書店7744億円、インターネット2834億円…出版物の売り場毎の販売額推移をさぐる(2024年版)
インターネット以外はおおよそ減少継続中
昔は本屋でしか手に入らなかった出版物も、今ではコンビニやネット通販など多様なルートで購入ができる。購入ルート別の販売動向を日販の「出版物販売額の実態」最新版(2024年版)を基に確認する。
昨今では電子書籍の流通も進んでいるが、電子書籍でも少なからず取次を経由しており、一般書籍とさほど変化は見られない。直近年度分となる2023年度では電子出版物の市場は71514億円で、インターネット経由の出版物の通販(インターネット専業店を経由して販売された推定出版物販売額。アマゾン経由なども含む)を超え、当然コンビニ経由をも超える額となっている。しかしながら今記事はあくまでも「出版物」を対象としているため、数字には反映していない。
なお「その他取次経由ルート」とは生協ルート、駅販売ルート、スタンドルートの合算。昨今では駅売店の一部が大手コンビニチェーン店によってコンビニ化されているが、これはコンビニの値として計算されている。
また「出版社直販」との項目があるが、これは出版社が取次を通さずに直接販売店や読者に出版物を販売するルートを指す。具体的な例としては個人読者以外に学校や研究施設、教育機関、企業などが相当する。グラフ記載の際には、通常の販売ルートとは多少色合いが異なるため、項目順としては最後に並べている。また、2018年度分・2019年度分でそれぞれ前年度から集計方法が変更されているため、2017年度分までの値と2018年度分、そして2019年度分との間には厳密な連続性は無い。
それでは主要販売ルート別の推定出版物販売額を直近5年間の動きで見ていく。元データはもっと細かい部分まで出ているが、億円以下は四捨五入で掲載。書店ルートがトップなのは当然だが、インターネットが現時点では第2位のポジションについているのが分かる。
電車通勤をしている人にはお馴染みの駅売店を含む「その他取次経由」は、金額ベースでは257億円。インターネットルート(アマゾンジャパンや楽天ブックスなども、把握できる範囲で含む)は2835億円、構成比は21.1%。インターネット経由の出版物販売は著しい成長率を見せ、出版物販売全体に対するシェアを拡大しつつある。立ち位置としては広告業界における既存媒体広告(いわゆる「従来型広告媒体」「4マス」)と、インターネット広告のような関係と表現できるだろう。また、この5年間に限れば、インターネット以外の主要ルートのほとんどすべてで販売額が漸減している実情がうかがえる。グラフの領域には無いが、2017年度においてコンビニとインターネットとの順位が入れ替わっっており、その序列は継続中である。
長期動向の確認
より長い期間での推移を見るため、今資料にデータとして収録されている過去の分を用い、すべてのデータと直近10年度分について、積み上げグラフと全体比グラフにしたものを作成する。長期データは1973年度以降の値が取得可能だが、過去3回算出方法の変更が行われているため、変更開始年度には「*」をつけている。その前後の値に完全な連続性は無い。
なお今件では電子書籍は含まれていない。さらに2006年度まではインターネット経由の数字は「その他」項目に区分されていたが、2007年度以降は別個の項目として新設されている。出版社直販は2006年度分から新たにデータ上に反映されている(そのため販売総額が大きく底上げされている)。
算出方法の変更が行われた年度の前後で大きな変化が生じているが、それを除けば1996年度をピーク(出版社直販を加えれば2006年度をピーク)とし、それ以降はほぼ右肩下がりの販売額状況にあることがあらためて確認できる。特に算出方法を最後に変更した2006年度以降は一度も盛り返しを見せることなく、額は落ち込む一方。もっとも直近4年間は他の販売ルートでの販売額が漸減する一方、インターネットが大きく伸びているため、全体はほぼ横ばいの動きとなっている(2022年度以降はインターネットも成長が止まったため、減少を再開したが)。
戦後直後の出版ブーム期を除けば、雑誌点数は2005年前後、新刊の書籍点数は2013年をピークにようやく減少を見せ始めたが、それまでは増加の一途にあった。しかしながら販売総額はすでに前世紀末にピークを迎えていたことになる。
また取次企業の公開資料を確認する限りでは、返本率は書籍などで約3割、雑誌に至っては約4割に達している。このことから、読者側の趣向の多様化により、雑誌や書籍の販売点数は増えても1種類あたりの発行部数が減っていると見るのが推論としては正しいようだ。よく言えば趣向の多様化に対応した戦略、斜めから見れば「数撃ちゃ当たる」「ノリと勢いで新刊を出し、ロングセラー的な売り方にはあまり注力しない」的な表現が当てはまる。さらにヒットする・しないで作品の販売動向が二極化する傾向も見受けられる。
他方、書店数は減少する一途をたどっているが、それにもかかわらず、書店の販売比率(全出版物販売額比)は大きな減り方を示していない。
ここ10年では数%ポイント、もっとも古い値の1973年度との比較でも(算出方法が変わっているが)20%ポイント強の減少でしかない。これは販売「額」を見ればお分かりの通りで、書店の販売「額」そのものは減少しているものの、それ以上に他の区分、とりわけコンビニや駅売店を含めた「その他取次経由」の販売額が減少しているのが要因。
一言で表現すれば「書店以上に他の小売で出版物の売れ行きが減り、相対的に書店での販売額比率は大きな減少をしてはいない」ことになる。書店の相次ぐ閉店、そして連動する形で販売機会の減少が声高に叫ばれているが、「リアルな購入機会の減少」事案は、それ以外の場所でもっと深刻化している次第ではある。
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(C)日販 ストアソリューション課「出版物販売額の実態2024」
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(注)グラフ中の「ppt」とは%ポイントを意味します。
(注)「(大)震災」は特記や詳細表記のない限り、東日本大震災を意味します。
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