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コロナ騒動で苦境の航空業界/現場の頑張りで「いいね!」50万超えのスカイマーク/危機が生む知恵!

安井孝之Gemba Lab代表 フリー記者
スカイマークの新千歳空港ではお客様を熊の置物が迎えてくれる。(筆者撮影)

「大変な時ですが乗ってくれてありがとう」

こう書かれた横断幕を首からぶら下げ、ヘルメットにつなぎ姿の手荷物搬入・搬出などの担当者が航空機に向かって手を振っている様子がツイッターで話題になっている。手を振っているのはスカイマーク千歳空港支店ランプ管理課の木下崇さん。

それを見た「おぽおぽ」さんは、ツイッターで「空港も飛行機の中もガラガラだったけど、このメッセージ見てちょっとグッときたよな。ほんとに今、経営的に大変なんだな、と伝わってきた。キャンセルも無料やのにこの心配りはすごいな。」とつぶやいた。つぶやきから3日後の10日夕の時点で「いいね!」は52万4000を超えた。

 

国内線も搭乗率50%割れか

 中国湖北省武漢市から世界に広がった新型コロナウイルスは航空業界を直撃している。国際線だけでなく、国内線もイベントの自粛や不要不急の出張などの取りやめで搭乗客は激減している。特に感染者が急増し、緊急事態を宣言した北海道の新千歳便は全日本空輸(ANA)や日本航空(JAL)、AIRDOがすでに減便し、スカイマークも13日から減便する。最近の搭乗率は国内でも50%を割っているとみられている。機体の大きさや路線によって異なるが搭乗率が7割を切れば、採算割れになる恐れがあるといわれる業界だけに航空各社はお客の確保に必死だ。

 

「いいね!」の取り組みは5年前から

 スカイマークの千歳空港支店の雪田誠支店長は「ランプ管理課の取り組みはこれまでずっと続けてきたものですが、こんな状況の中でご搭乗くださったお客様に感謝の気持ちを伝えたいと社員らが新しい横断幕をつくったのです」と話す。冒頭の「乗ってくれてありがとう」の横断幕は4日から掲げられ、SNSで紹介されたのは7日だった。

 スカイマークが新千歳空港を出発する飛行機に対してランプ管理課の作業員らが横断幕を掲げ、手を振り、そして一礼をするのは今回の新型コロナウイルス騒動で始まったわけではない。お客様に対する感謝の気持ちを表したいという従来の取り組みを続けているだけなのである。

横断幕にはいろいろなバージョンがあり、「お客様や季節に合わせて選びます」(木下さん)。(筆者撮影)
横断幕にはいろいろなバージョンがあり、「お客様や季節に合わせて選びます」(木下さん)。(筆者撮影)

 お客がグッときたのは、この取り組みが急ごしらえのものではなく、押しつけがましくない自然なものだったからではないかと思う。

 筆者は実は3日に新型コロナウイルス問題とは別の取材で、雪田支店長やランプ管理課の木下さんらに会っていた。少し話は古いが2015年1月に経営破綻したスカイマークが破綻後、どのように再生に向かったかという取材だった。

 

経営危機でアイデア出し合う

 当時、支店の総務課長だった雪田支店長やランプ管理課に所属していた阿部泰久グループ長、木下さんらによると、破綻直後の千歳空港支店は危機的な状況が続いていたという。新千歳便は航空各社が乗り入れる競争が激しい路線である。破綻企業となったスカイマークは他社の草刈り場になりかねない状況で、何とかお客様を引きとめる手立てはないかと支店に働く各部門の社員たちが知恵を出し合ったという。

 最初に始めたのが、手荷物引取所のベルトコンベヤにメッセージと一緒に熊の置物を乗せ、荷物を待つお客様に喜んでもらおうとしたこと。今もそれは続いており、熊の置物の前には「本日のご搭乗ありがとうございます。寒い日がまだまだ続きますので くれぐれもお身体にお気を付けてお過ごしください」とメッセージが添えられている。この熊はハロウィンでは仮装をし、クリスマスにはサンタ姿となる。この取り組みも5年前にSNSで話題になった。

