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素晴らしい映画『ルーム』(4月8日公開)。どうか予告編を見ないで!!!!

木村浩嗣在スペイン・ジャーナリスト
スペイン語では『La Habitacion』。原作となった小説もお薦め

スペインで一足先に公開中、日本でも4月8日に公開される映画『ルーム』を見た。

あえて配給会社名は書かない。検索して映画の公式サイトへ行くと、自動的に予告編が始まってしまい、この原稿の意味がなくなってしまうからだ。予告編など見ず、他人の感想などあてにせず、ぜひいきなり映画を見てほしい。

私は主演女優がアカデミー賞を受賞した、というニュースだけを頼りに見たのだが、受賞して当然だと納得した。原作の小説をすぐに買い、思い返しながら読んでいる。鑑賞したのは1カ月以上前だが、今も胸の中には小さな動揺を感じる。見た当日の夜は悪夢を見た。こんなに心を揺さぶられた映画は久しぶり。アカデミー賞作品賞の『スポットライト』も見たが、なぜ『ルーム』が作品賞に選ばれなかったのか不思議である。

30秒で前半のスコアがわかる

素晴らしい映画を見てほしいために、どこまでストーリーを明かすべきか? 映画の紹介をする者として常に葛藤がある。

私は自分が見に行く時には一切、予備知識を入れない。上映前に次に見たい作品の予告編が始まってしまう時があるが、そんな時は耳を塞ぎ目をつむる。私はサッカーのライターもしているから、結果がわかってしまっている試合を見るのがいかにつまらないかは承知している。映画の紹介は、いわば自分が先に見た試合の紹介をするようなものだから、とことん神経質になる。尊敬に値するレビューもたくさんあり読むのは大好きなのだが、その楽しみは自分が見に行った後に取っている。

さて、なぜ『ルーム』の予告編を先に見ては駄目なのか? (ここから先はストーリーには触れないが物語の構成には触れるので、これから映画を見に行く人は読むのを止めてください)

それは、見ると2部構成となっている物語の前半部分がわかってしまい、公式サイト言うところの「感動とスリル」の特にスリル部分がなくなってしまうからだ。

この映画は舞台設定自体に重要な意味がある。何かおかしい? なぜ? どうして?と自問しながらストーリーを追い、明らかになった時点で一気に謎が解ける。腑に落ちなかったシーンの何気ない一言や行動の理由がわかり、ジーンと胸に響いてくる。元に戻って最初から見直したい気持ちになる。

そういう驚きと感動が、予告編を30秒見ただけでぶち壊しになってしまう。舞台設定がすっかりわかってしまうのだ。そしてさらに見続けると、前半のクライマックス、手に汗を握る緊張の展開の結末までもがわかってしまう。

サッカーにたとえると、前半のスコアを明かしているようなものである。

この映画の後半の素晴らしさは、作品に重厚さを加えている。単なる「感動とスリル」の作品に終わっていないのは、後半があるからだ。

さすがにこの後半については予告編は謎のままにしてくれている。良かった。

映画を紹介する者の葛藤

予告編を作っている人たちは大いに葛藤していることだろう。宣伝と広報のために物語をどこまで明かすべきなのか、と。議論を重ね知恵を絞った末の予告編がこれであり、こうしたショックを和らげてくれるような、ある程度結末を見せてくれて安心感を与えてくれるような予告編のニーズは大きいのだろう。半分くらいわからないと、その作品を見るか見ないか判断できない人がたくさんいるのだろう。

予告編製作者には大いに共感する。私も映画ライターとして同じ悩みを抱えているからだ。だが、だからこそ、予告編もレビューも見る前には見ない、読まない。

『ルーム』のストーリー、特に後半部分に関しては言いたいことがたくさんある。ただ、それは見終わった後に一緒に見に行った人と話をしてほしい。私は日本での公開が終わったらレビューを書くことにしたい。

在スペイン・ジャーナリスト

編集者、コピーライターを経て94年からスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟のコーチライセンスを取得し少年チームを指導。2006年に帰国し『footballista フットボリスタ』編集長に就任。08年からスペイン・セビージャに拠点を移し特派員兼編集長に。15年7月編集長を辞しスペインサッカーを追いつつ、セビージャ市王者となった少年チームを率いる。サラマンカ大学映像コミュニケーション学部に聴講生として5年間在籍。趣味は映画(スペイン映画数百本鑑賞済み)、踊り(セビジャーナス)、おしゃべり、料理を通して人と深くつき合うこと。スペインのシッチェス映画祭とサン・セバスティアン映画祭を毎年取材

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