F1ルーキー、角田裕毅のベンチマークはやはり先輩!育成チーム卒業生たちの1年目はどうだった?
日本としてはちょうど10人目のフルタイムF1ドライバーとしてデビューする角田裕毅(つのだ・ゆうき)。久しぶりの日本人ドライバー誕生ということで日本のF1ファンからの期待が非常に大きいはもちろんだが、その注目は日本だけに留まらず世界中から向けられている。
昨年末、FIA(国際自動車連盟)は角田のFIA F2での走りを高く評価し、角田を「FIAルーキーオブザイヤー」に選んだ(日本人初受賞)。角田は世界中のモータースポーツファンから、今までの日本人F1ドライバーとは全く違う「見られ方」をされてF1デビューイヤーを戦うのだ。
今季1番の大物ルーキーとして
2021年のF1には「ハース」からミック・シューマッハ、ニキータ・マゼピン、そしてレッドブル育成チームの「アルファタウリ」から角田裕毅の3人がルーキーとして参戦することになった。
ネームバリューからすると、ミハエル・シューマッハの息子で、2020年のFIA F2でチャンピオンを獲得したミック・シューマッハに関心が集まるはずなのだが、注目度No1は角田裕毅だ。やはり昨年のシーズン終盤の角田の追い上げはシューマッハの存在感を薄くしてしまうほどのインパクトがあった。
また、シューマッハとマゼピンが属する「ハース」は成績が下降線(昨年はランキング9位)を辿っていて、2人ともルーキーという今季の体制では結果は厳しいものになると予想される。
その一方で角田の属する「アルファタウリ」はホンダとのパートナーシップで好調。昨年は「フェラーリ」に次ぐランキング7位を獲得した。今季も引き続き高いポテンシャルを発揮すると期待されている。そんな今得られるベストな環境でF1デビューを果たす角田に注目が集まるのは自然なことだ。
とはいえ、2021年のF1にはワールドチャンピオン経験者が20人中4人も参戦する。100戦以上の経験があるドライバーが半分を占める中で、ルーキーの角田に過度な期待をかけるのは酷な事かもしれない。
ちなみに日本人F1ドライバーのデビュー年では中嶋悟(1987年)の4位入賞が最高位。そしてデビュー年の年間ランキングでは中嶋悟(1987年)、小林可夢偉(2010年=フル参戦初年度)のランキング12位が過去の日本人ドライバーのベストである。
育成チームでの年間ランキング最高位は?
さて、角田のルーキーイヤーはどんな結果になるのだろうか?どのくらいの成績を残せれば、ルーキーとして活躍したことになるのだろう?
ベンチマークになるのは所属チームの先輩たちの結果だ。
角田はレッドブルの若手育成チーム「アルファタウリ」から参戦するが、2019年までこのチームは「トロロッソ」と名乗っていた。レッドブルにワールドチャンピオンをもたらすセバスチャン・ベッテル(現アストンマーティン)を育て、ダニエル・リカルド(現マクラーレン)、マックス・フェルスタッペン(レッドブル)、ピエール・ガスリー(アルファタウリ)という4人のF1優勝ドライバーを輩出。もはやF1には欠かせない登竜門チームである。
そんなトロロッソ/アルファタウリ卒業生の中でもフル参戦デビュー年から際立った成績を残したのが2008年のセバスチャン・ベッテル。2008年イタリアGPではポールトゥウインという衝撃的なジャイアントキリングを成し遂げたベッテルの年間ランキングは8位。これは同チームの歴史全体でも、年間ドライバーズランキング最上位の成績になっている。
しかしながら、セバスチャン・ベッテルは前年の2007年第8戦アメリカGPでBMWザウバーからデビューしており、シーズン後半はトロロッソのレギュラーになってシーズンの半分である合計8戦に出場していたので、厳密にはルーキーイヤーとは言いづらい。
ベッテルを例外とするならば、トロロッソでのデビューイヤーから好成績を残したのはマックス・フェルスタッペンだ。2015年にトロロッソから17歳でF1にデビューしたフェルスタッペンは第2戦のマレーシアGPで早くも7位入賞。年間で見ると全19戦の半分以上となる10戦で入賞し、ハンガリーGPとアメリカGPでは最高位4位入賞を果たした。
ただ、ルーキーイヤーでこれだけ活躍したにも関わらず、フェルスタッペンの年間ランキングはなんと12位。17歳でF1デビューしたドライバーが10回も入賞するだけ十分凄いのだが、現行のポイントシステムではマシンに決勝を6位前後でフィニッシュし続けられるポテンシャルがないとランキング10位以内に入るのは難しい。
パワーユニット時代(2014年〜)になってからはチーム間の差が大きく、上位6位までは「メルセデス」「フェラーリ」「レッドブル(2015年当時ルノーPU)」らメーカーワークスチームが上位を独占していたことを考えると、レッドブル傘下とはいえ体制は小規模な「トロロッソ」でフェルスタッペンは充分なパフォーマンスを示したと言える。
越えるべきは同チームのガスリー
フェルスタッペンの初年度はランキング12位だった。これは一つ覚えておくべき数字かもしれない。
角田が「アルファタウリ」のシートを得たのは、将来フェルスタッペンのチームメイトになって「レッドブル」の看板を背負うドライバーになれるかどうかの見極めを受けるためだ。
この見極めテストをベッテルは約1年半で、リカルドは2年で、そしてフェルスタッペンは1年半でパスし、トップチーム「レッドブル」に昇格してきた。そう、彼らの育成プログラムに「1年目はとにかくF1に慣れてください」などという準備や猶予の期間は存在しない。ルーキーイヤーに残すべきは爪痕ではなく、爪を出して残す結果なのだ。
まずは最大のライバル、チームメイトのピエール・ガスリーを上回れるかがキーポイントになるだろう。ガスリーはすでに60戦以上のF1経験を持っており、経験0戦の角田とは大きな差が存在する。2020年、イタリアGPで優勝も経験したガスリーの壁は厚い。
経験の差が負けた理由になってはおそらく先が無い。ちなみに2010年に日本人ルーキーイヤーの最上位であるランキング12位となった小林可夢偉は100戦以上の経験を持つペドロ・デ・ラ・ロサがチームメイトだった。しかし、小林が予選で上回ることも多く、デ・ラ・ロサはシーズン途中で解任されてしまう。代わってチームメイトになったニック・ハイドフェルドにも小林は負けることはなく、ベテランたちを相手に年間を通じてルーキーらしからぬパフォーマンスを見せたのだ。
小林は結果としてトップチームに年間で所属することはできなかったが、トヨタが撤退し、日本メーカーのバックアップがない中で3シーズンに渡って「ザウバー」で活躍し、3位表彰台も獲得した。先輩は自らの力で道を作っていったのだ。
ホンダが今季限りでF1活動を終了するため、後ろ盾が無くなるのは角田も同じ。その逆境を20歳の若者が乗り越えていく様は、きっと今まで日本のF1ファンが見たことがない、味わったことがない興奮をもたらすに違いない。
中嶋悟、小林可夢偉の日本人ルーキーイヤーのランキング12 位、マックス・フェルスタッペンの育成チームでのルーキーイヤーもランキング12位。これ以上の結果が見えれば、角田の道はおのずと拓けていくはずだ。