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日本代表ジェイミー・ジョセフヘッドコーチ、2020年からどうしますか?【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
引き続き『ONE TEAM』を形成(著者撮影)

 昨秋のワールドカップ日本大会で8強入りしたラグビー日本代表のジェイミー・ジョセフヘッドコーチが1月29日、都内で親交のある藤井雄一郎強化委員長とともに会見した。ジョセフは大会後、4年契約を締結し、先週、母国ニュージーランドから来日している。

 報道陣からは2020年以降の強化指針に関する質問などが飛んだなか、指揮官が強調したのは「ストラクチャー」。国内シーズン日程に関する改善策についてだった。

 以下、共同取材時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

「(契約継続の)理由はシンプルに2つ。ひとつは日本を愛していること。日本の選手、日本人の考え方を愛している。ふたつめはこの仕事を続ける責任があると思ったから。これまでと同じように日本のラグビーの強化を続ける必要がある。

 もちろん日本代表は強くあり続けなければならないが、そのための優先事項として考えるべきは選手のウェルフェアです。大会の仕組みそのものを整理していかなければいけない。十分なプレー機会を与える一方、ラグビーから離れたり、リコンディショニングをできるようにしたり。そうすることで、力を最大限発揮できるようになる。そこを整備したい。

 昨季のワールドカップの結果は『選手の取り組み次第でやろうと思ったことが成し遂げられると証明されたもの』と言えます。

 トップリーグのストラクチャーややり方は考え直さなきゃいけないが、私自身としてはいま現在の1~5月というトップリーグは、タイミングとしては適正だと思っています。テストマッチ(代表戦)スケジュールとの衝突がないので、選手は国内リーグを終えて、リコンディショニングを経て、テストマッチに臨み、チャンスがあれば11月のテストマッチに…と言うことが描ける。

 私が来日した2016年当時はスケジュールの衝突がありました。トップリーグ、スーパーラグビー、テストマッチのスケジュールは機能していなかった。大会ストラクチャーは十分に考える必要がある。

 こうしたストラクチャーさえ機能すれば、私たちはベストパフォーマンスを発揮できます。日本ラグビー全体のレベルアップにつながるはずです。

 昨季のラグビーW杯日本大会成功が様々なプラス要素をもたらしたが、課題も生んでいる。

 

 そのひとつはプレーヤーのやりたいという気持ちが芽生え、選手たちへの(各国からの)需要が高まっていること。昨夜、松島幸太朗がフランスに行くというリリースが出ました。他の選手にもそういったこと(海外挑戦)が出てくると思っています。適切な選手が適切なタイミングでそうした機会を得て、その選手が違う文化、違うコーチングのもとでスキルセットを得て、磨いていくことは素晴らしいことだと感じていますが」

――ジョセフヘッドコーチはいまのトップリーグの日程が「適切」とおっしゃっていますが、トップリーグは今後、発展的解消の道を辿ります。新装された国内リーグは2021年以降、秋からの開幕に戻りそうです。それについてはどう考えますか。

「まずひとつ申し上げたいのは、トップリーグと代表チームの活動との間で、スケジュールがクラッシュしないということ(が重要)。

 2016~19年にかけ、我々はスーパーラグビー(国際リーグ=日本のサンウルブズが参戦)で7月までプレーし(その間、6月にはテストマッチ)、8月から11月までトップリーグをして、11月にテストマッチがあった(12月以降にトップリーグ再開)。これは長く続かないストラクチャーだと思っていました。

 いまのトップリーグの日程は1~5月。それが終われば代表選手はテストマッチに集中できると思います。今季について言えば7月、11月にテストマッチが予定される。代表チームとしてはここへの準備をしていかなくてはいけない。スケジュールの衝突のないこの状態は私としてはいいと思っています。

 ひとつ心配を申し上げると、昨年まであったスーパーラグビー(サンウルブズ)がなくなること。スーパーラグビーは選手たちにとってハード、タフな試合を経験させられる貴重な機会。これがテストマッチの準備に向けて大きな利益を与えていました」

――サンウルブズは2020年限りでスーパーラグビーから除籍されます。これを前提に、テストマッチ以外の場でどんな国際経験を積ませたいと考えるか。

「そこに関しては、2019年にやっていたことと近い部分があるが、いま行われているトップリーグが終了次第、我々は合宿を行う。これは去年の宮崎合宿のようなものになる。そして、準備のためには(テストマッチの前に)ウォームアップゲームが必要。これが理想の形とは言えないが、この2点が最低限必要なもの。

