「麺屋武蔵」の総本店が突然店名変更した理由 ~時代を変えたラーメンに原点回帰~
新型コロナウイルスの感染拡大で先行きが見えない中、Facebookでひとりのラーメン店主の書き込みが筆者の目に飛び込んできた。
本日より「麺屋武蔵新宿総本店」改め
「創始(そうし)麺屋武蔵」としてリニューアルオープンしております。
商品もマイナーチェンジしております。是非ともご賞味下さい。(8月21日 「麺屋武蔵」矢都木二郎社長のFacebookより)
「麺屋武蔵」。
1996年に創業し、以来、新宿の総本店をはじめ、池袋、渋谷、上野、秋葉原など東京の繁華街を中心に積極的に出店し、15店舗を展開する人気ラーメン店だ。店舗が増えても東京以外には出店せず、かつ全店舗違う味のラーメンを提供しているのが大きな特徴だ。創業以来、20年以上トップを走り続ける東京のラーメンの代表格といっていい。
そんな「麺屋武蔵」の新宿総本店は、実は7月20日から休業をしていた。
「店舗老朽化に伴う改修工事」という説明だったが、このコロナ禍での休業ということでその後が心配されていた。
そんな中、このたび総本店が店名を変えて復活リニューアルすると聞き、店に足を運んだ。
「麺屋武蔵」の総本店は、鶏ガラや豚骨の動物系に、煮干しや鰹節の魚介系を合わせた“二刀流スープ”が自慢で、そのスープが繰り出す濃厚なラーメン、つけ麺が人気であった。
しかし、実は創業時からこのラーメンを提供してきているわけではない。「麺屋武蔵」は時代を経て数えきれないほどのリニューアルを重ねてこの味に辿り着いたのである。
では創業時にはどんなラーメンを提供していたのか。
「麺屋武蔵」創業時の味といえば、ひとつ外せないキーワードがある。それが“サンマ節”だ。
当時は市販されていなかったサンマ節を水産会社に依頼して作ってもらい、それをスープの主役にしていた。
その今まで全く食べたことのないラーメンは、業界に革命を起こした。
「麺屋武蔵」は「中華そば 青葉」「くじら軒」とともに“96年組”と称され、その年はラーメン界の大転換期と呼ばれるほどだった。
その後、多くの店がラーメンにサンマ節を使うようになったことで、時代の先を行く「麺屋武蔵」は独自の味を追求し、逆にサンマ節を使うのをやめ、現在に至っている。
そんな「麺屋武蔵」の総本店が「創始 麺屋武蔵」として生まれ変わった。
「創始」とは何を指すのか。
「コロナ禍を乗り切るために、今一度原点に立ち返ろうと思い、店名を変更しました。
原点に立ち返って、大切なものを再確認して、現在の自分達に出来ること、またこれからのwithコロナに向けお客様に安心していただける環境作りを考えました。
原点に立ち返ること、そして新しい『麺屋武蔵』の始まりという想いを込め『創始 麺屋武蔵』としました」(矢都木社長)
「原点に立ち返る」とは具体的にどんなことなのか。それはリニューアルしたラーメンを食べた瞬間にわかった。
“サンマ節”が香る原点の味になっていたのである。
このサンマの味の立ち方は当時唯一無二だった。そして今食べてもやっぱりこれが「麺屋武蔵」の味だと感じるのだ。懐かしさを感じるとともに、その色あせない美味しさに感動すら覚える。
「創始 麺屋武蔵」の斉藤店主は語る。
「創業当初から各店でさまざまな味の工夫がされてきました。そんな中、創業当初の味を知っている方に話を聞くと、『あの味は今でも他にはない味だ』と口々におっしゃいます。
そこから、『麺屋武蔵』が現在まで培ってきた技術を使い、“創始”の味をベースに置きつつ、更に進化させようと思いました。サンマ煮干し、サンマ節、海老、昆布、牡蠣などの魚介類をたっぷりと使い、インパクトを持たせつつも尖らせすぎず、誰が食べても美味しいと思っていただける一杯になっていると思います」
「店内にジャズを流す」「券売機の導入」「期間限定麺の発売」「数々の企業コラボ」など革新的な取り組みを常に続けてきた「麺屋武蔵」が、ここに来て原点回帰し、創業当時の美味しさを伝える。
ひとつの時代を作ったオンリーワンなラーメンの復活。それは、ラーメンの進化の過程でコロナショックにぶつかり、足元が見えなくなっているラーメン業界に大きな灯を与えてくれる。
※写真はすべて筆者による撮影