 ランプ管理課の仕事は飛行機の地上での誘導に加え、出発するお客様の手荷物を飛行機に積み込み、到着便から手荷物を素早く手荷物引取所に運ぶことだ。新千歳空港の場合、到着便のドアが開き、お客様が手荷物引取所に来るまでおよそ6分かかるという。ランプ管理課の作業員はお客様がベルトコンベヤの前に立つのとほぼ同時に手荷物を流し始めることを目標に作業を改善したという。今では「6分」がほぼ守られるようになった。取材した3日にも、ベルトコンベヤの手荷物の先頭に置かれている熊の置物を、お客らがにこにこしながらスマホで写真を撮り、手荷物を取っていく姿がみえた。

 

裏方でもお客様と心が通じ合える!

 お客様の満足度を上げるとともにお客様への感謝を示す取り組みが、もっとないかと考え、思いついたのが横断幕を掲げて、お客様を見送ることだった。5年前の発案者は木下さんだった。

 「ランプ担当者は本来、お客様と接することはありません。どうしたらいいかと考えました。手荷物を飛行機に積み込んだら私たちの仕事は終わりです。昔は運び終えたら、事務所に戻り、次の便まで待っていましたが、その間にお客様に感謝の気持ちを表せないかハタと気がついたのです」

 

5年前からボーディング・ブリッジに向かって横断幕を見せて、手を振っている。(筆者撮影)
5年前からボーディング・ブリッジに向かって横断幕を見せて、手を振っている。(筆者撮影)

 木下さんらは手作りの横断幕をつくり、ボーディング・ブリッジから見える場所で手を振ってみた。それに応えて、手を振ってくれるお客様がいた。うれしかった。裏方の仕事だったがお客様と心が通じ合えることを実感できたからだ。その様子は、今回のようにSNSで紹介されることがたびたびあった。「高校生の修学旅行では高校生向けに工夫をするなどいろいろな横断幕をつくりました」と木下さん。

 

危機こそ「火事場の馬鹿力」生む

 スカイマークは5年前、経営破綻後の危機的な状況の中で様々な部門の社員らが知恵を出し合い、新しい取り組みをはじめ、企業再生への歩みを進めてきた。スカイマークの場合、パイロット、客室乗務員、地上勤務の旅客担当や整備などの担当者らがすべて正社員で、職種の壁を越えて意見を出し合える風土があったことが幸運だった。

 経営危機であろうが、今回のような感染症や災害などの危機であろうが、それに対処する方策のヒントは、お客様との接点やサービスやモノをつくり上げる現場にこそあるに違いない。しかも危機であるからこそ「火事場の馬鹿力」のような知恵が生まれると信じたい。

 飛行機が定時に出発した率である「定時運航率」で2017年度と18年度の2年連続で国内No1を果たし、再生への道を歩んでいるスカイマーク。新コロナウイルスという新たな危機を迎え、現場の頑張りで再び、危機を乗り越えることができるのか。スカイマークは正念場を向かえている。

Gemba Lab代表 フリー記者

1957年兵庫県生まれ。早稲田大学理工学部卒、東京工業大学大学院修了。日経ビジネス記者を経て88年、朝日新聞社に入社。東京経済部、大阪経済部で自動車、流通、金融、財界、産業政策、財政などを取材した。東京経済部次長を経て、05年に編集委員。企業の経営問題や産業政策を担当し、経済面コラム「波聞風問」などを執筆。2017年4月、朝日新聞社を退職し、Gemba Lab株式会社設立、フリー記者に。日本記者クラブ会員、東洋大学非常勤講師。著書に「2035年『ガソリン車』消滅」(青春出版社)、「これからの優良企業」(PHP研究所)など。写真は村田和聡氏撮影。

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