経営者やフリーランスで働く女性の44.8%が産後1ヶ月以内に仕事を開始。日本初の実態調査が発表された
働き方の多様化にともなってフリーランスで働く人が増えており、その数は国内で推計1100万人余り。政府も働き方改革において「多様で柔軟な働き方を選択可能とする社会」を追求しており、フリーランスはキャリアの途中で出産・子育てといったライフイベントに直面する女性のための働き方として期待されている。また、政府は「女性経営者育成にも注力」しており、現在国内にいる女性経営者は37万人に上る。
しかし、このような政府の旗振りには、大きな課題が置き去りにされたままである。フリーランスや女性経営者は、出産・子育てと仕事の両立に大きな課題を抱えたまま、という点である。
フリーランスや女性経営者は、雇用関係がなく雇用保険に加入できないため育児休業制度がない。国民健康保険への加入であれば、産前産後の休業制度も手当金も社会保険料の免除もなく、母体保護の観点から全く守られていない。
産休もろくになく、すぐに働かなくてはならないのに、預け先を探すのに苦労する。会社員同様かそれ以上の労働時間でも、認可保育園の申請ポイントが低い自治体もある。また、昨年施行されたマタハラ防止からは、雇用関係にないため守られていない。妊娠を告げた途端に取引先から仕事の契約が切られたとしても、泣き寝入りせざるを得ない。
このような実態を浮き彫りにした調査結果とそれを踏まえた政府への要望を、「雇用関係によらない働き方と子育て研究会」が本日(2月22日)記者会見して発表した。「雇用関係によらない働き方と子育て研究会」とは、有志のフリーランスや女性経営者、弁護士などの当事者から成る市民団体である。会見冒頭で研究会は以下のように述べた。
「私たちフリーランスや経営者、士業従事者、議員など雇用されずに働く女性たちは、自ら覚悟してこの働き方を選んでいます。“仕事上のリスク”は当然取るつもりです。長期の育児休業を求める声は多くありません。しかし、“生命・身体のリスク”までは取りようがありません。
この問題こそが、労働人口不足や少子化の対策として政府が打ち出す「一億総活躍」や「働き方の多様化」の推進を阻害するボトルネックになっているとは考えられないでしょうか?
妊娠・出産・子育てに伴うセーフティネットは、働き方に関わらず、誰もが利用できる公平な制度であってほしいと私たちは願っています。」
研究会が政府に要望している内容や注目すべきデータについて、以下にまとめた。
■調査の概要
【調査期間】 2017年12月19日~31日(12日間)
【有効回答数】353件(回答数364件)
【対象】現在20~50 歳までのフリーランスまたは法人経営者等であり、雇用関係にないため産休・育休を取得できず、働きながら妊娠・出産・育児をした経験のある女性
※フリーランスとは、特定法人との雇用関係にない働き手を意味する。個人事業主はもちろん、開業届を出さずに個人で仕事をしている方も含む。
※パート・アルバイトなど非正規を含め雇用関係にある方は本調査対象には含まない。
※フリーランスまたは法人経営者として働く間に複数回妊娠・出産をされた方は、一番辛い経験をされたと思う妊娠・出産について回答。
■調査の結果
全データ:
●出産・育児に際してもらえるお金と出費に約300万円の格差
会社員(派遣・パートなどの非正規社員含む)などの被雇用者と、フリーランス(個人事業主)など雇用関係によらない働き方で国民健康保険への加入者とは、出産・育児に際してもらえるお金と出費に約300万円の差があるという。
●母体保護の概念に反した早すぎる復帰
Q:妊娠中に出産後も働き続けたいと思っていましたか?の質問に対し、「とてもそう思う」「まぁそう思う」と合わせて95.8%が就労継続を望んでいるにもかかわらず、Q:妊娠・出産・育児を機に仕事の状況がどうなったか教えてください、の質問に対し「仕事は継続しているが仕事量が減った、減らした」65.2%、「出産前と変わらない水準で仕事を継続できている」16.4%にとどまった。
妊娠・出産・育児を経て仕事を継続している人の復帰タイミングは、産後2ヶ月以内が59.0%、産後1ヶ月以内でも44.8%に上った。なお、労基法で定められた産後休暇期間は産後8週間(約2ヶ月)。
●産前産後の休業もなければ所得補償もない
全体の63.1%が扶養ではなく自身で保険料を納付しているにも関わらず、出産手当金の給付を受けられているのは僅か19.3%だった。
●回答者の9割以上がセーフティネットを求める
