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木村拓哉主演『レジェンド&バタフライ』入門 織田信長が父の位牌に抹香を投げつけた深い訳

濱田浩一郎歴史家・作家

木村拓哉さん主演の映画『レジェンド&バタフライ』が公開されています。木村さん演じるのは、織田信長。木村さんが信長を演じるのは、実はこれが初めてではなく、1998年にTBS系列放送のドラマ『織田信長 天下を取ったバカ』でも、主演で信長を演じています。この時、木村さんは時代劇初挑戦でしたが、若い頃の信長をいきいきと演じていたのが印象的でした。

さて、これら映画やドラマでは、若い頃の信長にまつわる次のような逸話が描かれています。天文20年(1552)3月、信長の父・織田信秀が亡くなります(信秀没年については諸説あり)。

映画では、信長と父(信秀を本田博太郎さんが演じる)との交流は余りありませんが、ドラマでは信秀を夏八木勲さんが演じ、信長の良き理解者として描かれていました。

信秀の死因は疫病だったようです。祈祷や療治の甲斐なく、亡くなったのでした。信秀の葬儀は、尾張国中の僧侶が集められ、万松寺で執り行われました。葬儀には、信長も参列していましたが、その出立ちは「髪は茶筅髷、袴も着用せず」という、いつもの「うつけ」(馬鹿者)スタイルでした(『信長公記』)。

一方、信長の弟・信勝(信行)は、肩衣・袴を着用した常識的スタイルでしたので、信長の格好は目立ったことでしょう。

それだけならば、まだしも、参列する人々を驚かせたのは、信長の振る舞いでした。焼香の際、信長は抹香を掴むと信秀の位牌に投げつけたのです。今でもこのような事をしたら、非難轟々でしょう。当時の人も、信長のこの行動を見て「やはり、大馬鹿者だ」と噂し合ったようです。ただ、九州から来ていた1人の僧侶だけが「あのお人は、国持ち大名となられるだろう」と予言めいた言葉を残したとのこと。

それにしても、なぜ信長は抹香を仏前に投げつけるという破天荒なことをしたのでしょう?これについても諸説あって定説を見ていません。

信長と父・信秀との間に家督相続をめぐる確執があって、その憤懣を葬儀で爆発させたのではとの説もあります。そうではなく、信長の行為は愛情表現ではないかとの見解もあります。しかし、多くの人の顰蹙を買うような行為は真の愛情表現などではないでしょう。

ルイスフロイス『日本史』には、信長が信秀の病平癒のため、僧侶らに祈祷させたとあります。そうした事を考えた時、信長と父との間には対立はなかったと推測できます。また、信長は父が死ぬと僧侶らへの怒りを爆発させ、寺院を破壊させたとも言います。

このような事を踏まえた時、信長が仏前に抹香を投げつけたのは、父への怒りなどではなく、僧侶や仏への憤りというものではなかったでしょうか。

歴史家・作家

1983年生まれ、兵庫県相生市出身。皇學館大学文学部卒業、皇學館大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得満期退学。兵庫県立大学内播磨学研究所研究員、姫路日ノ本短期大学講師、姫路獨協大学講師を歴任。『播磨赤松一族』(KADOKAWA)、『北条義時』『仇討ちはいかに禁止されたか?』(星海社)、『家康クライシスー天下人の危機回避術ー』(ワニブックス)ほか著書多数

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