長く携わっていたからこそできた「すり合わせ技術」である。
既存メーカーや中国などの新興勢力が多くのEVを市場に投入している。西川社長は「新型リーフに乗ってもらえれば、他のEVとの差が分かる」と話す。
クルマは1トンを超す鉄でつくった車内空間に人を乗せ、地上を時速100キロ以上の高速で走る機械である。クルマに求められる安全性や信頼性はパソコンやスマホなどのIT機器のレベルをはるかに超える。そう考えれば今しばらくはEV時代になったとしても既存の自動車メーカーの競争優位性は一朝一夕には崩れないと思う。
100年前にも群雄割拠
もちろんクルマがこの先、微妙な乗り心地が決定的な競争条件ではなくなる移動手段になるかもしれないし、既存の自動車メーカーが得意ではないITやソフトウエアが商品価値を決定づける競争力の源泉になるかもしれない。自動運転などの進展を考えると、その兆候はすでに出ている。確かに先行きは何が起こるか分からない。
19世紀末にカール・ベンツとゴットリーブ・ダイムラーがガソリン車を発明し、欧米では数多くのベンチャー精神を持った起業家たちが群雄割拠した。だが100年の年月を経て、世界の自動車産業で生き残ったのは、そのほんの一部だった。同じことが、電動化が進む21世紀の自動車産業でも起きるのだろう。
西川社長は言う。「EVは19年、20年、21年と新規参入は増えテイクオフするだろう。だが、20年から25年の5年間でどれだけのメーカーがついていくのか、という段階になる」
おそらく100年前に起きた群雄割拠が起きるだろうが、この先、何十年、100年と生き残り、クルマづくりへの改善に向けた極めて厳しい競争が続く自動車産業に踏みとどまる企業は少数だと歴史は教えてくれる。歴史に学べばその結論が出るまでの時間は20年もかかるほど長くはない。