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「楽観視する」――間違い、分かりますか?【意外な重複表現】

コティマムフリー記者(元テレビ局芸能記者)

 普段当たり前のように使っている言葉。会話の場合はその瞬間に流れていきますが、書き言葉になると見返したり直したりしますよね。

 筆者も記者という仕事柄、原稿は自分でもチェックしますし、さまざまな人の目で確認されてきました(記者仲間、デスク、編集長、その上のもっと偉い方や、権利関係の審査をする部署などなど。それでも見落とすことがあるのですが……)。

 名前や商品名、場所、日付、数字、そもそもの事実・根拠などに気を付けながら執筆していくわけですが、意外とやりがちなのが、同じ意味の言葉を繰り返し使う『重複表現』です。

 この記事では、執筆記事1万本以上、取材経験5000回以上の元テレビ局芸能記者で現・フリー記者のコティマムが、『ニュース記事に使われている何気ない言葉』を解説。今回は、ニュースに限らず『普段の言葉遣いや文章を書く時』にちょっとだけ役に立つ、気をつけたい重複表現をご紹介します。(構成・文=コティマム)

楽観視、楽観、どっち?

 筆者が記者になってよく耳にしたのは、上司からの「”頭痛が痛い”になってるよ。”白い白馬”になってるよ」というアドバイス。これは実際に筆者が原稿で「頭痛が痛い」「白い白馬」と書いたわけではなく、「重複表現になっているよ」という意味で指摘されたのです。

出典:フォトAC
出典:フォトAC

 実は、間違いやすい『重複表現』というのもあって、タイトルに挙げた『楽観視』もそのひとつ。新聞やテレビなどのメディアでは、『楽観視』は『重複表現』とされています。

 でも普段の生活の中では、

○状況を楽観視する

○今後の流れは楽観視できない

などと使っていませんか?

 大辞泉(小学館)によると、『楽観』という言葉には

・物事の先行きをよいほうに考えて心配しないこと。
・心配するほどの事態でもないとして気楽に考えること。

といった、『物事を良い方向に考える、みなす』意味があります。

 また、『視』には「見る」の他に

・~とみなす、~と扱う

という意味もあります。例えば、『敵視』『軽視』などは『敵とみなす』『敵として扱う』、『軽くみなす』『軽く扱う』という意味になりますよね。

出典:フォトAC
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 しかし『楽観する』は、この『楽観』だけで「物事を見通している意味」があるので、ここにわざわざ『視』をつけなくても、『楽観』だけで意味が通じるのです。そのため、『楽観視』としてしまうと、

○先行きをよい方に考えているとみなす

のように、意味が重なってしまうのです。

重要視、問題視は『視』がないと成り立たない

 先述の『敵視』『軽視』のように、『~視』という言葉には、他にも『重要視』『問題視』などがあります。

出典:フォトAC
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 これらは、『視』をつけないと『重要する』『問題する』となってしまい、言葉が成り立ちません。『視』をつけることで、

○重要とみなす、重要な扱いをする

○問題とみなす、問題扱いする

と、意味が通じるようになります。

 一方、『楽観』は『視』をつけなくても『楽観する』という言葉が成り立ちます。『楽観視する』としてしまうと、意味が重なってしまうのです。

出典:フォトAC
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 とはいえ、最近は『楽観視する』という使い方の例も増えてきていることから、「慣用表現として定着した」として許容する媒体もあるようです。

まとめ

 普段、会話の中で話していると、違和感なく使ってしまう『楽観視する』という言葉。以前ほど厳しく誤用とされることはなくなった印象ですが、メディアなどのルールや記事を見ても、『楽観する』が正しい言葉として多く使われています。

 みなさんも、会話や文章を書く中で『楽観』という言葉を使う場合は、『楽観視する』ではなく『楽観する』を使ってくださいね。間違いやすい意外な『重複表現』はまだまだたくさんあるので、今後もご紹介していきます。

 言葉に関する記事については、「【記者的言葉解説】『レモン』を『檸檬』と書けないのはなぜ? 林檎や蜜柑など果物を片仮名にする理由」もご覧ください。※スマホからご覧の方は、プロフィールからフォローしていただくと最新記事の見逃しがなくおすすめです。リアクションボタンもプッシュしていただけると、励みになります!

フリー記者(元テレビ局芸能記者)

元テレビ局芸能記者で、現・フリーランス記者。現在は歌舞伎や舞台、企業・経営者を取材中。記者目線ならではの“言葉のお話”や、個人的に取材したおもしろ情報を発信していきます♪執筆記事1万本以上。取材は5000回以上。現在は『ENCOUNT』、小学館『DIME WELLBEING』、舞台評、出版社書籍要約、企業HP制作など多岐に渡り執筆中。過去媒体にテレ朝ニュース、キャリコネニュース、音楽雑誌『bounce』etc.

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