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帝京大が東芝戦で見せた挑み続ける者の価値とPRのラストパスに感じた「積み重ね」~ラグビー日本選手権~

斉藤健仁スポーツライター
帝京大は後半だけ見れば19-21の接戦を演じた(撮影 斉藤健仁)

「東芝の勝利はほぼ決まったかな」

2月15日、東京・秩父宮ラグビー場で行われたラグビーの日本選手権2回戦、帝京大が5-31にされた後半15分、残り時間と点差、そしてモールとスクラムで圧力を受けていた状況を考えるとそう感じた。それでも今季、大学選手権6連覇を達成し、1回戦でトップリーグのNECを破っていた「赤い旋風」の選手たちは、決してあきらめていなかった。

◇最後まで攻めの姿勢は崩さなかったが……

東芝にはワールドカップ優勝した黒衣軍団のCTBリチャード・カフィや世界有数のキック力を持つスプリングボックのCTBフランソワ・ステイン、日本代表の要の一人FLリーチ マイケルら猛者たちがいたにもかかわらず……。FWの選手たちは最後まで気持ちを切らず戦い続けた。SH流大主将(4年)は的確な判断でパスを投げ、SO松田力也(2年)、FB重一生(2年)は、相手のディフェンスのギャップに積極的に仕掛けることを止めなかった。

19歳の1年生ウインガー尾崎晟也が、右タッチライン際で見事な個人技から2人のタックルを外してトライを挙げて12-31とし、さらに1本トライを返されて迎えた(12-38)残り15分から、完全に試合のモメンタムは帝京大にあった。この時ばかりは「勇敢な狼たち」は後手に回らざるを得なかった。終盤とは思えない集中力とフィットネスを見せた帝京大は、WTB磯田泰成(4年)が2トライを挙げて24-38としてノーサイドを迎えた。

トップリーグで唯一「トップ4」から陥落したことがない、最多優勝5回を誇る東芝相手に「もう1本トライを取ったらもしや同点もあるか……」と思わせるほど見事な戦いぶりだった。だが「日本選手権はタフな試合が続くので、いつもより早目の選手交替をした」と東芝の冨岡鉄平HC(ヘッドコーチ)が指摘した点も影響したことも事実。実際には帝京大は、最後まで試合に勝つという雰囲気を作ることはできなかった。

◇「日本選手権で優勝を目指したい」(SO松田)

それでも「ブレイクダウンでは負けていなかった」とスキッパーであるSH流が言う通りの展開だった。FL杉永亮太、NO8河口駿ら「この試合で負けたら終わり」という気持ちの強い4年生は接点で身体を張り続けた。だからこそ、試合後、流は目を赤くして「(大学生活)最後の試合ということより、この試合に負けて悔しいです……」と口にした。前節はうれし涙を見せていた2年生の司令塔の松田も、この日は悔しさで頬を濡らし「日本選手権で優勝を目指したい」とまで言い切った。

滋賀県の八幡工で花園出場経験もある帝京大の岩出雅之監督は昨シーズンから、「打倒・トップリーグ」を掲げた。その意図は「学生たちは将来、トップリーグや日本代表で活躍する選手たちですから」というものだった。選手たちに自分たちで考える習慣を付けさせる。常に上を見せ続け、天狗にさせない。もっと自分から上手くなりたい、強くなりたいと思わせる――そうしたコーチとしての本能に近い、心意気からだった。どうしても「岩出監督」ではなく「先生」と呼んでしまう由縁でもある。

◇帝京大が示した日本選手権の価値とは

また帝京大がNECに勝利し、東芝に善戦したことで52回を迎えたラグビーの日本選手権の価値も改めて高まったのではないだろうか。正直、トップリーグと大学生とミスマッチの対戦は必要なのか……私も含めて思っていたラグビーファンも多いはずだ。事実、今シーズン、大学4強に入ったチームの指揮官の一人は「学生にはこの時期、テストもありますし、現在のフォーマットでは正直きつい」という感想を漏らしていた。

