なでしこジャパン、緊迫した試合はスコアレスドロー。五輪出場をかけて2.28国立決戦へ
【苦戦を強いられ、スコアレスドローで第2戦へ】
パリ五輪への切符をかけた、なでしこジャパンと北朝鮮との第1戦の結果は0-0。勝負の行方は28日に国立競技場で行われる第2戦で決まる。
内容的には押される時間帯も多く、実際にシュートは日本(4本)の2倍以上の9本を打たれた。暑さと緊迫感の中で消耗戦を強いられた選手たちの試合後の表情からは、落胆の中に、失点しなかった安堵の色も見て取れた。
北朝鮮は前評判通りの1対1の強さに加え、平均年齢21.8歳(日本は24.8歳)という若さがもたらす勢いか、暑さの中で最後まで運動量が落ちなかった。最も脅威だったのは、チームとしての練度と対応力の高さだ。なでしこジャパンをよく研究し、戦い方を柔軟に変えてくる試合巧者ぶりは、欧州の強豪国に引けを取らない。アンカーで先発した熊谷紗希は、試合後のインタビューでこう語っている。
「なかなか自分たちがボールにプレッシャーをかけられなくて、守備でマッチアップできなかった中、(北朝鮮の)ロングボールで最終ラインも上げるのが遅くなってしまった。そこは本当に反省しなければいけないところですし、後半、相手が私たちの動きを見て対応しながら戦ってくるようになっていました。そこはもう一ギア上げて、前から行けるようにしなければいけないと思います」
試合の入りは悪くなかった。だが、前半は5バック+中盤の4人でブロックを作る北朝鮮の固い守備を崩すことができず。13分にはシンプルなロングパスからキム・キョンヨンにシュートを浴びた。さらに、26分には自陣でボールを失い、ミョン・ユジョンにパンチのあるミドルシュートを放たれた。いずれも山下杏也加のセーブで難を逃れたが、少ない人数でシュートまで持ち込まれてしまった。
日本は前線のコンビネーションが生まれない中、右サイドの藤野あおばがドリブルなどで突破を試みるものの、なかなか打開策は見つからず。
そんな中、ようやくエリア内でチャンスを作ることができたのが42分。藤野が右サイドから入れたクロスのこぼれを田中美南が受けて、鋭い反転から左足を一閃。相手に当たってコースが変化し、GKパク・チュミが左足で掻き出す。このプレーで、流れは日本に傾きかけたかに見えた。
しかし、後半は北朝鮮が攻撃的な戦い方にシフト。両サイドバックも含めた積極的なサイドアタックで、本来のクロス攻撃の強みを全面に押し出してきた。池田太監督は59分に左サイドの切り札となる中嶋淑乃を、69分には谷川萌々子と清家貴子を投入して形成逆転を狙ったが、流れは変わらず、70分にミョン・ユジョン、73分にはキム・キョンヨンに決定的なシュートを許した。
終盤は相手の背後にスペースもでき、徐々にチャンスを増やした日本だったが、87分に切り札の千葉玲海菜が送り出された時点で、残された時間は短すぎた。両者一歩も引かない熱戦は、スコアレスドローで幕を閉じた。
【流動的な攻撃は見られず】
「自分たちのシュート数はかなり少なかったと思いますし、(エリア内に)進入して、相手のゴールを脅かす怖さはあまり出せませんでした。(第2戦は)もうひとつ前でプレーできるように準備していきたいと思います」(熊谷)
熊谷が言うように、攻撃面では効果的なコンビネーションがあまり見られず、個々も精彩を欠いているように見えた。日本が昨夏のワールドカップ以降に軸に据えてきた4-3-3のシステムは、アンカーの熊谷がフィルター役になり、攻撃で幅を使えるメリットがある。だが、この試合ではその利点を活かすことができず、流動的に動いてスペースを作り出す機会が少なかった。
逆に、4バックと5バックを柔軟に使い分けて守り、少ないチャンスを最大化した北朝鮮の抜け目なさが際立つ形に。国内組中心の若手選手で活動を重ねてきた北朝鮮に比べて、海外組も多い日本は全員が集合して合わせる時間がほとんどなかったことも顕著に影響しているだろう。
