ガーナに圧勝したなでしこジャパン。W杯最終予選に弾みも、浮かれたムードはゼロ
4月6日(金)からヨルダンで開幕するAFCアジアカップ(兼2019フランス女子ワールドカップアジア最終予選)を控え、なでしこジャパンは4月1日(日)、ガーナ女子代表とMS&ADカップで対戦。7-1でガーナに圧勝した。
約5ヶ月ぶりの国内凱旋試合を華々しいゴールラッシュで飾り、良い雰囲気でヨルダンに乗り込むことができる。
【川澄がもたらした変化】
この試合で最大の収穫と言えるのは、2年ぶりに代表復帰したFW川澄奈穂美の活躍だ。高倉麻子監督は、
「彼女が入ったことでチームに活気が出てきたことは間違いないですし、プレーの面でも、対人において局面で強さを出せる。キックの精度も高く、先発でも途中(出場)でも、チームの戦力に組み込めると思います」(高倉監督)
と、高く評価した。
2年ぶりに青いユニフォームに袖を通し、59分から右サイドハーフで出場した川澄は、同時にピッチに立った右サイドバックのDF清水梨紗と良い連係を見せながらサイド攻撃を活性化した。
74分には左コーナーキックから、インスイングのクロスでMF阪口夢穂のヘディングシュートを引き出し、DF高木ひかりのゴールに至る流れを作った。そして、82分には右サイドからピンポイントのクロスを送り、DF鮫島彩のゴールをアシスト。
また、得点には結びつかなかったが、81分にはカウンターのチャンスを見逃さず、最終ラインから前線のFW岩渕真奈にグラウンダーのロングパスをピタリと通した。経験の厚みを感じさせる、したたかで抜け目ないプレーだった。
このパスを絶妙な動き出しで引き出した岩渕も、
「長くやっている選手同士の呼吸もあるし、(自分が動き出す瞬間を)見てくれているなと思いました。サイドで、ナホさんのところからいいクロスも上がっていたので、自分が決めきらないと」(岩渕)
と、手応えを口にした。
川澄がもたらした好影響は、ピッチ上だけにとどまらない。
一緒にプレーしたことのある選手だけでなく、初顔合わせとなった選手たちも「チームの雰囲気が変わった」と言う。積極的に声を出してチームを盛り上げる川澄の存在に刺激を受けていることがうかがえた。
中でも、阪口の言葉は印象的だった。
「たとえばシュート練習だと、『ナイッシュー!』とか声を出して盛り上げやすいんですが、盛り上げづらい練習でも、彼女は何かしら声を出して盛り上げてくれる。すごく助かるし、ありがたいですね。私は最初の頃からこのチームにいるので、このタイミングで入ってきたナホの意見は大事だと思うんです。これまで気づかなかったことも指摘してくれるし、新しい意見が新鮮です」(阪口)
限られた時間の中で川澄がチームの雰囲気にスムーズに溶け込み、試合で力を発揮できたのは、アメリカで磨いた実力と元来のコミュニケーション力によるものだろう。それに加えて、これまでの2年間、川澄自身が代表の試合を欠かさずチェックし、高倉監督のチームコンセプトをしっかりと把握してきたことも大きい。
また、新たな個性を受け入れ、生かせるだけの土台をチームが積み上げてきた証でもある。
【大勝の中で見えた課題】
日本はこの試合で終始ボールを支配し、7人の異なる選手がゴールを決め、与えられた6人の交代枠を使いきった。途中からピッチに立った選手も活躍し、選手層の厚さを感じさせた。
だが、この試合があくまで「フレンドリーマッチ」だったことは考慮しておくべきだろう。アジアカップ本番で日本が戦うのはガーナよりもFIFAランキング上位の国ばかりだ。
今回来日したガーナのメンバーは10代から20代前半の若い選手が多くを占めており、試合後にマーシー・タゴエクアルクー監督も「ディフェンスの選手は経験値が少ないために、うまく対応できなかった」と話していた。
日本が攻守においてガーナを凌駕したのは、そのような背景も含めてのことだった。
もちろん、なでしこジャパンの選手たちにも、大勝に浮かれたムードは全くなかった。
長崎まで足を運んだ7000人近いファンやサポーターの激励を受け、試合後はスタンドに満面の笑みを向けていた選手たちは、取材エリアを通る頃には表情を引き締め、試合を冷静に振り返っていた。
「前半の入り方に課題が残る試合でした。相手が強豪チームだったら、(アルガルベカップの)オランダ戦(●2-6)と同じように、やられていたかもしれないという危機感はあります」
