Yahoo!ニュース

初音ミク16周年の「MIKU FES‘24(春)」、コーチェラ出演と北米ツアーに見るこの先の可能性

柴那典音楽ジャーナリスト
©INCS toenter Co.,ltd. / ©CFM /©SEGA

3月31日、東京・日本武道館で開催された初音ミクによるライブイベント「MIKU FES‘24(春)~Happy 16th Birthday~」に訪れた。

2007年8月31日に「16歳のバーチャル・シンガー」として発売された初音ミクの16周年を記念して開催されたイベントだ。会場に足を踏み入れてまず感じたのは、8000人が集まり満員となった客席の熱気だった。

■初音ミクの過去と今を繋ぐライブイベント

見回すと、ファンの世代は非常に幅広い。当初からのファンだけでなく、10代や20代と見られる若い女性の姿も多かった。ライブが始まり3DCGの初音ミクがステージに登場すると、全員が立ち上がりミクのイメージカラーであるブルーグリーンのペンライトを振って盛り上がる。約3時間のライブは、始終大きな一体感に包まれていた。

©INCS toenter Co.,ltd. / ©CFM /©SEGA
©INCS toenter Co.,ltd. / ©CFM /©SEGA

ステージには初音ミク、鏡音リン、鏡音レン、巡音ルカ、MEIKO、KAITOといったバーチャル・シンガーに加え、ボーカロイドを用いた楽曲を発表してきた総勢13名のクリエイターたちがかわるがわる出演した。

ライブはバンドの生演奏にあわせてバーチャル・シンガーが歌う3DCGライブパートとDJパートからなる構成だ。ライブパートではみきとP、ゆうゆ、jon-YAKITORY、40mP、cosMo@暴走P、kz(livetune)が自作曲でギターやキーボードを演奏。DJパートではpicco、R Sound Design、栗山夕璃、エイハブ、r-906、八王子P、kz(livetune)がそれぞれの楽曲を中心にDJプレイを繰り広げた。

また、はるまきごはんの楽曲に登場するキャラクター「メルティ」によく似た生命体「メルティさん」も登場。クリエイターによるパフォーマンスも見どころのひとつとなっていた。

八王子P、kz(livetune)。 ©INCS toenter Co.,ltd. / ©CFM
八王子P、kz(livetune)。 ©INCS toenter Co.,ltd. / ©CFM

セットリストの幅の広さも大きなポイントだった。ライブは初音ミクの黎明期を代表する楽曲のひとつである「みんなみくみくにしてあげる♪」からスタート。「*ハロー、プラネット。」や「炉心融解」や「初音ミクの消失」など00年代後半に脚光を浴びた楽曲から、2022年発表の「カルチャ」や2023年発表の「THUNDERBOLT」など最近の楽曲まで、様々な年代の楽曲がラインナップに選ばれた。

終盤は「千本桜」「メルト」「ハジメテノオト」と有名曲を連発してクライマックスに至り、アンコールでは2011年にCMソングとして書き下ろされ話題となった「Tell Your World」と、各地の卒業式で合唱された「桜ノ雨」が披露された。

ライブの最後、初音ミクはMCで「私を愛してくれるすべての人が、初音ミクを作るクリエイター。これからもみんなと一緒に創作の輪を広げていきたいな」と語った。ステージには初音ミクに加えてバンドメンバーとこの日出演したクリエイター全員が並び、大きな盛り上がりの中、イベントを締めくくった。

©INCS toenter Co.,ltd. / ©CFM /©SEGA
©INCS toenter Co.,ltd. / ©CFM /©SEGA

印象的だったのは、十数年前の楽曲も最新曲も同じく幅広い世代の熱狂を呼んでいたことだ。

特に若い層へのボーカロイド楽曲の人気の広まりは、2020年に配信を開始し約2年でユーザー数1千万人を突破したスマートフォン用ゲーム『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』のヒットも大きいだろう。ゲーム内では、これまでに発表された様々なボーカロイド楽曲がリズムゲームの題材としてフィーチャーされている。キャラクターとしての初音ミクだけでなく、楽曲とそれを作ったクリエイターへの認知も高まるような仕組みになっている。

この日のライブで改めて感じたのは、初音ミクが16年にわたってクリエイターと共に開拓してきた創作文化の豊かな結実だった。

■コーチェラ出演、北米ツアー、海外ボカロPの勃興

そして、その人気は海外にも広がっている。4月4日からは北米17都市を巡るツアー「HATSUNE MIKU EXPO 2024 North America」が開催され、4月12日と19日(ともに現地時間)には米国最大級の音楽フェス「コーチェラ・ヴァレー・ミュージック・アンド・アーツ・フェスティバル」にも出演が決定。10月にはヨーロッパ6都市を巡る欧州ツアー「HATSUNE MIKU EXPO 2024 EUROPE」が予定されている。

「HATSUNE MIKU EXPO 2024 North America」の模様。©CFM /©SEGA
「HATSUNE MIKU EXPO 2024 North America」の模様。©CFM /©SEGA

昨今ではボカロP出身のアーティストがJ-POPのメインストリームで活躍し、いまやボーカロイドは日本のポップカルチャーの一翼として完全に根付いている。

さらに海外のクリエイターも確実に増えている。2014年に始まった世界ツアーシリーズ「HATSUNE MIKU EXPO」が今年で10周年を迎えたことを記念して「HATSUNE MIKU EXPO 10th Anniversary Song Contest」が開催されたのだが、グランプリ曲を制作したSAWTOWNEはアメリカ在住のクリエイターだ。

準グランプリの「Wonder」を作ったODDEEOは「ボーカロイド×シティポップ」を標榜し、アメリカ・イリノイ州に拠点を置いて活動するクリエイターだ。

初音ミクとボーカロイドの創作文化は、この先もさらなる広がりを見せてくれそうだ。

音楽ジャーナリスト

1976年神奈川県生まれ。音楽ジャーナリスト。京都大学総合人間学部を卒業、ロッキング・オン社を経て独立。音楽を中心にカルチャーやビジネス分野のインタビューや執筆を手がけ、テレビやラジオへのレギュラー出演など幅広く活動する。著書に『平成のヒット曲』(新潮新書)、『ヒットの崩壊』(講談社現代新書)、『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』(太田出版)、共著に『ボカロソングガイド名曲100選』(星海社新書)、『渋谷音楽図鑑』(太田出版)がある。

柴那典の最近の記事