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元幕内・徳勝龍が振り返る幕尻優勝と「緊張した」その舞台裏 大相撲初場所では同い年の幕下・北磻磨に注目

飯塚さきスポーツライター/相撲ライター
トークイベント終了後、インタビューに応じた元徳勝龍の千田川親方(写真:筆者撮影)

大相撲初場所は今日で中日。東京・両国国技館は連日賑わいを見せているが、恒例になっている「親方トークイベント」も大盛況。16日には、元幕内・徳勝龍の千田川親方が登壇した。昨年9月場所で引退したばかりの親方は、同イベント初参加。2020年初場所の幕尻での初優勝をはじめ、現役時代の思い出や現在の生活の様子など、「NGなし」で語り、会場を沸かせた。同イベントの様子と、終了後のインタビューを独占取材でお届けする。

相撲史に残る幕尻優勝 舞台裏を明かす

北陣親方(元幕内・天鎧鵬)をMCに迎えて登壇したのは、昨年9月に引退したばかりの千田川親方。断髪式を来年、2025年の2月1日に控え、ちょんまげにスーツ姿で登場した。

徳勝龍といえば、やはり幕内で最も下の番付「幕尻」で優勝を果たした2020年の初場所。「自分なんかが優勝していいんでしょうか」と口にしたインタビューは、ファンの記憶によく残っていることだろう。当時の裏話を明かした。

「9日目で勝ち越した後、二桁いけば三賞もらえるかな、と思っていたら13日目は12勝して、もしかして優勝…?と思ったら13日目から緊張し始めました。千秋楽の前の日の夜なんか、2時まで眠れませんでした」

現役時代の徳勝龍。簡単には押されない大きな体で活躍した
現役時代の徳勝龍。簡単には押されない大きな体で活躍した写真:長田洋平/アフロスポーツ

自身の対戦の前に、優勝を争っていた正代に御嶽海が勝てば、その時点で徳勝龍の優勝が決定という局面があったが、残念ながら御嶽海は正代に負けてしまった。

「御嶽海も勝ち越しがかかっていたので、勝ってくれるんじゃないかな、頑張れ!と思って支度部屋でちらちらテレビを見ながら応援していたんですが、やっぱり他力本願はダメですね(苦笑)。自分で行かなあかんと思ったし、史上初の幕尻が結びで取るということで、とにかくいい相撲を取ろうと、逆に気合が入りました」

千秋楽では大関・貴景勝を破って見事優勝。話題を呼んだ初優勝後の反響は大きく、街を歩いていて四股名を呼んでもらえることが増えたといい、「何度も行っている馴染みの店で、初めてサインを求められました(笑)」などと笑いを誘うエピソードも披露した。

初めてトークイベントに登場した千田川親方(写真:筆者撮影)
初めてトークイベントに登場した千田川親方(写真:筆者撮影)

同い年で奮闘する北磻磨に尊敬の念

イベント終了後、千田川親方を直撃。感想や最近の部屋での様子、同部屋で活躍する新三役の宇良や、個人的に注目しているという幕下の北磻磨などについて話を聞いた。

――初のトークイベントお疲れさまでした!いかがでしたか。

「お客さんからいい質問が多くて、皆さんの相撲愛を感じました。うれしいですよね、見てくれているというのは。喜んでもらえたらありがたいです」

――人前で話すのに慣れていらっしゃるのかなと感じました。

「好きではあります。先場所は中継の解説をさせてもらって、緊張はしましたけど楽しかったです」

――いまはどんな生活をしていますか。

「朝稽古に行って指導しています。ただ、親方になって間もなくて、自分のやってきたことしかあまり言えないので、いいところを盗んでプラスにしてほしいなと思っています」

――指導する難しさはどんなところに感じていますか。

「言い方ひとつで変わることですかね。『全然ダメだ』『何やっているんだ』と否定ばかりするのは好きじゃないので、いいところを言ってあげたい。その上で、もう少しこうしたらよくなるよ、と言えるように心がけています。モチベーションを上げるのも僕らの仕事かなと思っているので」

――現役を退き、いまの生活には慣れましたか。

「だいぶ慣れてはきましたが、ネクタイがまだ慣れませんね。首が苦しいなと思っています。着物は首周りが開いていましたから」

――部屋の力士への期待は。

「関取衆は、誰に言われなくても個々に自分から進んでやることをやっています。師匠も、『関取になったら自覚をもってやらないといけない』とよく言っているので。上がるのも下がるのも自分次第。若い衆の見本になるようにしっかり取り組んでほしいですね。宇良に関しては、ケガして番付を下げてここまで上がってきたのは本当にすごいこと。そうやって宇良が“できるんだ”と示してくれたので、若い衆は見習って『俺も』という気持ちになってほしいと思います」

――部屋以外で注目している力士はいますか。

「(元幕内で現在幕下の)北磻磨さんです。兄弟子ですが同い年で、ここからまだ上がるという気持ちでやっているのがすごいですよね。同じ山響部屋の呼出し・大将さんいわく『来場所当たる位置にいる若隆景とやりたいな』と、場所前から言っていたそうです。普通は当たりたくないじゃないですか、強いんだから(笑)。そうじゃなくて強い人と当たりたいっていう心意気がすごいなと思うし、応援したくなる力士だなと思っています。みんなから愛される人なので、そういう人にはぜひまた上がってほしいです」

スポーツライター/相撲ライター

1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライター・相撲ライターとして『相撲』(同社)、『Number Web』(文藝春秋)などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書に『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、構成・インタビューを担当した横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』。

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