激震!夫の裏切りが死後に発覚~「愛人に3千万円を残す」遺言は有効か!?
夫の突然の死
高木美雪さん(仮名・52歳)は、夫・健次さん(仮名)を交通事故で亡くしました。享年55歳というあまりにも早い死でした。
美雪さんと健次さんは学生時代のテニスサークルで知り合いました。健次さんは高校時代にインターハイにも出場した腕前で、しかもハンサムで優しく、サークルの女性の憧れの的でした。美雪さんもその内の一人でしたが、引っ込み思案の美雪さんからアプローチするなど考えてもいませんでした。しかし、なんと夏合宿の最終日に健次さんから「付き合ってくれないか」と告白されたのでした。
それから交際はスタートし、美雪さんが大学を卒業すると同時に結婚しました。あれから30年、2人の子どもにも恵まれ、健次さんも入社した銀行で順調に出世しました。そんな幸せを絵に描いた結婚生活を2カ月前の交通事故は一瞬で奪ってしまったのでした。
愛人が見せた衝撃の遺言書
四十九日の法要を済ませ、「いつまでもくよくよしていたら夫に心配をかけてしまう。前を向いて生きて行こう」と少しずつですが前向きな気持ちになってある日のことでした、「ピンポーン」とチャイムが鳴ったのでドアを開けると、そこには30代くらいのスーツ姿の女性が立っていました。
美雪さんは驚いて「失礼ですが、どなた様ですか?」と尋ねると「突然ご自宅までお伺いして申し訳ございません。私は高木部長の元部下だった小西真理(仮名)と申します。大変申し上げにくいのですが、実は、高木部長と入社以来お付き合いしていました。奥様には申し訳ないので何度も別れ話をしたのですが、別れることができず、亡くなる半年程前にはこのようなものまで書いて渡されてしまいました」と言って1枚の紙をバッグから取り出して美雪さんに見せたのでした。
遺言書
私との関係を継続すれば、金3千万円を遺贈する。
令和4年4月10日
高木 健次 印
その独特の癖のある文字は、一目で亡夫が書いたものとわかりました。しかも、実印まで押しています。
続いて、その女性は、「せっかく部長が私のために残してくれたものですから、権利は行使させていただきます。改めてお伺いしますので、よろしくお願いします」と言い残して帰ってしまいした。
美雪さんはあまりの衝撃で膝から崩れ落ちてしまいました。そして、気づいた時は夫の遺影を床に投げつけて粉々にしていました。
果たして、健次さんが残した遺言のとおり、3千万円を愛人に渡さなくてはならないのでしょうか。美雪さんはただただ涙を流すしかありませんでした。
「公序良俗違反」の遺言
遺言は人の最終意思を実現するための法律行為ですから、原則としてその内容は自由に書けます(このことを「遺言自由の原則」といいます)。しかし、いくら自由に書けると言っても、その内容が公の秩序や善良の風俗(公序良俗)に反するものに対しては、法はそれに対して承認を与えることを拒絶します。そのことを民法は次のように定めています。
民法90条(公序良俗)
公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。
そして、健次さんが残した遺言状は、次の2つの理由によって公序良俗に反すると言えます。
1.妻がありながら違法な性的関係を持った。
このような性的関係は非倫理的な関係であることは疑いの余地はないでしょう。
2.このような非倫理的な性的関係を維持することがこの遺言書の目的である。
以上2つの理由からこの遺言書は公序良俗に反して無効であると考えられます。
このように、遺言自由の原則があるからといって、公序良俗に反する「不倫関係の維持」を目的とするような遺言は無効になります。あの世に逝って家族を悲しませるような遺言はくれぐれも残さないようにしましょう。
※不倫関係にある相手に財産を残す遺言でも「有効」になるものもあります。詳しくは、「こんな遺言は無効よ!」どうなる!?妻の逆鱗に触れた遺言書をご覧ください。
※この記事は、判例を基に作成したフィクションです。