フィルミーノとベンゼマ。ゼロトップ時代後に示される、「9.5番」の価値。
一時、フットボール界でゼロトップが大流行した。
ジョゼップ・グアルディオラ監督のバルセロナ、ルチアーノ・スパレッティ監督のローマ、ファビオ・カペッロ監督のイングランド代表...。リオネル・メッシ、フランチェスコ・トッティ、ウェイン・ルーニーが指揮官に「指名」され、新たなタスクに挑んだ。
ただ、ゼロトップには古い歴史がある。その「はしり」は、マティアス・シンデラーだといわれている。ヨーロッパ最強と称されたオーストリア代表で、ゴールスコアラーとして活躍したのがシンデラーで、ヴンダー・チーム(奇跡のチーム)の中心に彼がいた。
■廃れたゼロトップ
グアルディオラ監督がバルセロナから去り、ゼロトップは廃れていった。現在、メッシは右WGにポジションを戻している。
しかし、現代フットボールにおいても、決定力に依存しないストライカーがいる。カリム・ベンゼマとロベルト・フィルミーノである。
昨季のチャンピオンズリーグ決勝で激突した2チームで、彼らは異色の存在だった。47得点を挙げて大会記録を更新したリヴァプールだが、フィルミーノ(7アシスト)はジェームス・ミルナー(9アシスト)に次いでチーム2番目のアシスト数を記録した。
また、この決勝前のデータは興味深いものだった。リヴァプールのボール奪取数(801回)、敵陣でのボール奪取からの得点数(13得点)は全32チーム中1位の数字。総走行距離では、1位アレクサンダル・コラロフ(ローマ/128Km)に追随して2位にフィルミーノ(119Km)の名前があった。
ゲーゲンプレッシングと呼ばれる激しいプレスを生命線とするユルゲン・クロップ監督のフットボールで、フィルミーノはプレッシングの先鋒になりながら、モハメド・サラー、サディオ・マネという強烈な個を備える両ウィングとの繋ぎ役を担った。サラーは昨季のプレミアリーグで32得点を挙げて得点王に輝いた。その陰に、フィルミーノがいたのだ。
■アシスト数>得点数
そして、欧州王者レアル・マドリーにおいて、不動のFWとして君臨しているのがベンゼマだ。
クリスティアーノ・ロナウドの野心、ルカ・モドリッチの創造性、マルセロの突破力...。そういったものを、備えてはいない。しかしながらベンゼマがいなければ、現在のマドリーは機能不全に陥るだろう。
2017-18シーズン、ベンゼマはリーガエスパニョーラで5得点10アシストを記録した。アシスト数が得点数を上回っていた。奇しくも、ベンゼマに変化が訪れたのは野心をぎらつかせていたC・ロナウドがユヴェントスに移籍した後だった。
今季のリーガで24試合10得点3アシストを記録しているベンゼマだが、C・ロナウドの不在を利用するかのように左サイドに流れ、決定機に関与し続けている。また、サンティアゴ・ソラーリ監督はセルヒオ・レギロンやルーカス・バスケスといった規律に従うタイプの選手を重宝しており、その恩恵が彼にもたらされている。より自由度の高いプレーが可能になり、思うように攻撃を操っている。
■9.5番
戦術と個性は表裏一体だ。メッシのゼロトップでは、FW1枚×CB2枚という構図が重要だった。
メッシはセンターフォワードに位置しながら、中盤に下がってゲームメイクに参加する。相手のセンターバックは、中盤に引いていくCFをマークするべきかどうかで迷う。そこに2列目の選手、あるいはウィングの選手が走り込む。中盤で数的優位を作りながら、相手のディフェンスラインの裏のスペースを突いていた。なおかつ、メッシは破壊的な決定力で、幾度となく対戦相手を奈落の底に突き落とした。
だがフィルミーノとベンゼマは異なる。彼らは、いわば「仕掛け人」だ。
フィルミーノは理解が早く、処理能力が高い。プレスで詰める。ボールを回収する。中盤に戻って守備を助ける。ショートカウンターの起点になる。ポストワークをこなす。アタッカーとして、フィニッシャーとして、臨時のMFとして、リヴァプールにとって必要不可欠のピースになった。
ベンゼマはチームにオルタナティブ(代案)を提供する。潤滑油のような働きをする。相手のDFラインとMFラインの中間ポジションに位置する。敵の守備陣にカタストロフィーを起こす。モドリッチ、トニ・クロース、カセミロ、彼らからのパスコースをベンゼマは常に確保している。ボール奪取の瞬間、マドリーの選手が探すのは、ベンゼマだ。速攻のスイッチを押す、スイッチャーなのである。
「僕は10番のようにプレーする、9番の選手だ」
ベンゼマは、リーガ第21節のエスパニョール戦で2得点を記録した後にそう語った。
10番でも、9番でも、ない。ベンゼマやフィルミーノは、ゼロトップではなく、「9.5番」と形容できるかもしれない。彼らのような選手が欧州のトップクラブで攻撃を司っている事実は、着目に値する。