テレワークの課題「雑談しにくい」「仕事をしているか不安」を解決、既存ツールでの対処法を専門家に聞いた
現在、コロナの感染拡大防止のための2度目の緊急事態宣言中で、政府はテレワークを推進し、「出勤者7割削減」を目指すとした。ところが、2度目の緊急事態宣言では、テレワークは増えていない。(以下、資料1参照)
それは、「1度目の緊急事態宣言で、テレワークでは仕事が進まないことを実感したから。そして、この状況は予想通り」という。こう話すのは、テレワークの専門家である田澤由利氏。
そこで、なぜ仕事が進まないのか。テレワークのデメリットをどうすれば解消できるのか。田澤氏に解説いただいた。記事にすることで、多くの企業の問題解決に繋がればと思う。
●テレワークでも仕事が進むことを実感した企業は今も継続
コロナ前は2割程度の企業しかテレワークを実施していなかったので、1度目の緊急事態宣言は企業が相当無理をしていた。テレワークという名の自宅待機や有給休暇に近い状態になっていたところもある。そもそも自宅にPCがない、ネット環境がないという従業員もいた。多くの企業において、生産性が落ちたのは事実だ。そうなれば2度目の緊急事態宣言でテレワークが進まないのは当然のこと。
しかし、一方で、テレワークのメリットを実感した企業は、今も継続し、テレワークの課題解決のために動いている。(上記、資料1参照)この意味はとても大きい。
では、出来ている企業と出来ていない企業の差はなにか。PCやネット環境、制度を整備してもテレワークが進まない企業は、コミュニケーションとマネジメントの課題に至る。
テレワークのデメリットを調査した結果においても、「同僚や部下とのコミュニケーションがとりにくい」「上司とのコミュニケーションがとりにくい」「在宅勤務で可能な業務が限られている」が上位となっている。(以下、資料2参照)
その他にも、「仕事の生産性・効率性が低下する」「オフィス勤務時よりも勤怠管理や業務の進捗管理が難しい」「健康管理が難しい」「仕事が適正に評価されない」などが挙げられている。
●勤怠管理ツールやバーチャルオフィスで、オフィス時と同じ環境に
では、このようなデメリットにどのように対処すればいいのか。
まず、テレワークでも「会社に出勤しているのと同様に、コミュニケーションやマネジメントができる環境を用意する」ことが重要。まず、「マネジメント」からみてみよう。多くのオフィスでは、タイムカードで時間管理をしている。また、同じ空間にいるので、仕事をしている状況を目視できる。
しかし、テレワークでは、労働時間を自己申告するケースが多く、働く様子が見えないので、上司が不安になる。社員も適正に評価されているか不安になる。
そのような課題には、テレワーク勤怠管理ツールを利用するといいだろう。本人が仕事をしていると自己申告している時間帯のみ、ランダムにPC画面を保存するし、さぼりを抑制するツールもある。
コミュニケーションは、雑談のありなしでストレスに違いが出るというデータもあるくらいに大切。テレワークでは、相手が今なにをしているか見えないことで声をかけづらく、雑談がしにくくなり、その結果、そこから生まれるアイデアやイノベーションが損なわれることを心配する企業も少なくない。そこで、バーチャルオフィス(仮想オフィス)のツールを利用し、見える化するのも一つの方法(以下、資料3参照)。
ただし、バーチャルオフィスさえあればいいというわけではなく、ポイントは決められたルールをきちんと実践すること。たとえば、「お昼の休憩中は、この部屋に」とか、「お客さんの対応をしていない時、電話をしていない時、打ち合わせしていない時は、同じ部屋でみんな一緒に仕事しようね」、「Web会議や電話の際は、応接室とか電話エリアに必ず行く」など。
毎朝9時にはバーチャルオフィスのマルチルームに社員が集合し、ラジオ体操をする企業もある。在宅勤務の運動不足対策と、規則正しい業務開始と、社員間のコミュニケーション機会の創出につながる。
参考:田澤由利氏によるバーチャルオフィス実践動画
https://www.youtube.com/watch?v=GVmZQHQaZ9E&feature=youtu.be
●既存のWeb会議ツールでも勤怠管理やバーチャルオフィスは可能!新入社員にはバーチャルカバン持ちを!
最新ツールの導入やルール作りは手間がかかるようであれば、既存のWeb会議ツール(たとえばZoomなど)を会議の時だけではなく、仕事中ずっと立ち上げておくという方法もある。
具体的に言うと、朝9時にWeb会議に社員が集まり、「おはようございます」とチャットで入れればタイムスタンプが付くので、「出社」とする。カメラとマイクはオフにし、スピーカーは小さめのボリュームでオンにすると、画面に名前だけは見えるので、一緒に仕事をしている雰囲気になれる。もし話し掛けたければ、マイクをオンにして「この件、誰か知ってる?」と声を掛ければいい。
新入社員や転職者への社員教育はテレワークでは難しいという声も聞くが、テレワークならではのメリットもある。「バーチャルカバン持ち」という方法で、社長や先輩社員の会議やプレゼン、商談などに同行して、OJT的に仕事の様子を学んでもらう。実際に持つカバンはないが(笑)、移動がない分リアルよりオンラインの方が効率よく色々な場に参加できるし、経営層の話など実際には同席しづらい場にも参加できたりする。
●テレワークは「自由」ではなくて「柔軟」な働き方であり、「会うことの大切さ」が分かる働き方である
テレワークは、オフィス以外の場所で個別に仕事をするため、どうやって仕事を個別化できるかと考えてしまいがち。そうではなく、オフィス勤務時と同じ環境をどうやって作るかを考えた方が、問題解決の近道となる。
離れて仕事をする以上、ICTツールは必要になる。しかし一番必要なのはツールではなく、気軽に声を掛けられる環境の運用やルール化だ。
テレワークは「自由な働き方」ではなくて、場所と時間が「柔軟な働き方」なだけ。テレワークは最良の働き方ではないが、育児や介護、病気やケガ、そして今回のコロナなどの不測の事態への対応として、会社に出社しなくても働き続けられる環境作りは必要だ。そして、これからの時代は、誰にとっても「柔軟な働き方」ができる企業が生き残っていく。
今回のコロナによる緊急事態宣言で、人と人の絆や会うことの大切さを再認識した人は多いのではないか。「テレワークは、会うことの大切さが分かる働き方」であってほしいと思う、と田澤氏は語ってくれた。
取材協力ありがとうございました。
【取材協力】
株式会社テレワークマネジメント
代表取締役 田澤 由利 氏
日本で最初のテレワーク専門コンサルティング会社として、2008年に(株)テレワークマネジメントを設立
企業等へのテレワーク導入支援や、国や自治体のテレワーク普及事業等を広く実施している。
国の会議にも委員やアドバイサーとして数多く参加。
現在は、地方創生テレワーク検討会議、総務省「ポストコロナ」時代におけるデジタル活用に関する懇談会など、コロナ禍における政策検討会議に参画している。