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レーベルスタッフ&TikTok担当者が語るAwesome City Club「勿忘」のロングヒット

柴那典音楽ジャーナリスト
Awesome City Club(提供:エイベックス)

Awesome City Club(以下、オーサム)の新曲「勿忘」がロングヒットを記録している。

(「勿忘」)

1月27日に配信リリースされたこの曲は、Billboard JAPANの総合チャート「HOT100」(2月3日付)で初週54位にランクイン。そこから20位、10位と徐々に順位を上げ、8週目の3月24日付チャートで6位、3月31日付チャートで8位、4月7日付チャートで9位と上位にランクインし続けている。注目すべきはストリーミング再生回数の高さだ。Billboard JAPANのストリーミング・ソング・チャートでは3週連続(3月24日付)で2位にランクインしている。

その勢いはBillboardのグローバルチャートにも波及。「BILLBOARD GLOBAL 200」では89位(3月20日付)、アメリカ以外の「BILLBOARD GLOBAL EXCL. US」では43位(同)を記録した。

また、オーサムはこの曲を収録した新作アルバム『Grower』を2月10日にリリース。ジャズやネオソウルのテイストを絶妙に吸収しつつ、「ceremony」のような洒脱で落ち着いたナンバーから、「湾岸で会いましょう feat. PES」のような陽気なパーティーソングまで幅広く展開する一枚だ。こちらも評判を集めている。

(「ceremony」)

(「湾岸で会いましょう feat. PES」)

メジャーデビューから6年、メンバー脱退やレーベル移籍など様々な転機を経て、atagi、PORIN、モリシーによる男女ツインボーカルスタイルの3人グループとなった彼ら。その音楽性の高さ、良質なセンスでデビュー当初から音楽ファンの高い支持を集めていたが、この「勿忘」で大きな飛躍を果たしたことになる。

アルバム『Grower』ジャケット写真(提供:エイベックス)
アルバム『Grower』ジャケット写真(提供:エイベックス)

■スタッフが語る「インスパイアソング」の経緯

「勿忘」のヒットのきっかけは、興行収入30億円、観客動員数200万人を突破した大ヒット映画『花束みたいな恋をした』とのコラボだ。

とは言っても、実はこの曲は「主題歌」ではなく「インスパイアソング」。映画との関係は脚本家の坂元裕二がオーサムのファンだったことをきっかけに打診されメンバーが出演したところから始まった。主題歌は制作しない方針だったが、試写を観たメンバーが感銘を受けて楽曲を制作、それがCMや映画の予告編、YouTubeでの宣伝動画に使用された。オーサムが所属するレコード会社エイベックスの制作スタッフは経緯をこう説明する。

「最初は勝手に曲を作って、勝手に映画を盛り上げようというつもりだったんです。そこからイメージソング的な扱いで楽曲を使っていただけることになった。映画が公開前から話題になっていたこともあって、時間をかけて多くの人に聴いてもらえる環境にありました」

映画『花束みたいな恋をした』は菅田将暉と有村架純がダブル主演をつとめる恋愛映画。二人が出会ってから別れるまでの5年間を描くストーリーには、きのこ帝国やceroなどのバンド、お笑い芸人の天竺鼠、今村夏子の小説『ピクニック』、漫画『ゴールデンカムイ』など、主人公二人が愛するサブカルチャーを象徴する様々な固有名詞が登場する。

沢山の共通点を見つけて惹かれ合い、多摩川沿いの部屋に共に暮らした二人は、やがて趣味と仕事を巡る価値観の変化から、徐々に気持ちがすれ違っていく。〈願いが叶うのなら ふたりの世界 また生きてみたい〉という「勿忘」の歌詞は、そんな主人公二人の恋の結末に優しく寄り添うような一曲になっている。

「映画自体の面白さに加えて、考察要素が多いことが話題性に繋がったと思います。SNSで話題が広まったときもYouTubeの予告映像でずっとこの曲が流れていた。我々がしたのは、映画を観にいったお客さんがその後に曲を聴いてくれるための導線を整備したこと。特に映画に登場する楽曲をまとめたストリーミングサービスのプレイリストは好評でした」(制作スタッフ)

■TikTokから広がった現象

映画の話題性だけが要因ではない。楽曲のヒットを大きく後押ししたのがTikTokでのUGC(ユーザー作成コンテンツ)の盛り上がりだ。楽曲を使ってカップル同士でオリジナルのMVを作る“カップル動画”も目立ったが、特に大きな広がりをもたらしたのは、弾き語りでのカバー動画だったという。TikTok JAPANの音楽チーム宮城太郎シニアマネージャーは「目立ったインフルエンサーの動きではなく、この曲を歌いたくなったユーザーが上げた動画が自然発生的に増えていきました」と分析。メンバーもラジオなどの発言でこうした動きを歓迎、相乗効果でカバーが盛り上がっていった。

「UGCに関しては、メンバーとスタッフがLINEグループで『こんなのあったよ』と見つけあって、ほぼ全部見ていました。ツイッターのモーメント機能を使ってそれを“公式ピック”としてまとめたりもしていました」(制作スタッフ)

https://twitter.com/i/events/1357909022351892481

こうした動きを受け、オーサムは2月18日に「勿忘 Acoustic session」と題したアコースティック・バージョンの動画を公開している。

また、前後して12月に行われたワンマンライブ「Awesome Talks - One Man Show 2020 -」にて初披露された「勿忘」のライブ映像も公開。こうしたショルダーコンテンツ(関連動画)の公開が続いたことが息の長いヒットに結びついた。

もちろん曲の良さは大前提だが、単なるタイアップの露出ではなく、そこを起点にユーザー発信型のムーブメントを巻き起こしたこと、それに呼応してアーティスト側のチームが臨機応変に動いたことが、ヒットに結びついたと言える。

■アーティストとしての本格的なブレイクへ

そして現在、「勿忘」や『花束みたいな恋をした』でオーサムを知った人がYouTubeやストリーミングサービスをきっかけに「アウトサイダー」や「今夜だけ間違いじゃないことにしてあげる」や「Don’t Think, Feel」などの彼らの過去の代表曲に触れてファンになるという現象が起こっている。

メジャーデビューからここまでの6年間で彼らが沢山の名曲を生み出してきたこと、そしてバラードの「勿忘」とは違うポップなテイストを得意にしてきたことも、単なる1曲だけのヒットに終わらない、アーティストとしてのオーサムの本格的なブレイクにつながっているとも言える。

まだまだ旋風は続きそうだ。

音楽ジャーナリスト

1976年神奈川県生まれ。音楽ジャーナリスト。京都大学総合人間学部を卒業、ロッキング・オン社を経て独立。音楽を中心にカルチャーやビジネス分野のインタビューや執筆を手がけ、テレビやラジオへのレギュラー出演など幅広く活動する。著書に『平成のヒット曲』(新潮新書)、『ヒットの崩壊』(講談社現代新書)、『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』(太田出版)、共著に『ボカロソングガイド名曲100選』(星海社新書)、『渋谷音楽図鑑』(太田出版)がある。

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