Yahoo!ニュース

東京モーターショーでマツダがEVを世界初公開 利益の出ないEVでどう稼ぐのか

井上久男経済ジャーナリスト
マツダの新型EV開発を担当した竹内都美子主査と丸本明社長(右)=筆者撮影

 10月24日から始まった「東京モーターショー2019」。筆者は前日23日のプレスデーに取材に出向き、主要各社のブースを回った。今回の主役はEV(電気自動車)であることが一目瞭然だ。

 

ロータリーエンジンも活用

 まず、注目されるのがマツダだ。同社は「スカイアクティブエンジン」で一世を風靡し、同エンジンを搭載したSUV「CX―5」などをヒットさせて経営再建を果たした。それにより、「マツダは内燃機関にこだわり、それを進化させる会社」のイメージが定着し、電動化一色の流れの業界の中で独特の存在感を示してきた。

 そのマツダブースでの主役が、今回のモーターショーで世界初公開されたEV「MX-30」だ。公開とほぼ同時に欧州で受注を開始し、2020年から欧州での先行販売となる。日本でも販売するが、時期は未定という。

「MX-30」の仕様は、35・5kwhのバッテリー容量を持つリチウムイオン電池を搭載。航続距離は欧州での実験モードで約200キロ。見た目は、新型のSUV「CX-30」に似ており、同車と共通設計されているものと見られる。電池が切れた万一の時に備えるレンジエクステンダー(航続距離延長装置)として、将来的にロータリーエンジンを積むことも予定している。発電機としてロータリーエンジンを使う計画だ。

初の女性開発責任者

 ロータリーエンジンは構造がシンプルで小型軽量なので、クルマのスペースの広さやデザイン性を損なうリスクが低いため活用した。レンジエクステンダー用のエンジンとしては2ストロークタイプも向いており、BMWはEVに採用しているが、トランクのスペースが犠牲になっているという。

「MX-30」の開発責任者(主査)は竹内都美子氏。マツダでは初の女性の車種開発責任者だ。1997年入社で、「マツダ2(旧車名デミオ)」の副主査を務めた。社内資格の「特A」と呼ばれる高い運転技量をもっているという。運転が得意な人が開発したクルマである。

 マツダは「人馬一体」というコンセプトを重視する。クルマを馬と見立て、人が乗りやすく、操りやすく、乗っていて楽しいクルマづくりを目指してきた。この「MX-30」が、「人馬一体の完成形に近い」とマツダ幹部は説明。同社の強みであるスカイアクティブ搭載車よりも走りや乗り心地がよくなるように造り込んだことを強調した。

日産の「アリアコンセプト」

 航続距離200キロは、EVで先行する日産自動車の「リーフ」(バッテリー容量62kwh)の458キロに比べれば半分以下だ。バッテリー容量が小さいので当然そうなる。この航続距離の点についてマツダは「EVが普及するノルウェーでは1日の航続距離は50キロ程度で、環境規制が厳しい米国でも64キロ程度」と説明し、問題はないとの考えだ。実際、ノルウェー、米国ともにEVとエンジン車を併用している人が多く、長距離走行の場合はエンジン車を用いて使い分けをしているそうだ。

 日産も2台の新型EVが主役だった。中でも目を引いたのが「アリアコンセプト」と命名されたクロスオーバー型のコンセプトカー。EVの四輪駆動車であり、クルマの前後に搭載されたツインモーターによる四輪制御技術が特長だ。1万分の1秒単位でモーターの動きを綿密に制御することでレスポンスが早く、雪道など路面環境が悪くても安定走行できる。

「スーパーリーフ」とも言えるパワーアップした四輪制御のEV「アリアコンセプト」を前面に打ち出す日産(筆者撮影)
「スーパーリーフ」とも言えるパワーアップした四輪制御のEV「アリアコンセプト」を前面に打ち出す日産(筆者撮影)

国内で求められるのは軽トラEV

 モーターショーに先駆け、日産は一部報道陣向けに「アリアコンセプトカー」の技術が搭載された試作車を公開し、試乗させた。筆者も乗ってみたが、「スーパーリーフ」とも言うべきか、「リーフ」のパワーと乗り心地が増したクルマだ。カーブを曲がったり、加速したりする際に、搭乗者への負担が少ないと感じた。

 ホンダも2020年から欧州で投入するEVを公開した。各社がEVに力を入れているのは、顧客が求めているからではない。欧州で今後、企業平均燃費の規制が強化されるため、平均燃費を下げるためにEVを投入しているのだ。規制強化がEV市場を作っている一面がある。

 顧客ニーズを感じさせるEVは、トヨタの2人乗りEVだ。1回の充電で100キロ走行できる。高齢者が運転しやすいクルマとして開発した。国内市場に限ってみると、顧客の潜在ニーズが高いのは、軽トラックのEVではないかと思う。軽トラは、地方の老人の重要な「足」である。農作業にも使えると同時に、買い物など日常生活でも利用できる。

 

でもEVは儲からない

 今後、地方ではガソリンスタンドの廃業が増えると見込まれ、燃料を確保できる場所が少なくなるだろう。そうした時に、自宅で簡単にかつ短時間で充電できる軽トラがあれば便利だ。残念ながら、こうしたコンセプトはモーターショーでは見られなかった。

 

トヨタはクルマのコンセプトよりも人を中心とした「未来のモビリティ社会」を強調。豊田章男社長のキャラも目立たせた(筆者撮影)
トヨタはクルマのコンセプトよりも人を中心とした「未来のモビリティ社会」を強調。豊田章男社長のキャラも目立たせた(筆者撮影)

 各社が力を入れるEVだが、自動車メーカーの経営にとって頭の痛い問題がある。現状ではEVは利益が出ないのだ。トヨタのように1000万台の販売規模を持つメーカーでもEVでは黒字が出ないという。下手をすると、1台売るごとに大きな額の赤字が出ていく可能性もある。

 その主な要因は、電池のコストの高さだ。電池は原材料費のウエートが高いために量産効果が出づらいという。電池工場への投資も負担になる。電池でブレークスルーが起こることも、EVが普及していくためのカギとなる。

経済ジャーナリスト

1964年生まれ。88年九州大卒。朝日新聞社の名古屋、東京、大阪の経済部で主に自動車と電機を担当。2004年朝日新聞社を退社。05年大阪市立大学修士課程(ベンチャー論)修了。主な著書は『トヨタ・ショック』(講談社、共編著)、『メイドインジャパン驕りの代償』(NHK出版)、『会社に頼らないで一生働き続ける技術』(プレジデント社)、『自動車会社が消える日』(文春新書)『日産vs.ゴーン 支配と暗闘の20年』(同)。最新刊に経済安全保障について世界の具体的事例や内閣国家安全保障局経済班を新設した日本政府の対応などを示した『中国の「見えない侵略」!サイバースパイが日本を破壊する』(ビジネス社)

井上久男の最近の記事