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芸能記者から見るアントニオ猪木さんのすごさ。そして、芸人さんにプロレスファンが多い理由

中西正男芸能記者
(写真:アフロ)

僕は大学卒業後、デイリースポーツに入りました。

これも縁なのか、僕が受けた年の入社試験では筆記問題にたまたまプロレスに関する問いが多く出されました。

小学3年の頃、友人にもらった分厚い「プロレス大百科」。それをきっかけにプロレスにのめり込んでいったのですが、その圧倒的原動力はアントニオ猪木さんの引力でした。

テレビで猪木さんの試合を見る時はいつも同じ座布団に正座して見ていました。「そこで見ると猪木が勝つ」。子どもながらの願掛けをしながらテレビにかじりついていました。

好きこそものの上手なれ。毎週プロレス雑誌を読み漁り、スポンジが水を吸うように知識を入れていきました。

デイリースポーツの入社試験。「リンゴが3つあります。さらに4つ買ってきたら全部でいくつ?」。それ並みにイージーで、アドレナリンが噴出しました。

入社するとプロレス担当ではなく、芸能の部署に配属されましたが、それでもプロレス熱がおさまることはなく見続けてきました。

そんなこんなで2022年。芸能記者として24年を積み重ねてきたタイミングで巨星が堕ちました。

アントニオ猪木さんの何がすごかったのか。

僕はプロレスのプロではありませんが、プロの芸能記者としては語れる部分もあると考えています。

猪木さんのすごさ。僕は“引きの強さ”だったと考えています。同期がジャイアント馬場さんである。これはいくら努力しても得られるものではありません。

そして、ほぼ全ての猪木さんの言動はこの“同期がジャイアント馬場”というところから生まれているものでもあります。

馬場さんは2メートル超の体躯と元巨人のプロ野球選手という肩書もあり、入った時からスターの道が約束されていました。

一方、猪木さんは常に馬場さんの引き立て役。戦っても、タッグを組んでも、結局光を浴びるのは馬場さん。その構図でレスラー人生がスタートします。

お笑いでも同期、ライバルは本当に大切です。

例えば、かつて島田紳助さんはよくこの話をされていました。

同期に明石家さんまさん、そしてオール巨人さんがいる。さんまさんの華は別格。そして「オール阪神・巨人」の漫才には規格外の技術がある。

普通に漫才をしていては「紳助・竜介」は絶対に「阪神・巨人」に勝てない。では、どうすればいいのか。その結果、売れる旬は短いかもしれないが、世の中に強烈なインパクトは残すはずだと“ツッパリ漫才”を生み出します。

オーソドックスなプロレスではなく、電流爆破デスマッチのようなスタイル。実際に一気に世間の注目を集め、スターへの一歩を踏み出しました。

NSC大阪校11期生。今も多くの人気者が活躍する当たり年と言われています。

陣内智則さん、ケンドーコバヤシさん、たむらけんじさん。みんな同期です。そして、同期の中で最初から「ここはモノが違う」と言われていたのが「中川家」のお二人です。

技術が半端ではない。そして、兄弟という武器も乗っかっている。ここに普通に漫才をやって勝てるわけがない。センサーの感度が高い人ほどそれを瞬時に察知し、自らのファイトスタイルを確立していきました。

馬場さんは「阪神・巨人」であり「中川家」です。「王道」の名のもとに、なんばグランド花月で漫才をやり続けるようなスタイルを貫きました。だからこそ、馬場さんの周りには常に“信頼”という言葉が屹立していました。

一方、猪木さんは馬場さんと違う道を行くしかない。設定の妙が光るコントをやる。目を引くギャグを作る。さらには、芸人の枠を越えて“祭りのクジを全部買い占める”“有名人に突撃する”といった今のユーチューバー的な動きをする。50年以上前からクオリティーの高いサムネイルを考え続けるような活動をしていました。

芸人さんにはプロレス好きが多い。それは単純に昔からファンだったということもあるでしょうが、プロレスラーと共通点が多いからだと僕は思っています。

プロレスラー、そして芸人。この二つの職業を突き詰めると、行きつくところは「オリジナリティー」です。余人をもって替えがたい。そんな存在しかスターになれません。

さらに、いったんリングに上がれば何でもアリ。道で人を殴ったら暴力ですが、リングの上では技になります。

唯一のルールは“お客さんが喜んでくれるかどうか”。それだけです。そして、そこをとりわけ刺激的に、色濃く追い求めたのが猪木さんでした。

最初は一人のファンだったが、芸人という職業に就き、自らの仕事を見つめれば見つめるほど、実はプロレスに全ての答えが詰まっていることに気づく。特に、実践者としてアントニオ猪木の名前がこれでもかと出てくる。

その感覚があるからこそ、プロレスを愛し、猪木さんを愛している芸人さんが多い。これがプロの芸能記者としての僕の見立てです。

「元気ですか!」「1、2、3、ダー!」など猪木さんの名言は枚挙にいとまがありません。ただ、僕が猪木さんを一番表しているのはこの言葉だと思っています。

「どうですか!?お客さん!」

1987年12月27日。ビートたけしさんが「たけしプロレス軍団」を率いて新日本プロレスの両国国技館興行に殴り込みをかけました。

試合カードの急な変更などもあり、会場ではプロレス史、否、スポーツ史に残るくらいの暴動が起こってしまいました。混沌の中、猪木さんが会場に向かってマイクで叫んだのがこの言葉でした。

井手らっきょさんら猪木さんのモノマネをする芸人さんはたびたび使っているフレーズではありますが、先述したようなものに比べると知られてはいません。

ただ、世間に自らの存在意義を問い続けた猪木さんの姿がここに色濃く投影されていると僕は考えています。

「どうですか!?お客さん!」

この言葉はプロレスラーのみならず、芸人さんにも、そして、実は全ての商売に通じるものでもあります。

猪木さんの肉体は死を迎えました。ただ、猪木さんの魂からから学ぶものはこれからも存在し続ける。無理に美談にするわけではなく、正味の話、そう思います。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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