試合後にそう語ったのは、左サイドバックの鮫島だ。
高倉ジャパンはこれまで、立ち上がりの時間帯に大きなピンチを迎えることが多かったが、その最たる例が、鮫島が例に挙げたアルガルベカップのオランダ戦だった。日本はこの試合で、立ち上がりの8分間に2失点を喫して相手に主導権を握られ、大敗を喫している。
このガーナ戦も、先制した後の24分にふっと集中が切れたような時間帯があり、失点している。しかし、それ以外にピンチらしいピンチはほとんどなかった。
だからこそ、鮫島が指摘した試合の入り方、特に前半14分にFW田中美南のゴールで先制するまでの、日本の拙攻は気になった。
日本は立ち上がりから相手ディフェンスラインの裏を狙って、最終ラインからロングボールを放り込んだが、オフサイドになったり、前線にボールが流れてしまう場面が続いた。強豪国相手にそのようなボールロストを繰り返せば、あっさり主導権を奪われてしまうだろう。
パスの出し手と受け手が狙いを共有できなかった原因は何なのか。出し手側だった鮫島は、こう振り返る。
「これまで立ち上がりの失点が多かったので、この試合はボールを持ったら簡単に(ロングボールを入れて)前からいこう、と話して入ったのですが、実際、ゲームを始めて2、3分で、相手のプレッシャーの感じから、しっかりボールを繋げるな、と。そのことをポジションが近い(ディフェンスの)選手同士では話していたんですが、チーム全体で共有できていませんでした。だから、単純に裏を狙ってそのまま流れたり、逆に狙いすぎて相手に引っかかったりして、せっかくボールを持てるのにリズムを掴めませんでした」(鮫島)
一方、パスの受け手である2トップの岩渕と田中も、同じように、早い段階で攻撃の狙いどころを見抜いていた。ガーナは5バック気味のシステムで守っていたが、ラインコントロールは緻密ではなく、最終ラインの前にはスペースが生じやすかった。田中は次のように振り返る。
「あの(2列目の)スペースが空くのはわかっていたし、取ろうと思えば裏(のスペース)も取れる状況でした。ただ、(どちらを選択するかを)後ろとうまく連係できていなかった。それができれば、前線でもっとボールを引き出せたと思います」(田中)
つまり、前線と守備陣、それぞれが状況を正確に判断できていながら、それをうまく共有できていなかったということだ。
アジアカップのような国際大会では観客も多く、ピッチ上の味方同士の声もさらに通りにくくなるだろう。その中で、どのように意志統一を図っていくのか。初戦のベトナム戦に向けて、この点は確実に修正したい。
【勝利を彩った7つのゴール】
そのような状況で日本に流れを引き寄せたのが、前半14分の田中の先制点だった。ファーストチャンスをしっかり決めた田中の決定力もさることながら、アシストをしたMF増矢理花の動きも光った。
「相手の間でボールを受けるのが好きなので、体が無意識に動いていました」という増矢は、タイミングの良い動き出しや切れ味鋭いドリブルで中盤のスペースを活用し、チャンスを演出。
43分には、鮫島からのロングパスに抜け出したMF中島依美からの折り返しにトップスピードで走りこみ、ダイレクトで右サイドネットに突き刺す難易度の高いシュート(3点目)を決めている。
また、その他の5つのゴールにも、それぞれに良さがあった。
勝負強さを感じさせた岩渕の勝ち越しゴール(2点目)、右サイドから地を這うような弾道で逆サイドネットに突き刺さった中島のミドルシュート(4点目)、セットプレーのこぼれ球を押し込んだ高木の代表初ゴール(5点目)、球際の粘りから生まれたFW菅澤優衣香のゴール(6点目)。そして、川澄のクロスにインサイドで美しく合わせた鮫島のゴール(7点目)。
アジアカップ初戦のベトナム戦(7日)に向け、時間は限られている。その中で攻守において修正すべき点をしっかりと見直し、この試合で見せたような力強いゴールが数多く生まれることに期待している。
なでしこジャパンは、2日にアジアカップの開催国・ヨルダンに出発した。今大会の出場国は8チームで、5位以内に入れば来年の女子フランスワールドカップへの切符が手に入る。目指すは、大会連覇だ。
ベトナム戦は、日本時間7日(土)の22時30分より、テレビ朝日系列(地上波)にて生中継される。