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水中で魚の健康診断や石油企業のお手伝い、泳ぐヘビ型ロボット/ノルウェー

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事
小さなプールの中をすいすい泳ぐヘビ型ロボット Photo:Asaki Abumi

ヘビ型ロボットは世界でいくつか研究が進められているが、ノルウェーにある都市トロンハイムでも水中の中をくねくねと泳ぐヘビの開発が進められている。

「スネイク・ロボット」はウナギのような動きをイメージされて、ノルウェーのイールム(Eelume)社が開発した。

ノルウェー各地では2002~2004年に火事が続発し、消防士の手助けになる手段が検討され始めた。ノルウェー科学技術大学NTNUによるヘビ型ロボットの研究は2004年にスタート。「アナコンダ」、「アイコ」、「クルコ」、「マンバ」などと名付けられた様々なヘビ型ロボットが作られた。

「大学内の研究者」と「一般的な企業や施設」の両者はつながりあっていないことが多い。研究データが大学内に留まっているのは、もったいない。だが、大学関係者たちはマーケティングなど商業的な戦略は苦手だ。研究者と企業の「橋渡し」役にと積極的になったのがNTNU。大学のロボット研究と産業界を結ぶため、イールム社がオープンされたのは2015年。

筆者がイールム社で出会ったのは「イールム」という名前がついた、顔部分が黄色、身体が白黒色のヘビだった。水中の中でギラリと光る両目が、こちらを見つめていた。

水中でモノを拾うことも可能。顔はカメラになっている Photo:A Abumi
水中でモノを拾うことも可能。顔はカメラになっている Photo:A Abumi

今回はNTNU主催の「STARMUS」という音楽と科学の祭典でまちを訪れていたため、イタリアやドイツの報道陣たちと一緒に現場を見学することができた。

ヘビは遠隔操作で動かす。ロシアのジャーナリストがお試し中 Photo:Abumi
ヘビは遠隔操作で動かす。ロシアのジャーナリストがお試し中 Photo:Abumi

水中を泳ぐヘビ型ロボットに興味を持つ企業は多く、ノルウェー国営石油会社のスタトオイルや海洋技術国営企業コングスバルグにより支援されている(ちなみにコングスバルグは排出ゼロエミッションガス貨物船の開発もしている企業だ)。

海洋事業が盛んなノルウェーで、国がヘビ型ロボット開発に興味をもつことは不思議ではない。イールムは2019年より市場へ発売が開始される予定だ。

日本にも多く輸入されているノルウェー養殖サーモンの関係者からも熱い視線が注がれているようだ。

「魚の数の確認、健康状態はどうか、ストレスになっていないか。ヘビ型ロボットがあれば簡単に調査することができます。そのような手段はこれまでもありましたが、石油・ガス産業と同様に、機器の移動には時間と手間、莫大なコストがかかってきました。ヘビ型ロボットなら、経費が大幅に削減でき、簡単に水中の様子を確認することができます」と、クリスティン・Y・ぺッテルセン教授は語る。

開発に取り組むNTNUのぺッテルセン教授 Photo:Abumi
開発に取り組むNTNUのぺッテルセン教授 Photo:Abumi

サーモンは奇妙なヘビ型ロボットにどう反応するのだろうか?「水泳が可能か確認するためにロボットをフィヨルドで泳がせたことはありますが、魚がどう反応するかはまだ調査していません。静かにゆっくりと移動するのであれば、驚かせることもないのではと思います」と教授は取材で語った。

Photo&Text: Asaki Abumi

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信16年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。北欧のAI倫理とガバナンス動向。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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