弾道ミサイルへの電波妨害は無意味で効果無し
2月11日に産経新聞が「北朝鮮の弾道ミサイルを電波で妨害 防衛省が装備導入着手」「北ミサイルの電波妨害装備 抑止・防御に新たな手段」という二つの記事を報じました。しかし実際には弾道ミサイルに電波妨害を仕掛けたところで何の意味も無く、効果は期待できません。
実戦での弾道ミサイルは通信など行わない
弾道ミサイルは発射前に慣性航法装置(INS)に目標位置を入力し、発射して直ぐに推進剤を使い切り誘導も終了し、後は惰性によって弧を描く弾道飛行を行います。つまりミサイルというよりは大砲の砲弾と同じような飛び方をします。発射後に基地と通信することはありません。なにも通信しない以上、いくら電波妨害を仕掛けたところで全く無意味です。大砲の砲弾に妨害電波を浴びせてもお構いなしに飛んで行くのと同様に、弾道ミサイルも妨害電波などお構いなしに飛んで行きます。
終末誘導用にGPS誘導装置も搭載している弾道ミサイルならばGPS妨害電波を出せば多少の効果は期待できますが、弾道ミサイルにとってGPSは精密誘導の補助用でしかないので使えなくても命中精度が下がる程度でしかなく、INSだけでも大まかな位置には飛んで行けます。そして核弾頭であるならば精密誘導の必要性自体が無いので、やはり電波妨害を仕掛けてもほとんど意味が有りません。そもそも日本攻撃用のノドン弾道ミサイルはGPSを積んでいません。
なお弾道ミサイルの電子回路を焼き切るほどの高出力の電磁波(放射線)を浴びせれば無力化は可能です。しかしそれを達成できるのは核爆発くらいで、核攻撃と同義になり現実的ではありません。
通信するのは衛星打ち上げロケットないしミサイル実験
テレメトリー信号は衛星打ち上げロケットないしミサイル実験の際に出す場合はあります。しかしこれを妨害したところで実験データを基地側が受け取れなくなるのがせいぜいです。基地側が飛んで行くロケットないしミサイルの位置を把握できなくとも、ロケットないしミサイルは関係無く飛んで行きます。テレメトリー信号が妨害されたところでいきなり針路を変えて逆方向の中国に向かって飛んで行ったりなどしません。そして衛星打ち上げやミサイル実験では海に向けて発射するので間違えて大陸方面に飛んで行くなど考えられないことで、仮に指令爆破処理用の電波が妨害されたところで別に困りません。
抑止されようがないのですが・・・
そのようなプログラムが組まれているとは限らないですし、仮に組まれていても記事に書いて北朝鮮に知られてしまったらプログラムが外されてしまうので、自爆効果はもう期待できなくなりました。記事に書いて一体なにがしたかったのでしょうか・・・
ミサイル実験を電波妨害しデータ収集を困難にする効果ならば確かに見込めます。しかし実験とは当然ですが平時に行われます。まだ戦争が始まっていないのに日本が他国に電波妨害を仕掛ける、それも機材の破壊まで目論むような「攻撃」を行った場合、それは戦争を仕掛けるのと近いものになります。そのようなことを決断できるのでしょうか。ミサイル実験が日本を狙った攻撃ではない場合、憲法9条に違反しているのは明白のように思えます。
弾道ミサイルへの電波妨害は実戦時には何の意味も無く、実験時に仕掛けることは平時に攻撃を行うのに近く政治的に困難、しかも期待できる効果は実験データの取得を妨害する程度。高いリスクの割にリターンは小さく、抑止・防御に繋がることはほとんどありません。