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大相撲夏場所「親方トークイベント」開催 元横綱・鶴竜の音羽山親方と元蒼国来の荒汐親方が語る指導の指針

飯塚さきスポーツライター
トークイベントに登壇した荒汐親方(写真左)と音羽山親方(写真:すべて筆者撮影)

波乱の幕開けとなった大相撲夏場所。横綱・照ノ富士と大関・貴景勝がそろって休場した2日目は、国技館に涙の雨が降り続いた。

そんななか、東京場所恒例となっている「親方トークイベント」に、部屋を興したばかりの音羽山親方(元横綱・鶴竜)と、若元春らの師匠である荒汐親方(元幕内・蒼国来)が登壇した。「現役時代よりも交流が増えた」と話す両親方に、最近の部屋の様子などについて伺った。

新生・音羽山部屋が始動 「弟子からの信頼が大切」と語る

トークイベントに登壇した、音羽山親方と荒汐親方。事前に集めた質問を荒汐親方が読み上げ、二人がそれに答えていくスタイルで、約45分間イベントを行った。

新しく音羽山部屋を立ち上げ、弟子の指導に奔走する音羽山親方は「指導する側も常に勉強。変わらないモットーはあっても、人や時代に合わせて柔軟に対応していくことが大切だと常に感じています」と話し、弟子とは信頼関係が重要であると話した。

「いまは部屋の人数が少ないから、みんなで食事に行ったり、コミュニケーションを大切にしています。弟子から信頼してもらうことが大切。隠し事をしないで、どんなに失敗しても、親方に話せば大丈夫だと思ってもらえるように、日頃から何でも相談してと伝えています」

トークイベントに登壇した音羽山親方。ただ稽古するだけでなく「努力の仕方を見極めることが重要」と、力士自身が自ら考えて取り組む姿勢の大切さも説いた
トークイベントに登壇した音羽山親方。ただ稽古するだけでなく「努力の仕方を見極めることが重要」と、力士自身が自ら考えて取り組む姿勢の大切さも説いた

荒汐親方もこれに同意。さらには「いまの若い子に対して、ただ優しくするだけでもダメ。言わなくても頑張りすぎてしまうくらいの子はどこかで止めなきゃいけないけど、言わないとやらない子には厳しく言わないと」と、弟子の性格や力量に合わせた指導の大切さについても語った。

また、今場所の土俵について、大関陣を「大変だと思う」と慮る一方で、「いい若手が育ってきている。熱海富士は腰の入れ方、体の預け方がいい」と褒めた音羽山親方。次期大関候補に大の里、伯桜鵬らの名を挙げるなど、期待を寄せた。

師匠の立場になってわかったこと―大変さと先代の愛情

トークイベント終了後、両親方に話を聞いた。

――今回、お二人で登壇するのは何回目でしたか。

荒汐 3、4回目かな?今回は相撲に関する質問が多かった印象です。あとは音羽山親方が新しく部屋を興したので、部屋の様子とか大関(霧島)が入ってきたとか、そういう最新情報が得られたんじゃないかなと思います。

音羽山 はい、入ってきた3人の新弟子が序ノ口でデビューして、部屋として着実に前に進んでいるかなと思います。大関が合流したことは、私にとってはもう4年くらい一緒にいたから自然なことなんだけど、若い子たちにとっては、現役の大関と一緒に稽古できる環境っていうのは非常に有意義ないい経験になっていると思います。部屋の方針としては、人として成長していかないといけないから、掃除や洗濯などもやらせて、相撲だけ取ればいいんじゃないよというのは教えています。新しいルールや取り組みも、生活しながら自然にできてくるんじゃないかな。

――未成年も所属しているお二人の部屋。どんな指導をしていますか。

荒汐 先代から私もよく言われていたけど、常にお相撲さんとして見られている自覚をもてというのは日頃から結構厳しく言っています。

音羽山 「自分なんか若い衆だから誰も見ていない」と思う子もいるんですけど、そうじゃないよと。浴衣を着てちょんまげをつけている時点でみんな見ているので、それは一番言っていますね。そういった自覚が今後のその子ができ上がっていく土台なので、意味のわからない厳しさはいらないんですが、ダメなことはダメと厳しくしていかないといけません。

――師匠の立場になってわかったことはありますか。

荒汐 私の場合、自分が弟子だったときは、親方に何度も同じことを言われると、なんで何回も言われるんだろうと思っていたんですけど、師匠になってみると、弟子は何度言っても忘れてしまうし、やっぱり大事なことは繰り返し伝えないといけないなと、ようやくわかりましたね。「同じことを言うけど、いままた忘れていただろう」と。たまに先代と食事に行くんだけど、「師匠の気持ちがやっとわかりました」って話しています(笑)。

音羽山 いま思い出す先代の師匠(井筒親方、元関脇・逆鉾)に言われた言葉は、「俺がいなくても稽古できるよね」。誰が見ていても見ていなくても、強くなりたい気持ちがあれば自発的にやるものだということです。いま同じ立場になって、深い言葉だったんだなって思い返します。あとは、どんな指導にも愛情があった。叱られるときも、理不尽なことで叱られたことは一度もありませんでした。素直に悪いことを反省してこられたので、土台の愛情というのは大切にしたいなと思いますね。各部屋で特色があっていいけど、いじめや暴力の排除に関しては、今後全部屋が足並みそろえて同じ考えで取り組んでいかないといけないと思っています。

荒汐 生身の人間同士、同じ屋根の下で24時間過ごしていたら、そりゃあトラブルは起こります。ただ、起こってから対処するか、起こる前に未然に防ぐかという話。小さな揉め事やケンカのうちは火を消せるんです。仕切ってくれる頼れる兄弟子にも「頼んだぞ、信じているよ」と日頃から声をかけて協力してもらって、対応していくことが大切です。

イベントで司会進行役も務めた荒汐親方。一つひとつの質問を丁寧に拾い、にこやかに話す笑顔が印象的だった
イベントで司会進行役も務めた荒汐親方。一つひとつの質問を丁寧に拾い、にこやかに話す笑顔が印象的だった

――お二人で、指導についてなどコミュニケーションを取る機会はありますか。

荒汐 はい。横綱は現役のときから優しい横綱で接しやすかったですけれど、当時は食事にも行ったことなかったんじゃないですか?

音羽山 ないねえ。同じ一門で、稽古はよくしましたけれどね。現役時代より、むしろいまのほうが交流ありますよ。出稽古もしょっちゅう行っていますからね。

――よい情報交換ができているんですね。最後に、今場所の展望や期待は。

音羽山 やはり上位陣が引っ張っていくなかで、若手がついていくという場所にしてほしいですね。番付の差をしっかり見せてほしい。新しい人がそれに立ち向かって、上位が壁になるという構図が望ましい。そのなかでまた記録が生まれるかもしれないし、そういう楽しみはありますね。

荒汐 若手もどんどん伸びているからね。ここ何場所も、誰が優勝するかわからない状態です。ありがたいことにお客さんがたくさん見に来てくれています。それが一番です。私たちがチケットを取れないっていうのは本当にいいこと(笑)。

音羽山 私も取れなかった(笑)。海外からのお客さんも多くて、しかも升席に座っているのがすごいよね。

荒汐 はい。今後、世界にも相撲をもっともっとアピールしていきたいですね。

スポーツライター

1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライターとして『相撲』(同社)、『大相撲ジャーナル』(アプリスタイル)などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、構成・インタビューを担当した横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』が発売中。

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