ただ、帝京大だけは違った。1年、いや2年かけて本気で社会人の壁に挑み続けた。その結果が、今年度の日本選手権だった。東芝の冨岡HCは「帝京大が日本選手権優勝を目指す」、つまり「日本一」という目標を聞いて驚きの表情を隠さなかった。それが多くの人の本音だろう。

しかし、大学選手権で2~3連覇の頃、帝京大がここまで強くなるとは思っていなかった人も多いはずだ。岩出監督と流主将は「積み重ね」という言葉を好んで使うように、試合に負けて悔しいという思いだけでなくフィールド上の戦略、戦術、そしてフィールド外のクラブ文化は選手が変わっても継承されていく。だからこそ、1~2年では無理かもしれないが、チャレンジし続ければもしかしたら4~5年後には……。

2月17日時点で、来季の日本選手権のフォーマッドはまだ決まっていない。2016年には日本チームのスーパーラグビーへの参戦も控える。ただ個人的には大学王者がトップリーグ勢と戦う権利は残してほしいと思う。従来のように一発勝負になるのか、トップリーグのセカンドステージ下位グループの優勝チームと最初に対戦してからトップ4と戦うのか。いずれにせよ、2019年のワールドカップを見据えた強化の場としても有益であり、来季も大学生の勇姿を応援したい。

◇PR森川のラストパス

もう一つ、今回の試合で感嘆したプレーがある。

後半38分のWTB磯田のトライは、PR森川由起乙(4年)が送ったラストパスからだった。スクラムを組み、ラインアウトでは100kgを超えるを味方をリフティングし、近場でファイトしていたPRが試合の最後に、である。また大学選手権の決勝、前半、帝京大のWTB磯田のトライはNO8河口がループプレーを見せて好機を演出していた。

「ニュージーランド(NZ)ではFWの選手たち、PRでも試合を理解してプレーしている」。そう日本との違いを述べたのは日本人で初めてスーパーラグビープレイヤーとなり、現在もNZで戦い続けている日本代表SH田中史朗だった。帝京大は流主将の代になってから、毎日30分以上のミーティングを続けてきたという。そしてトップリーグ勢と対戦する前にも試合メンバー全員でATとDFに関してのミーティングを行っていた。

ハーフ団だけでなくPRまでも試合に出ているメンバーが「一枚の絵」を共有できるからこそ生まれたトライであり、トップリーグ勢を破るという快挙も生まれた。戦略、戦術が先にあるからこそ、スキルが足らない選手は、その状況判断が必要であるスキルを自ら磨くようになる。そして、その好循環がミスの少ない強いチームを作っていく……。

PR森川のラストパスは、この1年間の「積み重ね」を感じさせた瞬間だった。

◇帝京大 日本選手権におけるトップリーグ勢との対戦の歴史

2009年度 ●5-38 NEC

2010年度 ●10-43 東芝

2011年度 ●19-86 東芝

2012年度 ●21-54 パナソニック

2013年度 ●13-38 トヨタ自動車

2014年度 1回戦○31-25 NEC  2回戦●24-38 東芝    

※関連リンク

「赤い旋風」帝京大ラグビー部の戦略、戦術の深化。9年ぶりにトップリーグ勢を撃破~第52回日本選手権~

スポーツライター

ラグビーとサッカーを中心に新聞、雑誌、Web等で執筆。大学(西洋史学専攻)卒業後、印刷会社を経てスポーツライターに。サッカーは「ピッチ外」、ラグビーは「ピッチ内」を中心に取材(エディージャパン全57試合を現地取材)。「高校生スポーツ」「Rugby Japan 365」の記者も務める。「ラグビー『観戦力』が高まる」「ラグビーは頭脳が9割」「高校ラグビーは頭脳が9割」「日本ラグビーの戦術・システムを教えましょう」(4冊とも東邦出版)「世界のサッカー愛称のひみつ」(光文社)「世界最強のGK論」(出版芸術社)など著書多数。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。1975年生まれ。

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