「学生運動」時代における一般社会の受け止め方を世論調査から確認する
1950年代から1970年代初頭にかけて行われた「学生運動」を、一般社会はどのような認識でとらえていたのか。当時の映像資料は主に学生・運動家視点で描かれたもので、状況をビジュアル的に認識するには十分なものだが、一般の人々の心境を知るには今一つ信ぴょう性の上で問題もある。そこで今回は内閣府の公式サイトで公開されている戦後の各種世論調査のうち、1968年(昭和43年)に実施された「学生運動に関する世論調査」から、その実情に探りを入れることにする。なお1968年といえばいわゆる東大紛争、日大闘争などが発生し、機動隊側でも多数の死傷者が生じている。また10月にはいわゆる「新宿騒乱」が起き、新宿駅などの機能がマヒし、騒乱罪が適用され多数の逮捕者も出ている。
今調査は1968年11月29日から12月5日にかけて、調査員による面接聴取方式で20歳以上の男女に対して行われたもので、有効回答数は2502人。男女比は1062対1440、世代構成比は20代596、30代656、40代570、50代352、60歳以上328。調査標本・有効回答数共に現在よりも若年層の比率が高い。
まずは調査当時の学生運動について、社会全般の支持に関して、回答者自身の心境を尋ねたもの。肯定派は7.1%に留まり、否定派は3/4を超えている。
緩肯定派は6.2%と肯定派のほとんどを占め、強固な支持をする人は1%もいない。一方で否定派のうち緩否定派は51.7%、強硬な否定派は1/4を超え、単純に肯定・否定との仕切り分けに限らず、拒否反応の強さがうかがえる。
当時の学生運動で行われた、主な具体的行動に関しても、否定の意志を持つ人が多い。特に他人に実力行使で影響を与える動きには、強い否定の意志が見受けられる。
今調査は「新宿騒乱」の後に行われたこともあり、とりわけ街頭や駅のデモにおける暴力行為に強い反発が生じている。もっとも他の行為においても肯定派は1割前後でしかなく、強い肯定は1%に満たない。
東大紛争などでは大学に警官(機動隊)が導入され、大学の自治と絡んで問題視される面もあったが、世間一般においては機動隊の行為への否定派は少数意見でしかなく、状況にかんがみやむを得ないとの声がほぼ半数に達するなど、肯定派が6割を超える形となっている。
「分からない」の意見が1/4近くあり、世間一般からは判断が難しい問題であることもうかがえる。
他方、法秩序を乱す、乱しかねない運動には、強い反発が社会全体として認識されているのも分かる。
法に抵触する行為への反発心は強く、行動の正当化を認める意見は1.8%でしかなく、民主主義のルールに従うべきとの意見が8割近くに達している。
最後に、回答者から見た「社会全般としての学生運動のとらえ方」。回答者自身では無く、一歩引いた観点での当時の風潮が確認できる。
運動内容に理解を示している人は2%に満たず、無関心が1割、甘やかしているように見えるのが1/4、行動そのものを理解できない人が1/3強となっている。
1950年代以降、特に1960年代から1970年代初頭における学生運動などに対し、過度に寛容的、肯定的な意見が主張され、その背景・裏付けとして「当時の運動は社会全体からも肯定的に受け止められていた、認識されていた」「社会悪に対する必要な行動を学生が率先していた」的な風潮があったとする向きがある。今件調査内容でも、学生運動の発端理由の認識としては、政治や経済、社会に対する不満や、大学の管理運営の仕方への不満が多く挙げられている。
一方で今回取り上げた項目の通り、少なくとも今調査時点では、概して世間一般では行動内容に対しては否定的であることに違いは無い。記憶の中で美化をしている当事者や周辺関係者もいるだろうし、メディアとしてもそれらの記録を取り上げた方がインパクトが強く、注目を集めやすく仕事にし易いのは事実である。しかし社会全体としてどのような見方をしていたか、そのも実情、同時に知っておかねばなるまい。
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