下水道事業の挑戦1:現状の老朽化と将来の需要の減少の狭間で効率的なインフラ整備が問われている
未曾有の速さで進む少子高齢化を伴う人口動態の変化、その影響は様々な形で社会に影響をもたらしている。経済社会の縮小、地域社会の衰退、そして毎年1兆円単位で膨らむ社会保障給付に追いつくことが難しい国内の厳しい財政状況。そこに追い打ちをかけるかのように防衛問題、教育問題そして老朽化問題等の給付の増加に繋がる政策が後を絶たずに打ち出されている。なかでも大規模な費用を要する生活インフラ整備への警鐘は鳴りやまない。
下水道事業をはじめ生活インフラの整備といった公共事業分野では、1998年度以降、費用便益分析を含めた事業評価が導入されている。EBPM(Evidence Based Policy Making)の観点から、事業効果を客観的に把握し、PDCAサイクル(Plan-Do-Check-Act cycle)による事業展開の向上を目指すために、貨幣換算で評価する費用便益分析が推進されてきた。そこでは、公共投資の生産性効果を高めるべく、費用便益の高い事業を厳選し、全体水準の維持・向上を図ろうとしている。便益面では、事業展開が安易でかつ普及可能で、積算の客観性が担保されていることが要件となる。その財源となる費用面において、優良な先進事例を見出し、その事例をより発展させる形で事業の集約化や民間活用なども併せ持って、コスト縮減の徹底を追求している。そして、事例を一つの例として留めさせることなく、地方公共団体の横展開を促すことが求められている。
実際に、国が主体となって、実規模レベルの施設を設置し、技術的に検証するなかで、それらをまとめたガイドラインを作成し、全国展開を進めている。このような先進事例の取り組みは、下水道事業でも果敢に実施されている。その一つに下水道の点検・補修などの技術革新の導入がある。たとえば国土交通省が進めている下水道革新的技術実証事業(B-DASHプロジェクト)がある。インフラ・メンテナンスが成長分野と位置付けられるなかで、点検などの老朽化対策を中心に、新技術を活用しコスト縮減の取組が進められている。
図表で示すようにスクリーニング調査、精密診断、管路情報管理システムなどの技術がある。これら技術を組み合わせることで大阪府河内長野市では、技術1と技術2を使用し、従来のTVカメラと比べて、調査日数を60%まで削減し、それによって調査コストが54%に減少すると概算している。また技術1と技術2と技術3を連携させることで、改築方法の決定から事業費の削減そして実行可能な事業計画の立案に繋げている。その結果、工法選定による改築費削減効果は以前からの方法(管内洗浄工+TVカメラ調査+反転形成工法の組み合わせ)と比べて、衝撃弾性波対象路線の55%を実施し、その後の全量複合管設計によって12%経費を削減できるとしている。さらに衝撃弾性波対象路線の100%を実施すれば27%削減が図れると計算している。
図表 下水道事業の新技術革新
出典)国土交通省国土技術政策総合研究所「下水道革新的技術実証事業(B-DASHプロジェクト)の概要」より
そしてこれら事業を実施するうえで、予算に応じて事業費を振り分けることで実行可能なものへと繋げていく。このような点検・補修・長寿命化というプロセスをシームレスな一体プロジェクトとしてとらえることで、複数の新技術を連携させ、最適な補修方法を選択することでコスト縮減に繋がる。このような我々の日常生活には欠かすことができないライフラインとなる下水道事業の技術革新の導入は、どの地方公共団体にも求められており、地方公共団体間での横展開が重要であろう。
さらには、こうした先行事例では現場ニーズに基づいた要求水準を明示することで、企業間の競争と民間開発投資が誘発され、短期間で実装と普及を促し、コストも加速度的に縮減する。2018年度予算で導入した新技術導入促進経費を活用すれば、最先端技術の現場実証を推進し、早期に建設・維持管理コストの大幅削減もかなうであろう。
将来的に人口減少や高齢化が著しく進展するなかで、各水道事業の投資余力が低下されることが想定される故に、既にあるインフラ整備の改築や更新が膨れることを考えると、従来のやり方をただ繰り返し実施していくことは厳しいであろう。我々は、今までは既存のインフラ整備の方法を「踏襲する時代」を過ごしてきた。だがその考えに大きな変換が求められている。ただ単に「踏襲」するのではなく、新たな技術革新が進むなかで様々な選択肢を見出し、どの選択肢が客観的に最も効率的であるかを「選択する時代」を迎えるであろう。そこにはあらゆる計画のコストをすべからく明らかにし、更には、地方交付税の積算根拠に反映することによって、長期的に維持管理・更新コストの大幅な縮減に繋げるべきであろう。