Yahoo!ニュース

ドイツワイン業界の変貌とトレンドとは?

シュピッツナーゲル典子在独ジャーナリスト
「ジョセフィンがオレンジ色の服着てる!」ユニークなラベルは集客力抜群(筆者撮影)

 日本ではイタリア産やフランス産ワインが根強い人気を集めているようだ。一方で、ドイツワインもこの15年間ほどで若手醸造家の登場やトレンディなワインラベルを用いるワイナリーが増え、目を見張る進歩がみられるようになった。

 例えば以前紹介したマルクス・シュナイダーさん。

シュナイダーワインは、名前がユニーク。彗星のごとく登場し、国内外の話題をさらっている若手ワイナリーの代表といっていいだろう。 

 ドイツワインは、13の生産地域で醸造されている。これら生産地域を地理的にみると、北緯50度前後と北海道よりもさらに北に位置する寒冷地でつくられているのが持ち味だ。

 ドイツでは白ワインの生産が圧倒的だったが、最近は赤ワインの人気も高いという。地球温暖化や醸造技術の進化により、赤ワインをつくる環境が整ってきた背景もあるようだ。とはいえ、ドイツワインインスティテュート(以下DWI)によると、ドイツ人の愛飲ワインはいまだ白が圧倒的だという。

 日本市場におけるドイツワインの販売は、2009年にDWI日本事務所が閉鎖され一時低迷していたものの、2016年より同事務所再開で徐々に人気を取り戻しているようだ。

 過去記事になるが、2012年10月のフランクフルターアルゲマイネ日刊紙で、「ワイン生産地の各代表ワインクイーンやその頂点にたつドイツワイン女王が国内外各地を訪問し、ワインの魅力を伝えているのもドイツならではでの商法で販売促進の一端を担っている」と、伝えている。

 そして2000年頃から若者醸造家が増えたこと、そしてユニークなワインラベルが市場に出回ったことでドイツワインの品質はぐっと高まり、これまでの「安くて味はまあまあ」というマイナーなイメージが大きく変貌した。

 DWI統計によれば、日本への輸出金額は世界で第7位と堅調で、一人当たり年間消費量は2,9リットル(0,75リットル入りワイン約4本だ)という。

ワイン専門家として名高いステフェン・シンドラー氏
ワイン専門家として名高いステフェン・シンドラー氏

 DWIマーケッティングディレクターそしてドイツのテレビ番組でもお馴染みのワイン専門家ステフェン・シンドラー氏にベルリンの人気ワイン販売店5店を教えていただき、ワイントレンドを探ってみた。

 1.ワインアンドグラス   ベルリン中心街ヴィルマースドルフ

旧西側ベルリンでワイン店を開いて40年経ちましたと語るオーナーのゲオルク・マウアー氏(筆者撮影)
旧西側ベルリンでワイン店を開いて40年経ちましたと語るオーナーのゲオルク・マウアー氏(筆者撮影)

  オーナーのマウアー氏は40年前、ワイン生産地ラインガウから旧西側ベルリン・ウィルマースドルフにやってきた。もともとワインやワイナリーにはなじみがあり、ベルリンでワイン販売店を立ち上げるのにも抵抗はなかったという。

 同店ではドイツ産をはじめ、イタリア、ポルトガルなどの約1200種類のワインを販売している。在庫は30万本ほど。ドイツ高級ワインが1本、10から15ユーロ(1330円~約2000円)というから、日本の価格感覚では信じられないほど安価だ。

 「中心街とはいえ、観光客は偶然立ち寄るくらい。40年間同じ場所で店を経営しているので、顧客のほとんどは地元のレストランや常連客。日本大使館の方も来店しますよ」とマウアー氏。

 2.高級老舗デパート「カーデーウェー」

最近はワイン愛好家が増え、皆さん知識が豊富ですと語るワイン部門責任者アンドレアス・リース氏(筆者撮影)
最近はワイン愛好家が増え、皆さん知識が豊富ですと語るワイン部門責任者アンドレアス・リース氏(筆者撮影)

 創業110年の歴史を持つ、老舗デパート「カーデーウェー」。ベルリンを訪れたら、見るだけでも楽しいスポットの一つだ。来客は1日5万人以上、その半分は観光客だという。

