【ビールの歴史】産業革命によって大きく変わった!近代の人々はどのようなビールを飲んでいたの?
ビールが工場の煙とともにその歴史の新たなページをめくったのは、1765年、蒸気機関の改良が現実のものとなったときのことです。
それまで、ビール醸造はどこか牧歌的な家庭の営みであったが、技術の革新によって次第に効率と規模の追求が始まります。
温度計と比重計の導入(それぞれ1760年、1770年)は、その象徴的な一歩です。
この2つの発明により、醸造業者たちはビールの品質を科学的に管理し、収益を向上させる術を得えます。
18世紀以前、ビールの原料となる麦芽は木や藁、時には薪を使って乾燥されていました。
しかし、この乾燥過程には重大な欠点があったのです。
煙が麦芽に染み込み、出来上がったビールはどこか燻されたような風味を帯びていました。
このスモーキーな味わいは一部の愛好家には受け入れられたものの、多くの人々には不評だったのです。
17世紀の作家は、西部地方のスモークビールを「絶望的な者か地元の人々しか飲めない」と皮肉り、ロンドンでも、スモーク麦芽を使ったビールは安価であるがゆえにやむを得ず使われていたと記録しています。
比重計の登場により、麦芽の収量を正確に測定できるようになると、醸造の風景は一変しました。
安価なブラウンモルトよりも、淡色のペールモルトの方が高い発酵効率を持つことが明らかになり、醸造業者はペールモルトを主軸とした製造へと舵を切ったのです。
この転換点は、1817年にダニエル・ホイーラーが発明したドラムロースターによってさらに加速しました。
これにより、非常にダークなローストモルトが生まれ、ポーターやスタウトに特徴的な風味と色合いがもたらされたのです。
また、19世紀にはルイ・パスツールが発酵における酵母の役割を解明し、ビールの酸味を防ぐ技術が進化しました。
さらには1912年、アメリカで茶色のビール瓶が導入され、ビールを太陽光から守るという単純だが革命的な発明が世界中で広がることになります。
こうして、産業革命はビールを根底から変えました。
家庭での小規模な醸造から、工場の煙突が立ち並ぶ産業の一大分野へ。
その背後には、蒸気機関の響きとともに、科学と技術の絶え間ない探求があったのです。
ビールは単なる飲み物ではなく、歴史の波を映し出す一杯の液体として、いまなお私たちを魅了し続けています。