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「コントロール」できることさえ放棄された2020年夏。【#コロナとどう暮らす】【ラグビー雑記帳】

向風見也ラグビーライター
現職の小池百合子都知事。2019年のワールドカップ100日前イベントにて(写真:つのだよしお/アフロ)

 自分に「矢印」を向けろ、あるいは、向ける。ラグビー記者として選手から教わった哲学のひとつは、この一言に集約されよう。

 ポジション争いや大一番へ向けてひたすら自己を磨く態度を言葉にしたものだ。その延長線上で生まれる談話が、自分の「コントロール」できないことには目を向けない、もしくは自分の「コントロール」できることに集中する、といったところだ。

 指導陣がおこなうメンバー選考や対戦相手の強度に関与できない一方、自分の能力を高められるかどうかは自分次第。そうであれば自分でコントロールできる後者の領域に力を注ぎたい…。そんな思いが表れている。

 コントロールできないことだからこそ興味がわくのが人間だろう、との意見も納得できる。しかし、自分、もしくは自分たちを見つめること自体が、もっとも建設的な行動哲学のひとつであるのは事実だろう。本稿の性質上、個人名は挙げないが、ワールドカップ日本大会で8強入りした日本代表でも冷静に自己分析をしたうえで自己肯定感を高める傾向のある選手はかなり多かったような。

 現在、新型コロナウイルスの感染拡大が人々の健康と生活をむしばんでいる。特に経済活動で大打撃を受ける市民は少なくなさそうで、自治体の市民への自粛要請にはそれに相応しい保障が伴っているとは言い難い。状況を変えるためにそれぞれができること、すなわち「自分のコントロールできること」はかなり限られた。

 東京都民にとって「自分のコントロールできること」の貴重かつ希少な機会が、7月5日までの東京都知事選挙だった。ところがふたを開けてみれば、「東京都選挙管理委員会によると、都知事選の投票率は55.00%だった。前回を4.73ポイント下回った」。共同通信の電子版記事はこう伝える。

 投票率が結果を左右するかどうかを論ずるつもりはない。ただ、理由はどうであれいまこの状況下に置かれた都民の多くが自分の「コントロール」できることさえも放棄した事実には、ラグビーを取材してきた一市民としても驚きを禁じ得ない。

 ここでただ嘆かずに自分へ「矢印」を向けるとしたら、今後は取材現場で聞く「矢印」「コントロール」の談話を(不自然にならない範囲で)国民にとって不可欠なファクターとして伝えてゆく、と言うほかない。

 もちろん、本当に放っておいてよいのかどうかがわからないものを放っておかない意識の表明もまた。開票と同時に「当確」を伝える「ゼロ打ち」が問題視されない風潮はキックオフと同時に勝利チームが決まる試合と同じ。テレビメディアでの候補者討論会(4年前の都知事選時には頻繁に開催された)を十分におこなわないまま開票当日を迎えることは、4年間テストマッチを組まずにワールドカップで8強入りを目指すのと同じくらい無理があろう。現職以外の候補者にとってはなおさらだ。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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