こんな上司、いたんだ! 部下をダメにする「ブラック上司」より怖い「エアー上司」
私は企業の現場に入って目標を絶対達成させるコンサルタントです。目標を「絶対達成」というぐらいですから、当然クライアント企業のミドルマネジャーには、部下に”適正な”プレッシャーを与えるよう指示します。プレッシャーゼロで自主性に任せておけば目標が達成する、というのであれば、私のようなコンサルタントは必要ありません。過小も過剰もダメ。バランスのよい、適度な緊張感をチームに定着させるのに多くのマネジャーは苦労しています。ちょうどよい加減のプレッシャー……というのは、意外と簡単ではないのでしょう。
さて先日の電通事件でもあったように、過剰なストレスを部下に与え続け、精神的な負担を強いる上司を「ブラック上司」「クラッシャー上司」などと巷では呼ばれています。「ブラック企業」という言葉にちなんで名づけられた言葉です。とはいえ、過剰ではなく、過小なストレスしか部下に与えられない上司が「ホワイト上司」かというと、そうではありません。
言葉の定義上、過剰が「ブラック」なら過小が「ホワイト」ではないか。部下を潰して奴隷にしてしまうような上司が「ブラック」なら、部下を潰さず、奴隷にもしない上司が「ホワイト」なのか、というと、もちろんそうではない。
現場に入って指導をしていると、以下のような上司と出会うことがあります。
「あなたの部下、2人ともやる気がありません。でも可能性を感じますから、上司であるあなたからキッチリ言うべきです」
「どうして私が?」
「あなたが彼らの上司だからです」
「上司から言われないとわからないものでしょうか。そういうのは自分で気付かないといけないと思いますよ」
「部下たちが自分で気付くのを待ってるんですか?」
「それじゃあ言わせてもらいますが、私が言えば部下が変わりますか? 変わりませんよ。言ってもムダです」
言ってもムダなのは、この上司に対してだな、といつも思うのですが、こういった無関心で無気力で、社歴が長いからというだけで役職についた管理者は部下たちに有害です。いるのかいないのかわからないぐらい「空気」のような存在なので、私は「エアー上司」などと呼んでいます。
部下の自主性を重んじ、放任主義でやっているわけではなく、単に興味関心がないのです。親で言うと、子どもがどこで何を食べようと、どんな友だちとどんな遊びをして、何時に家に戻り、何時に寝て何時に朝起きるのかも気にしないような親です。「自分が決めたことだから」「自分がやりたいんなら」「自分が気付かないと」……が口癖。
特に「自分で気付かないとね」が口癖の上司は、自主性をはき違えています。自主性とは、自分が「やるべきこと」を人から言われなくとも率先してやることです。そもそも部下が、自分の「やるべきこと」を知っているか、わきまえているか、が大事。それを知っているからといって、その「やるべきこと」をやらない場合も多々あります。しかし、そもそも知らない、という事実は問題です。したがってそれを上司がティーチングしなければならないのです。
先述したとおり、「やるべきこと」がわかっていれば「やる」かというと、そうではありません。したがって、「やるべきこと」を「やる」ように習慣化させるのも上司の義務です。そう、義務なのです。そして「やるべきこと」を「やる」だけで給料をもらえるかというと、そんなに社会は甘くありません。それ以上の付加価値を出さなければ、これからの時代、ロボットやAI(人工知能)の台頭によって要らない人材になっていきます。したがって「やるべきこと」をやり「成果を出すまで工夫すること」が求められます。自分で考え、周囲と協力しながら成果を出すことで精神的報酬も手に入るのです。そこまでして初めて「気付く」のです。
気付きというのは、(1)知識を得て気付く、(2)行動して気付く、(3)結果を出して気付く……の3種類があります。気付きは必ず後からくるものであり、その前にはありません。しかも1回や2回で気付くことはないため、自主性などと言わず、強制的にそれを気付かせるプロセスが重要です。
部下が、自分の「やるべきこと」を知り、行動し、結果を出して、やりがいを得る。この連続があってから、ようやく自主性を重んじることができます。そうでないのに放置する「エアー上司」はつまり上司のやるべきことがわかっていない、と言えるでしょう。部下の市場価値(マーケットバリュー)を落とす主因にもなりますので、十分に気を付けたいですね。このようなエアー上司の下にいて、「仕事とはこんなもんだ」と思い込んでしまったら大変です。いずれ転職しようとしても、どこにも雇ってもらえないという人材に成り果てるでしょう。
「ブラック上司」は客観的に見て問題がわかりやすいですが、「エアー上司」はわかりづらい。まさに空気のような存在であり、空気のような問題です。このため、あえて周囲は注意して見抜いていかなければいけません。上司は、上司としての「やるべきこと」をまず気付く必要があります。