新年度 部活したくない教員5割 「学びの時間を増やしたい」
■部活動の負担が気がかりな先生たち
いよいよ新年度が始まる。学校では職員会議において新たな業務体制が発表され、新学期を迎える準備が進められる。
長時間労働の主な要因として知られる部活動指導についても、その指導体制が確定する。部活動指導を大きな負担と感じる教員にとっては、一年間の働き方を左右するきわめて重要なタイミングである。
ここ数年の部活動改革のなかで、部活動の活動実態(時間数や指導体制など)については、国の調査がその全体像を明らかにしてきた。だが、教員がはたして部活動指導の負担をどう受け止めているのか。その率直な思いについては、まだほとんど明らかにされていない。
2017年度に私が共同研究として実施した独自の全国調査からは、部活動指導に苦悩する教員の姿が見えてくる。先週、調査結果をまとめたので、まずは顧問を引き受けるという点に注目して、教員の意識の一端を、速報値として以下に示したい。
■部活動顧問 「希望しない」の選択肢なし
基本的に教員はそもそも部活動指導のノウハウを大学で学ぶことはない。つまり教員は、各種スポーツや文化活動の専門性を持ち合わせてはいない。しかもその勤務体系からは、部活動を教員の義務的な仕事とみなすには無理がある(拙稿「部活動は教員の仕事か?」)。
だが実際にこの時期に、校内で教員に配付される新年度の「顧問希望調査」(あるいは「校務分掌希望調査」)といった類いの調査票では、部活動顧問を引き受けることが前提となっている。部活動指導を「希望しない」という選択肢は用意されていない。
既存の全国調査を見てみると、過去20年の間に、中学校では教員全員で部活動を指導するという傾向が強まってきた(拙稿「拡がる教員の部活指導義務」)。
いわゆる「全員顧問制」とよばれるもので、1996年度の時点では57.0%の中学校にとどまっていたが、最新の調査(スポーツ庁『平成29年度全国体力・運動能力、運動習慣等調査報告書』)では88.4%の中学校で、全教員に部活動指導が強制されている。
■全国規模で実施した意識調査の結果(速報値)をここに初公開
教員は、部活動の指導に、平日はもちろんのこと土日も時間を費やす。しかも、それがほとんど強制的に教員に課せられている。はたしてこのような状況を、教員はどのように受け止めているのか。
私は昨年度一年間をかけて、共同研究の取り組みとして「中学校教職員の働き方に関する意識調査」と題する質問紙調査を、全国規模でおこなった。部活動指導を含む働き方について、中学校教職員の「意識」に主眼を置いたもので、全国計22都道府県の中学校を対象に、2017年11月~12月(一部、2018年1月)にかけて実施し、約4,000名から回答を得た(調査の概要は、本記事の最下部を参照)。その集計結果を、先週ようやくまとめあげることができ、その一部を発表(初公開)できる準備が整った。
ここ数年の間に国の調査により、部活動の時間数や指導体制など、そのおおまかな客観的実態が徐々に知られるようになってきた。だがその一方で、職員室のなかの声=意識は、まだほとんど明らかにされていない。
これまで、「部活動を指導してこそ一人前」といった考え方が職員室を支配(「今、『部活がつらい』という声を出せるようになってきた」)してきただけに、部活動に対する多様な考え方を見える化させることの意義は大きい。
■新年度 顧問を「担当したくない」が5割
意識調査では、「来年度(2018年度)、部活動の顧問を担当したいか」についてたずねている。
「教諭」(約2,800名)の回答結果は図示したとおり、「担当したい」が50.5%、「担当したくない」が49.5%である。職員室の意見は、見事に半分に割れている。
これは言い換えれば、職員室のなかで活発に意見が交わされうる土壌があるということである。しかしながら現実には、職員室にはそのような空気はない。先述したとおり、まるで疑う余地などないかのように、全教員が強制的に部活動指導に従事している。
そしてこの4月も、半数の先生たちは自分の思いに蓋をして、新年度の全員顧問による部活動指導を迎えることになるだろう。
■先生たちはもっと学びたがっている
意識調査においては、各種業務のなかで教員は何に時間を使いたい(あるいは使いたくない)と思っているのかについて、たずねている。
授業時間、教材研究・授業準備、部活動指導、学級経営、生徒指導、自主研修の計6項目のなかで、教員がとりわけ時間を増やしたいと思っているのは、教材研究・授業準備(63.4%)と自主研修(51.3%)で、いずれも半数を超えている。授業内容を充実させたり、教員としての資質を磨いたりするために、もっと多くの時間がほしいと考えているのだ。
