【駅の旅】津軽の荒波を眺める露天風呂の最寄駅、なんと男女混浴だった!/JR五能線艫作(へなし)駅
五能線は荒々しい海を眺める絶景路線
ある冬の夕方、東能代から乗った普通列車は、日が暮れてから艫作(へなし)駅に着いた。途中で車窓が闇に包まれたのは残念だが、五能線のハイライトはこの先、深浦から鰺ヶ沢(あじがさわ)にかけてなので、翌日、ゆっくりと堪能することにしよう。
五能線は、奥羽本線の東能代から弘前に近い川部までを結ぶ147.2キロの長大なローカル線である。奥羽本線が内陸部を走るのに対して、五能線は津軽の荒波を見ながら走る絶景路線なのだ。だが、運転本数はきわめて少なく、艫作(へなし)駅に停車する普通列車は、上り(東能代方面行き)4本、下り(深浦・川部方面)5本のあわせて9本しかない。
この小さな無人駅で降りた客は、筆者と、同行の旅の友とのおじさんふたりだけである。今宵の宿、「黄金崎不老ふ死温泉」までは、徒歩でも15分ほどの距離だが、雪の夜道を歩くのは難儀なので宿に電話してクルマで迎えに来てもらう。宿に着くと、早速、津軽の海で採れた魚介類中心の飾らない漁師町の料理に舌鼓を打つ。
この宿の名物は海辺の露天風呂だが、日没までしか入れないので、夜は内湯に浸かり、楽しみは翌朝にとっておくことにする。
(なお、宿のHPには最寄駅は艫作の一駅東能代寄りにあるウェスパ椿山駅となっている。この駅には、艫作には停車しない五能線の人気観光列車「リゾートしらかみ」が停車するため、そのように案内しており、リゾートしらかみの到着時刻には送迎バスが来る。だが、駅名になっている「ウェスパ椿山」という観光施設は経営不振により、昨年(2020年)10月に閉鎖されてしまった)
海辺の混浴露天風呂に三人の女性!?
翌朝、6時半に起き、海辺の露天風呂に入ろうと思う。旅の友と一緒に浴衣の上から丹前を身にまとい、海岸に向かうと、風が肌を刺すほどに冷たい。
「うわっ、これは相当、勇気がいるなあ。中の風呂で温まってからにしよう」
そこで、私たちはまずは内場に向かった。内場の外にも露天風呂があるので、まずはそこで寒さに体を慣らす。そして、2度目の挑戦。宿の建物から露天風呂のある海岸までは約50メートル。内場に浸かって少しは体が温まったとはいえ、脱衣場は屋根もなく吹きさらしである。小走りにそこまで行くと、なんと裸の3人の女性が、正に浴衣を羽織ろうとしていたのである。つまり、混浴だったのだ!
びっくりして後ずさりすると、
「あ~ら、男が来るのを待ってたのよ~、もっと早く来ればよかったのに!」
と、おっしゃる。ただし、彼女たちは推定70代。混浴風呂の隣に女性専用の風呂があるのに、あえて混浴に入るおばあちゃんたちは強いのである。彼女たちが去るまで、私たちは裸になる勇気がなかった。丹前を着ていても、凍てつくほど寒い。3人がいなくなってようやく裸になると、すぐさま、茶色の湯船にドボーン。と同時に幸せな気分に浸ったのであった。
海辺の露天風呂のお湯は、濃い茶色である、それはまるで豪雨の時の濁流のような色だ。混浴で入ったとしても、湯に入ってしまえば、顔以外は何も見えない。背後にはドバーンと大きな波の音が間断なく聞こえる。茶色の湯に浸かりながら、真っ白な波を眺めるのは実に気持ちがいい。押し寄せてくる白波を見ていると、なんとも不思議な気分になってくる。ここはあまりに海に近いので、波浪警報が出ると閉鎖するらしいが、警報が出なくても、海は充分に荒々しい。
露天風呂には、どのぐらいの時間いただろうか。あまりの気持ちよさに、つい眠くなってくる。だが、だんだん手足の指がふやけてきた。けれども、湯から寒い外に出るのもまた、勇気が必要なのであった。
五能線の旧型ディーゼルカーは3月12日で引退
朝食後、艫作駅に向かった。途中、寒空の下に立つ艫作崎灯台が見える。同じ列車に乗る同宿の客が7、8人いるが、地元の人はひとりもおらず、50代以上の旅行者ばかり。最近、若い旅行者の姿をほとんど見なくなってしまった。あたりは松林に囲まれ、小さな新しい駅舎がぽつりと建っている。風に吹き飛ばされるのか、積雪はそれほど多くはない。空はどんよりと曇っているものの、意外に寒くないのは、朝、温泉に浸かったからだろうか。
やがて、弘前行きの列車がやって来た。乗客はあわせて10人あまり。クリーム色にブルーのラインが入った国鉄時代から走る旧型ディーゼルカーのキハ40系である。4人掛けボックスシートなのが嬉しい。ブルルルルという重々しいディーゼルエンジン音が頼もしい。だが、この3月のダイヤ改正でこの旧型車両はすべて引退し、新型のGV-E400系に置換されてしまうのは残念な気がする。
深浦を過ぎると、車窓には荒れ狂う津軽の黒い海が、どこまでも広がっていた。
【テツドラー田中の「駅の旅」②/JR東日本/五能線艫作駅/青森県西津軽郡深浦町舮作】