 旧西ベルリン・シェーネベルクで栄えたベルリンを代表するこのデパートの名前は、西のデパート(Kaufhaus des Western)に由来する。

 デパートの6階(日本式の7階)にグルメコーナーとワイン売り場がある。

 売り場責任者のリースさんによると近年、多様化する食文化の影響を受け、消費者の食生活や嗜好も大きく変わり、ワイン愛飲家の増加が顕著だという。

 「来客が事前にワイン品種を検索し、店ではこのワインが欲しいと明確な希望を述べる人が多くなった」 (リース氏)。

 ドイツワインは、売り場面積の3分の1を占め、800種類以上を提供。また、地下には8つのワインセラーがあり、そのうちの1つ貴重なワインが眠っているセラーを見学させていただいた。

 客層は裕福な人が多く、1本1500ユーロ(約20万円)から4500ユーロ(約60万円)の高価なワインもよく売れるという。「在庫品には1本150,000ユーロ(約2000万円)と、気の遠くなるような逸品もありますと、リース氏。

 3.ノットオンリーリースリング(シャロッテンベルク店)

同店では赤ワインの紹介に注力していますと語る副店長エレン・シャッケさん(筆者撮影)
同店では赤ワインの紹介に注力していますと語る副店長エレン・シャッケさん(筆者撮影)

 ここは、小さなワイナリーの醸造する高品質でニッチなワインにスポットを当て、販売するこぢんまりとした店。

 地域の若者に人気の同店は手頃な価格(1本6ユーロから約40ユーロ・800円~5300円)を中心とした安価かつ良品質のワインを提供している。

 「午後から夕方にかけて集う客が多いため営業時間は夜22時まで。ワインをもっと知ってもらいたいと、定期的にセミナーを行っています」とシャッケさん。

 同店の近郊にデンマーク人の所有する休暇用住宅が多いことが幸いして、デンマーク人の顧客が多いという。

 4.ワインバー「スフ」 マルクトハレ・ノイン

手頃な価格のワインを多く用意していますと語るスタッフのジョニー・ラベレンツさん(筆者撮影)
手頃な価格のワインを多く用意していますと語るスタッフのジョニー・ラベレンツさん(筆者撮影)

 クロイツベルクにある マルクトハレ・ノインは一味違った趣の屋内マーケット。

 このマーケット内のワインバースタンド「ワイン・スフ」はドイツワイン中心に、オーストリア、フランス、スペイン、イタリア、ハンガリー産など200種のワインを販売している。

 常時30種類を試飲できる。ワインの価格は、1本10ユーロ(1330円)以下が多く、上限で45ユーロ(6000円弱)ほどと気軽に買えるものがほとんどだ。

 特に「ストリート・フード・サーズディ」木曜日には店頭でワインを片手に軽食を楽しむ客で大賑わいとラべレンツ氏。 

 5. ハマーズワイン  

ワインソムリエ講師として世界を駆け巡る店主のユルゲン・ハマー氏(筆者撮影)
ワインソムリエ講師として世界を駆け巡る店主のユルゲン・ハマー氏(筆者撮影)

 かわいいカフェやバー、クラブの多いクロイツベルク地区にあるハマーズワインは気を付けていないと通り過ごしてしまいそうな店構えだが、店内は活気が帯びていた。

 オーナーのユルゲン・ハマー氏は、ワインバー専門店を目指したが、客の要望でワイン販売も手掛けるようになったという。2010年よりドイツワイン・ソムリエ専門学校ベルリン支局長として講師も兼任するワイン専門家だ。   

 同店は2016年にはベルリントップ10ワインバーに選出された。また2016/17ワイン雑誌FINEで読者が勧めるお気に入りのワイン販売店の1位にも選ばれたという。

 ワイン価格は1本10ユーロから80ユーロ(1330円~11,000円弱)。ドイツ、イタリアオーストリア、スロベニア、ハンガリー産ワインを販売している。数少ない日本酒を販売する店としても注目を浴びている。今年5月5日は開店10周年記念の特別イベントを予定しているそうだ。

 ベルリンでドイツワインを飲む機会はあっても、ワイン販売店に足を運ぶチャンスはなかなかないかもしれない。今回筆者はワイン販売店を5か所だけ訪問したが、どの店でも専門家がワイン業界のトレンドや変貌を熱く語ってくれた。

 観光の途中でワイン販売店を目にしたら、ちょっと立ち寄ってみるのもいいだろう。ワイン専門家の意見を聞くことで思いもよらない美味しいドイツワインに巡り合えるかもしれない。

 

在独ジャーナリスト

ビジネス、社会・医療・教育・書籍業界・文化や旅をテーマに欧州の情報を発信中。TV 番組制作や独市場調査のリサーチ・コーディネート、展覧会や都市計画視察の企画及び通訳を手がける。ドイツ文化事典共著(丸善出版)国際ジャーナリスト連盟会員

シュピッツナーゲル典子の最近の記事