「雇用形態を問わず必要である」「できればあった方が良い」の合計は、産前産後の所得補償が95.5%、社会保険料の免除が93.8%、育休中の所得補償が92.4%。
休業制度そのもの、特に育児休業を求めている人は比較的少ない。
●育休がなくすぐに働かないとならないが、預け先に苦労する実態
Q両立に苦労した原因(複数回答)は「入園できる保育園が見つからなかった」が51.4%で第一位。「認可保育園以外で預け先は見つかったが費用負担が苦しい」が28%、「認可保育園以外の預け先も見つからなかった」が22.2%と、保育問題が高い壁となっている。
Q認可保育園やその他の預け先が見つからなかった理由(複数回答)は「保育園の申請をしたが待機児童になった」が60.2%で第一位。「行政の窓口で相談したが、雇用されている人とのポイント差などの理由で難しいと言われた」が37.6%と、保育園申請以前に諦めざるを得ない実態が見えた。
Q認可保育園入園が不利な理由(複数回答)としては、「住んでいる自治体では居住外就労(会社勤務)より居住内就労(自営業含む)はポイントが低くなる」が55.3%で第一位だった。
●仕事と育児の両立に使われる出費
Q仕事と育児の両立のために利用したものはなんですか?(複数回答可)の質問に対し、家族や親戚に協力を仰ぐケースが中心ではあるものの、一時保育利用者が44.2%、ベビーシッター利用者が26.9%、地域のファミリーサポート利用者が23.5%と、保育園以外の託児サービスへの依存度は高い。全体の約3割が月額5万円以上の出費を強いられている。
実際にベビーシッターを利用したのは26.9%だったにも関わらず、Qどのようなことを改善すればより両立しやすくなるか(複数回答)の質問では、「ベビーシッターなど保育園以外の保育サービス利用料の経費化」が63.5%で第二位と高く、経費ではないことで利用できていない実態が伺えた。
●調査結果を踏まえた政府への要望内容
上記の調査結果を踏まえた研究会の要望は、以下の4点となる。
■調査結果を踏まえた政府への要望内容
1.被雇用者の産前産後休業期間と同等の一定期間中は、社会保険料を免除してください。
2.出産手当金(出産に伴う休業期間中の所得補償)は、国民健康保険では任意給付となっていますが、一定以上の保険料を納付している女性には支給してください。
3.会社員と同様かそれ以上の労働時間であれば、保育園の利用調整においてどの自治体においても被雇用者と同等の扱いをしてください。
4.認可保育園の利用料を超える分は、国や自治体の補助が受けられるようしてください。それが難しければ、ベビーシッター代を必要経費もしくは税控除の対象として下さい。
<参考記事>
■産休制度もなく保育園申請ポイントも低い。増えているフリーランスの仕事復帰に立ちふさがる高き壁とは
■切迫流産で医師より安静の指示を受けても休めない。働きながら妊娠するフリーランスや経営者の厳しい現実
■一時保育の申請に深夜2時から並ぶ。フリーランスや女性経営者の預けたいのに預けられない苦しい実態
■取引先に妊娠を告げた途端、仕事が激減。マタハラから守られていないフリーランスや女性経営者の苦しい実態
~署名キャンペーン ご賛同のお願い~
雇用関係によらない働き方と子育て研究会は、皆さんのご賛同と共に政府に政策提言を提出致します。
ご賛同はこちらから⇒「フリーランスや経営者も妊娠・出産・育児しながら働き続けられる社会の実現を応援してください!」
~雇用関係によらない働き方と子育て研究会について~
■雇用関係によらない働き方と子育て研究会とは、
有志のフリーランスや女性経営者、弁護士などの当事者から成る市民団体です。
■理念
雇用関係によらない働き方をするフリーランスや経営者を含む、すべての女性が安心して妊娠・出産・子育てしながら働き続けられる社会の実現
<発起人>
・NPO 法人マタハラ Net 創設者/(株)natural rights 代表取締役 小酒部さやか
・第二東京弁護士会 労働問題検討委員会 社会保障部会 弁護士 塚本健夫
・株式会社 wip 取締役 神田沙織
・アユワ株式会社 代表取締役 渡部雪絵
・希望するみんなが保育園に入れる社会をめざす会 代表
Respect each other L.L.C 代表 天野妙
・プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会 代表理事 平田麻莉
・プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会 理事 中山綾子