自己防衛本能で、こうするしかない! 長時間残業から身を守る「ずる賢い知恵」
製造現場や店舗ではなく、オフィス勤務で長時間残業が常態化している組織では、「仕事の量」が多いわけでもなく、暗に「帰宅時間」が決まっているケースが多いと言えるでしょう。大事なことは「何時までオフィスで仕事をしているか」ではなく、「何時までオフィスに残っているか」なのです。要領のいい人は、この判断基準を見抜き、どこで肩の力を抜き、力を温存しておけばいいか知り尽くしています。
たとえば21時(夜9時)が『暗黙の定時』だとすると、とりあえず21時まで残っていると「あいつは仕事をしている」と周囲から見られます。22時や23時まで残っていると「あいつは頑張っている」と見られます。反対に18時や19時で帰ってしまうと、「あいつは仕事をしていない」「暇なのか」「余裕ありそうだな」と見られます。
本来優秀な人、いわゆる仕事ができる人は、他の人が時間単位で「10」こなすのに対し、「15」ぐらいの仕事量を処理します。その作業速度で仕事をこなし、定時で帰っているとしましょう。しかし長時間残業が常態化している組織の価値基準は「何時までオフィスに残っているか」ですから、「あいつは暇か」と思われ、さらに仕事量を追加してきます。
仕事ができる人は、さらに時間単位で処理する仕事量を「15」から「20」にアップさせ、仕事量を増やされても定時で帰ろうとします。仕事はできるかもしれませんが要領が悪いので力を抜かず、それこそ昼ごはんもそこそこにし、一日じゅうフルスロットルで仕事をします。それでも18時や19時で帰っていると、「まだ余裕あるのか」「意外と簡単な仕事しかしてないんだな」と上司に思われ、さらに仕事量を増やされます。
こうなってくると、どうしようもないので残業をせざるを得ません。前述した時間単位に処理する仕事量「20」の状態のまま19時や20時まで残るようになります。『暗黙の定時』は21時ですから、上司は「もうちょい増やせるか」と思い、さらに仕事を押し付け、「20」の状態――つまり他の人の2倍の作業密度の状態で――21時や22時まで仕事をすることになります。
上司や先輩が21時や22時ぐらいから飲みに行くというのであれば、それにも付き合わされ、緊張状態が抜けることなく毎日が過ぎていきます。これでは心身ともに壊れていくのは当然です。
仕事ができても、要領のいい人は途中で気付くはずです。
「このままの処理能力で仕事をしていたら、体がもたない」
……と。そこで、力の抜き方を覚えていきます。普段は「6」とか「7」ぐらいの力で仕事をこなし、とにかく21時までは毎日オフィスに残ります。そして突発的に仕事量が増えたらアクセルを踏んで「10」とか「15」ぐらいのパワーで仕事を処理するのです。帰社する時間はいつも同じ21時。仕事量が少なくても多くても『暗黙の定時』を守るよう、力の調整をするのです。これは自己防衛本能のなせる技です。
夜の9時までオフィスに残っていないと、仕事をしているとはみなされない。「そんな組織風土はおかしい」と声高に叫んでも、どうせ聞いてもらえない。それなら自分の価値観を変えるしかない、と体が覚えるのです。このようなずる賢い知恵は、長時間残業が常態化している組織で生きながらえるために必要なのでしょう。マジメすぎて心も体も壊したら意味がないと本能的に感じるからです。
『暗黙の定時』のある組織風土を壊すには、トップダウンしかありません。強制力を発揮しないと残業体質は変わらないのです。組織のリーダーに任せたり、担当者の自主性を尊重していても、決して解決には向かわないでしょう。