他方で、時間を減らしたいと思っている業務の筆頭は部活動指導(58.2%)で、これも半数を超えている。部活動指導では、平日の夕刻に加え土日も時間を使うことが多い。これが、教材研究・授業準備や自主研修といった教員がみずから学びを深めるための機会を奪っていると見ることができる。
■管理職と保護者の理解
以上、顧問を引き受けるということを主題にして、意識調査の結果を示した。
教員の本務は、授業である。そのためには、教員は学びつづけることが必要である。半数の教員が「新年度からは部活動指導を辞退したい」と願うのも、もっともなことである。
だが不本意ながら、新年度もまたいつもどおりに、部活動顧問の仕事が自分にまわってくる。その背後には、管理職や保護者からの期待と圧力があることだろう。だから教員は、自分の思いに蓋をして、何事もなかったかのように部活動指導を引き受けていく。
数字は正直だ。教員の苦悩を、私たちにしっかりと伝えてくれる。管理職や保護者は、この教員の現状に耳を傾け、教員の部活動負担をいかに減らしていくことができるか、知恵を出し合っていくことが求められる。
【付記】
今回の記事では、計52問から構成される質問紙調査のうち、ほんの数問についてその単純な分析結果を示しただけである。今後言及すべき調査結果は、まだまだ多く残されている。引きつづき適宜分析結果を発表しながら、部活動改革をいっそう進めていきたい。
一般に、研究者が実施する大規模な社会調査のデータ分析は、所属する学会の年次大会に向けて少しずつ進められていく。そして複雑な分析までを終えたものが、調査の成果として年次大会で発表される。
このようなスケジュールでは、いま動いている事態に対応することが、どうしても難しくなる。部活動はいま改革のまっただなかにあり、そして日々その負担に苦しんでいる先生たちがたくさんいる。
そうだとすれば、簡易な分析をとおして得られた知見を、時勢に乗りながら適宜世に発信していくことが重要だと、私は考える。その意味で、今回の大規模な調査研究における情報発信の方法は、私自身の研究活動における新たな試みである。
【「中学校教職員の働き方に関する意識調査」の調査概要】
▼実施期間:2017年11月~12月(一部、2018年1月)。部活動や勤務の具体的な状況については、2017年10月時点の平均的な実態を想定して回答してもらった。
▼調査対象:北海道、岩手県、秋田県、山形県、茨城県、千葉県、東京都、神奈川県、新潟県、石川県、山梨県、静岡県、大阪府、兵庫県、奈良県、岡山県、広島県、徳島県、福岡県、佐賀県、大分県、沖縄県の計22都道府県にある公立中学校。教員数や学校数などの情報をもとに、各都道府県で複数の中学校を抽出し、当該校の教職員全員(校長、副校長・教頭、主幹教諭、教諭、養護教諭、常勤講師、非常勤講師、事務職員など)に質問紙を配布した。調査対象となった中学校数は284校で、うち221校(77.8%)から回答があった。回収できた個票の総数は3,982票である。うち、教諭は2,774票を占める。
▼回収状況:質問紙を学校に送付した時点で学校側から回答拒否の意志があった場合や、質問紙の配送確認ができなかった場合などの扱い方によって、回収率の数値が変動する。
1) 回収率:回答拒否・配送未確認等の学校を調査対象校として数える場合
回収済個票数/調査対象教職員数=3,982/8,112=49.1%
2) 回収率:回答拒否・配送未確認等の学校を調査対象校から省く場合
回収済個票数/調査対象教職員数=3,982/6,210=64.1%
▼調査対象者の特性(偏り):属性(性別、年齢)について、実際に回答した中学校教諭の状況と、全国の中学校教諭のそれとを比較してみると、その差は図のとおりわずかである。本調査における計22都道府県の回答者は、全国47都道府県における中学校教諭の状況をわりと的確にあらわしているとみることができる。
▼名古屋大学教育研究会の構成員:次の5名。
・名古屋大学大学院教育発達科学研究科 准教授 内田良
・名古屋大学大学院教育発達科学研究科 博士課程後期課程 上地香杜
・名古屋大学大学院教育発達科学研究科 博士課程後期課程 加藤一晃
・名古屋大学大学院教育発達科学研究科 博士課程後期課程 野村駿
・名古屋大学大学院教育発達科学研究科 博士課程前期課程 太田知彩
【謝辞】
このたび、意識調査の実施においては全国の多くの先生方から回答をいただくことができました。多忙ななか回答に時間を割いてくださったことに、心からお礼を申し上げます。本当にありがとうございました。一つひとつの質問紙の重さを噛みしめながら、必ずやこれを改革の進展につなげていきたいと思います。