姫路城西の丸化粧櫓で、「千姫・忠刻復元着物」特別展が催されている。千姫といえば、豊臣秀頼の妻として知られているが、２度も結婚する波乱の生涯を送った。その真相とはいかに。

■千姫の誕生

　慶長２年（１５９７）、千姫は伏見城（京都市伏見区）で誕生した。父は徳川秀忠、母は崇源院（お江：浅井長政とお市の娘）である。しかし、翌年には早くも千姫の運命は定まった。

　翌年８月、病床の豊臣秀吉は子の秀頼の行く末を案じ、何とか徳川家との関係を深めたいと考えた。

　そこで、千姫を秀頼と結婚させるため、早くも婚約を結ばせたのである。それが、秀吉の最期の言葉の一つでもあった。

　２人が正式に結ばれたのは、慶長８年（１６０３）のことである（家康が征夷大将軍になった年でもある）。

　秀頼が１１才、千姫が７才と幼かったため、この時点では婚約という段階で、長じて正式な夫婦になったのだろう。

　千姫は、伏見城から徳川家に仕える大久保忠隣（ただちか）に伴われ、秀頼のいる大坂城に入った。２人の夫婦生活を物語る史料はないが、仲睦まじい関係だったに違いない。

　しかし、慶長５年（１６００）に勃発した関ヶ原合戦では、東軍の徳川氏が西軍の豊臣家に圧勝した。その後、両家は決して良好な関係であったとは言い難かったのかもしれない。

　事実、家康は徐々に豊臣家に圧迫を加え、両者の溝は深まってゆくのである。やがて、徳川家と豊臣家の立場はすっかり逆転し、徳川氏の威勢が大きくなった。

■大坂の陣での悲劇

　慶長１９年（１６１４）、ついに両者の関係は決裂し、大坂の陣が始まった。戦いは、両軍の優劣がはっきりしないまま和睦を結び、いったん終結した。

　しかし、老獪な家康の手腕によって秀頼は追い詰められると、翌年に戦いが再開され、大坂城は落城した。

　秀頼は母・淀殿と自害した。千姫は豊臣家の助命嘆願の効果もあって、１人だけ無事に大坂城を脱出した。

　千姫が脱出した時、津和野城主の坂崎直盛によって助けられた。家康は孫娘・千姫の無事を大いに喜んだが、秀忠は秀頼と運命をともにすべきであったと対面を拒否したという。お互いに心中は複雑であったに違いない。

　元和２年（１６１６）、夫を亡くした千姫は本多忠刻と再婚した。忠刻は、姫路城主本多忠政の子だった。

　しかし、婚礼の際には、意外なハプニングが起こった。突如、輿入れの行列に坂崎直盛があらわれ、千姫を奪い去ろうとしたのである。

　これは、家康が千姫を助けた者に、妻として与えるとの約束を履行しなかったからだった。千姫を妻に迎えられなかった直盛は怒り狂い、蛮行に及んだのである。

　結局、直盛は取り押さえられ、改易処分となった（自害したとの説もある）。ただ、一連の事件については関連史料が乏しく、未だに謎が多いとされている。

■その後の千姫

　千姫は忠刻との間に一男一女をもうけたが、男子は夭折し、娘の勝子のみが成長して池田光政に嫁いだ。

　夫の忠刻は寛永３年（１６２６）に没し、千姫は落飾して天樹院と名乗った。そして、江戸竹橋に居住し、１万石を支給されている。

　幕府では弟家光が三代将軍になっており、千姫は弟のもとで厚遇された。やがて、千姫は幕閣や大奥にも隠然たる力を保持したという。そして、寛文６年（１６６６）に波乱の生涯を閉じた。享年７０。

■まとめ

　戦国時代の女性は、政略結婚に利用されるなど、ある意味で政治の道具にすぎなかった面がある。しかし、千姫は秀頼の死、再婚という苦難を乗り越えて、力強く生きたのである。