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大ヒット『ゴジラvsコング』の戦いを空想科学的に考えると、オドロキの結果に!

柳田理科雄空想科学研究所主任研究員
イラスト/近藤ゆたか

こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。さて、今回の研究レポートは……。

『ゴジラvsコング』が世界的に大ヒットだという。スバラシイ!

この作品は、怪獣の対戦を存分に描くために、人間のドラマを大胆に削ったともいわれていて、ゴジラとコングの戦いは見応え充分だった。

コングのパンチがゴジラの顔面に炸裂すると、ゴジラの巨体がグ~ッと弓なりに傾く! ぬおっ、巨大な怪獣たちが本気でぶつかり合ったらこうなるだろうなあ、と思える描写の連続で、筆者は終始こぶしを握りしめて映画を見た。エンタメに徹した楽しい映画だったのに、終わったときには肩がバリバリに……。

驚いたことに、映画では両雄の戦いにシロクロがついた。本作の原点ともいえる『キングコング対ゴジラ』でさえ、なんとなく引き分けで終わっていたから、これは意外だった。

だが、その後の展開も含めて、筆者にはぜんぜん文句がありません。というか、勝敗&その後の展開は、筆者の空想科学的な考察にも違和感がなく、その意味でもワタクシ大満足なのだ。

そこで、筆者の考察を紹介させていただきたい。映画の公式ホームページなどに記載されていたゴジラとコングのさまざまなスペックから、両者の戦いを空想科学的にシミュレーションすると、いろいろ興味深い事実が浮かび上がってくるのだ。

◆体の大きさがぜんぜん違う

両怪獣のスペックには、さまざまな項目があるが、まずは両者の体格を比較しよう。

身長は、ゴジラ393フィート(約120m)、コングは337フィート(約103m)とある。これは、なかなかの差だ。ゴジラはコングより16.5%も大きく、ゴジラを身長190cmの人間に置き換えるなら、コングの身長は163cmなのだ。

肉弾戦の行方を考えるのに体重は欠かせないが、なぜか載っていない。しかし物語の流れから、ゴジラは前作『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』のゴジラと同一個体と見られるから、体重も前作のパンフレットに記載されていた9万9364tと考えることにしよう(身長は119.8m)。

コングの体重は、現実のマウンテンゴリラから推測してみる。その直立した身長は1.8m、体重は220kgだから、コングの身長337フィートはその57倍。相似拡大して身長が57倍になる場合、体重は57の3乗=18万5831倍になる。つまり4万883t。なんとゴジラの41%しかない!

両者が対峙するシーンを見ても、この数値には違和感がない。ゴジラは胴体の前後の厚みがコングの2倍を超えているように見えるし、長大な尻尾(582フィート=約177m)もあるからだ。

すると大変である。人間でいえば、ゴジラが身長190cm、体重99kgのヘビー級ボクサーなのに対して、コングは身長163cm、体重41kgのミニマム級ボクサー。ボクシングでは、絶対に対戦が許されません。

これほど対格差があったら、肉弾戦ではコングが圧倒的に不利だろう。ゴジラ映画を観て育った筆者としては、やっぱりゴジラを応援していたのだが、この数値を見る限り「コングがんばれ」という気持ちになりますな~。

◆ボクサー830人に殴られたら!?

とはいえ、勝負というものはやってみなければわからない。いざ戦いが始まったら、どんな展開が予想されるだろうか。

まず、両者は互いを敵と認め、咆哮を上げるだろう(実際、映画でも吠え合っていた)。これについても、公式ページは「声の大きさ」というデータを公開してくれている。それによると、ゴジラの声は「最大174デシベル」で、コングが「最大170デシベル」。

あまり差がないように思えるが、デシベルは「1秒あたりのエネルギーが10倍になるごとに、デシベルが10増える」という変わったシステムになっている。するとデシベルで4の差は、エネルギーでは2.5倍(10の0.4乗)の差。ゴジラの咆哮は、コングの雄叫びの2.5倍も大きいのだ。なんと、この点でもゴジラが優勢……!

だが、コングはそんなことで怯まず、勇躍、得意のパンチを打ち込むだろう。その威力は、公式ページによると「マグニチュード4.2相当」。これはゴジラに効くだろうか?

マグニチュードは地震のエネルギーを表す指標だが、一般的なエネルギーの数値「J=ジュール」に置き換えると、マグニチュード4.2とは1260億Jである。

このエネルギーはすごい。体重あたりのダメージでいえば、前述のヘビー級ボクサーが、ミニマム級ボクサーのストレートをいっぺんに830発食らったのと同じ! いくら体重差があってもこれはキツイのでは……!? 冒頭に書いたように、劇中でもコングのパンチを食らったゴジラは体が弓なりに傾いていたが、ナットクの描写だったわけだ。

というか、あのまま連打すれば、コングが勝っちゃったんじゃないですかね。

――などと、つい不利なコングを応援してしまうが、ここでゴジラが熱戦を吐いたらどうなるか?

公式ページによると、そのエネルギー放射量は「3.15×10の14乗ジュール」。すなわち315兆J。コングのパンチのエネルギーの、なんと2500倍である。

TNT爆薬に換算すると、コングのパンチがその32t分だったのに対して、ゴジラの熱戦は7万9200t分。しかも、パンチは手の届く範囲しか殴れないが、熱戦は飛び道具……!

◆コングに勝機はあるか?

もうすっかりゴジラ圧勝というムードだが、コングに勝機はないのだろうか。

それがあるのである。ここで注目したいのは、ゴジラの血液量。なぜそんなモノが判明しているかナゾだが、公式ホームページなどには「血液量:530,000ガロン(約200万リットル)」とはっきり書いてある。

この血液の密度が人間の血液(1.056/L)と同じだとすれば、重量は2112tとなる。そして、それは体重の47分の1。人間の血液量は体重の13分の1であり、ゴリラもおそらく同じくらいだから(哺乳類は概ねそのくらい)、体重あたりの血液量はコングのほうがはるかに多い可能性がある。すると、どうなるか?

血液量が多いと、全身に送れる酸素の量が増えるので、持久力に優る! 長期戦に持ち込めば、コングにも勝ち目が出てくるかもしれないのだ。

そして、映画を観た人には思い出してほしいのだが、ゴジラとの勝負がついた後、コングは予想外の行動に出た! あれこそ、持久力に優れたコングだからこそできた活躍だったのでは!?

――そのように考えると、劇中の両者の戦いっぷりが科学的にも深々とナットクできる『ゴジラvsコング』。シンプルに面白い映画だし、世界でヒットしたのも当然だと思いますよー。

空想科学研究所主任研究員

鹿児島県種子島生まれ。東京大学中退。アニメやマンガや昔話などの世界を科学的に検証する「空想科学研究所」の主任研究員。これまでの検証事例は1000を超える。主な著作に『空想科学読本』『ジュニア空想科学読本』『ポケモン空想科学読本』などのシリーズがある。2007年に始めた、全国の学校図書館向け「空想科学 図書館通信」の週1無料配信は、現在も継続中。YouTube「KUSOLAB」でも積極的に情報発信し、また明治大学理工学部の兼任講師も務める。2023年9月から、教育プラットフォーム「スコラボ」において、アニメやゲームを題材に理科の知識と思考を学ぶオンライン授業「空想科学教室」を開催。

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