 また、トップリーグの試合のなかでも各自がテストマッチを意識し、テストマッチのような試合をして欲しいと思います。藤井さんにもこのあたりをお話しいただくのがいいかもしれません」

 マイクを渡された藤井強化委員長が、こう補足した。

「代表強化では、いままでサンウルブズを使ってきた。できる限りジェイミーのやりたいラグビーを海外のチーム(を相手)にできたのが、今回のワールドカップで成功した要因になっている。皆さんもそう理解いただいていると思います。

 いまからはトップリーグがどのレベルまで上がるか、また、本当に国内だけでいいのか(を考える)。それでなければ、(他の活動と)バッティングしないようにして海外に行くなりして代表を強化しないといけない。

(新リーグへの移行に関する話し合いに時間がかかったからか)まだはっきりトップリーグの日程がここだと確定していなかったので、その辺のプランは引き続き(考える)。ただ、ジェイミーはそのような形(テストマッチ以外の場で国際経験を積ませることか)が強化に必要だと(思っている)」

 改めて、ジョセフが質疑に応じる。

――日本代表は今年6~7月、ウェールズ代表、イングランド代表という強豪とテストマッチを行います。チームの編成方針、ゴール設定について聞かせてください。

「最初の点(チームの編成方針)ですが、トップリーグのシーズンが始まって少しというところで、選手を見始めたところ。数名の選手は再評価をして、ここから選手を見ている。過去3~4年で成長した選手の評価を続ける一方、いまのトップリーグで新たな選手が出る可能性もある。いま具体的に選手名をというわけではない。

 7月のゴールは言うまでもなくテストマッチ。代表チームのヘッドコーチとしてティア1(強豪国)とのテストマッチを3試合やりたかった。11月(日本大会で戦ったアイルランド代表、スコットランド代表と対戦)を踏まえ、そう感じる。

 ティア1相手に3試合。その準備のできるストラクチャーが必要。ワールドカップ前に我々がやって来たことは機能してきたので、準備の面で違うことをしなくてはいけないことがあると、難しくなると思います」

――4年前からセットプレーを介さないアンストラクチャーの攻防に手を付けた。次の4年間はどこを強化したいか。

「4年前のヘッドコーチの就任会見のことは覚えています、その時にアンストラクチャーに触れたことも覚えています。いまはもう皆さんも選手もよくわかって下さっていると思いますし、選手も理解していると思うが、当時は機能したところと機能しなかったところがある。選手がなかなかわかりきっておらず、いつ蹴るか、蹴らないかの落とし込みに時間のかかった部分もあったが、やることに自信を持つこと、自信を持ってスペースにボールを運ぶことが大事だと実感しました。

 ワールドカップでは蹴り過ぎて再獲得に苦労する場面がいくつかあった。そこを少し磨いていくというところでは、さらにハードなコリジョンなどが練習における課題になると思う。今年はワールドカップが終わって1年目。選手のコンディショニングを含め、6月にティア1レベルに勝つことレベルに持っていくのは大きなチャレンジになる。

 コーチングチームにとって大きな時間が取れるなか、トップリーグ側と代表チームとアライメントを取ったストラクチャーが本当に大事です。

 ラグビーのゲームは変わり続ける。大枠でいままでと違ったことをやることはないが、やることを信じながらゲームに合わせて変わっていくことも必要。トニー・ブラウンが本当に大きな献身をしてくれたが、これからも大事な存在になる。彼らと戦略を考えるのが楽しみです」

――高校、大学にもポテンシャルのある選手が育っている。次のワールドカップに向け必要な存在の彼らに、どんな経験を積ませるか。

「大学レベルにもいい選手がたくさんいて、トップリーグで活躍している若い選手もいる。大学ラグビーのレベルは、いきなりティア1と戦うのに十分かはクエスチョン。そこを含め、積み木のように積み重ねる必要がある。またストラクチャーの話になるが、これまではサンウルブズの経験値が重要になっていた。今年はサンウルブズで早稲田大学の選手などが入っている。

 若い選手に期待をすると、昨年のワールドカップで日本がどんなプレーを目指すか、どんなスキルが求められるか、どんなセレクションがされているかを、彼らは彼らの目で見たと思う。そのうえでトップリーグが見られていると感じている(と思っているはず)。我々はこれまでと変わるわけではなく、同じ方針で、可能性を見出す選手がいれば見て行く、強化していくということになります」

 問答を通して再認識させられるのは、日本代表がワールドカップまで時間をかけてチームを熟成させてきたという史実である。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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