左サイドバックの穴を埋めたのは、代表3試合目の古賀塔子。直前合宿の際に左サイドバックをやったことがあるか質問してみたところ、「高校1年生の時にやったことがあります」とのことで、今回はほぼぶっつけ本番だったようだ。
経験は大きな財産になる一方、慣れないポジションでのプレーはリスクも大きく、池田太監督にとってはジレンマもあるだろう。最終予選の大舞台で慣れないポジションで抜擢された状況を考えれば、無失点に抑えただけでも十分なのかもしれない。
日本がワールドカップで採用した3-4-2-1(3-4-3)は、守備が安定し、連係が成熟していれば前線が流動的に動きやすいメリットがある。北朝鮮が戦い方を変えてサイドを狙ってきた後半は、日本も3バックでのチャレンジを見てみたかった。
だが、3バックにする場合、左ウィングの宮澤ひなたと猶本光、また生命線となる左ウインクバックの遠藤純(負傷のため招集外)の穴が非常に痛い。左ウィングは植木理子が入ったが、縦の関係を組む古賀と合わせる時間はほとんどなかった。所属チームで左ウィングバックを務めるのは、今回のメンバーでは中嶋と、追加招集となった北川ひかるの2人。中嶋が代表に定着したのはワールドカップ以降で、3バックで戦った経験はほぼない。北川は1年半ぶりの招集で合流から1週間と経っておらず、その状況でいきなり本番は酷であると指揮官が考えても無理はないだろう。だが、なかなか打開策が見つからない状況なのも事実だ。池田監督は、第2戦では2人の抜擢も視野に入れてくるだろうか。
移動も含めて中3日の短期間であることを考えれば、メンバーを大きく変えるよりも、固定したメンバーで修正して戦うメリットの方が大きいだろう。ただし、左サイドはテコ入れが必要に思える。
苦しい90分間の中で、いつもと変わらないハイパフォーマンスを見せていたのがGK山下だ。危険なピンチが続いた後は味方にげきを飛ばすこともあるが、冷静に切り替え、90分間集中力を切らさなかった。また、交代でアンカーに入った谷川は、両足で蹴れる強みを生かし、フリーキックやドリブルなどで数少ない見せ場を作った。谷川が「ボールを持っていない時の周囲の認知や予測がすごい」と尊敬する長谷川唯とのコンビネーションは、今後への期待感を抱かせた。
【運命の2.28国立決戦へ】
様々な状況を考え合わせると、日本はこの第1戦で「限られた選択肢の中で最低限の結果は残した」という見方もできる。ただし、第2戦はそうはいかない。
日本は25日の午前中にサウジアラビアのジッダでトレーニングをした後に帰国の途につき、2日間の準備を経て運命の第2戦に臨む。アウェーゴールのアドバンテージはないため、勝負の行方は「ゴールを多く取った方が勝ち」。至ってシンプルだ。
同点の場合は延長線が行われ、それでも決まらなければPK戦で勝敗を決する。2年半、積み上げてきたものを90分間の中で出し切り、延長線になる前に決着をつけたい。
キックオフは18時34分。NHKで地上波での全国生放送となるが、ホームでは声援のアドバンテージが力強い味方となる(今回の1戦目では、一般向けのチケットは販売されていない)。試合を盛り上げるための様々なイベントも用意され、第2戦のチケットは、全席種でまだ買えるようだ(記事公開時点)。
長谷川と杉田妃和は今回の2試合に臨む思いを、こう話していた。
「応援が力になりますし、特に日本のサポーターが多いのは本当にモチベーションになるなと、ワールドカップの時に強く感じました。そういう方たちに対して、いいサッカーを見せられたらいいなと思っています」(長谷川)
「他のスポーツでオリンピック出場が決まったというニュースを見て、女子サッカーもいいニュースを届けたいと思っています。それが現実になるように、いい準備をしていきます」(杉田)
ホームの追い風を味方につけて、どんな形でもゴールをもぎ取りたい。最後まで諦めずに戦い抜く、なでしこジャパンらしい勝利に期待している。