日本代表の決定力不足は過去のもの。久保建英のゴールに隠された『セオリー』とは?
『決定力不足』は過去のものなのか。
東京五輪・男子サッカーグループステージ第3戦、日本はフランスを4-0で撃破した。3連勝で決勝トーナメント進出を果たしただけでなく、前半に2点を取って終始先行したことで、2戦フル出場の久保建英をハーフタイムに下げ、後半にも遠藤航、堂安律、田中碧の主力を休ませる余裕ができた。これは地味に大きく、後に効いてくる。
なぜ、それができたのかと言えば、早めに試合を決定付けたからだ。
前半27分、34分の連続ゴールは、どちらもFW上田綺世のシュートが起点となり、そのこぼれ球を詰める形だった。ポイントは、上田のシュートがどちらもファーサイドをねらったことだ。
シュートをファーサイドに打つ利点はいくつかあり、一つは相手GKの重心移動において、逆を突きやすいこと。二つ目は、枠を外れたシュートに味方が逆サイドから詰め、意図せずクロスになって得点できる可能性があること。
そして三つ目は、GKがセーブしたボールが、ゴール正面にこぼれやすいことだ。ニアサイドへのシュートは、セービングで強く弾けばサイドやCKに逃げられるが、ファーサイドへのシュートは、フリック気味に流さなければ逆サイドやCKに逃げられない。しかし、それはオウンゴールの危険が大きいので、どうしてもファーへのシュートは、ゴール正面の詰めやすい場所にこぼれがち。
前半27分の場面は、まさに上田のシュートを相手GKが弾き、ゴール正面にこぼれたところを久保が詰めた。34分の場面も、相手GKはサイドやCKに逃がすことはできず、酒井宏樹が爆走して詰めた。
久保と酒井の詰めも素晴らしいが、そういうシュートを打てる上田も素晴らしい。点取り屋らしいフィニッシュをするストライカーがいると、チームの決定力が高まっていく。
もちろん、絶対にファーサイドだけをねらえ、という意味ではない。時間と余裕があれば、GKの位置をしっかり見て、何なら駆け引きもして、万全のシュートを流し込めば良いが、相手DFがいる場合はそうもいかない。タイミングを逃さずに打ち込むしかない。その場合は、シュートコースの選択により、チームの決定力を高めることができる、という話だ。
日本は素晴らしい決定力で、フランス戦を理想的に進めることができた。
第2戦のメキシコ戦もそうだ。日本は相手を分析し、背後を突く攻撃と、ハイプレスによって素晴らしい立ち上がりを見せた。何より大きいのは、そこで2得点を奪い切ったことだ。決定機を外していれば、メキシコはすぐに対応を始めたはず。一方、第1戦の南アフリカ戦は相手がベタ引きで、日本も初戦でエンジンがかからず、点を決めるまでに時間を要したが、それでも最後は久保建英が見事なフィニッシュを決めた。
日本代表の『決定力不足』は、過去のものになりつつある。
筆者の印象では、それを最も強く感じたのは、2015年のアジアカップ準々決勝のUAE戦だ。シュート35本で1得点に終わった日本は、1-1の延長の末、PK戦で敗れた。あの頃はたしかに、『決定力不足』はあったと思う。
しかし、ロシアワールドカップや2019年のアジアカップを思い返しても、もはや『決定力不足』が大きな問題になっているとは思わない。むしろ、直近のワールドカップ・2次予選、2019年のキルギス戦など、思わぬ苦戦を強いられる中、日本の決定力に救われて、なぜか4-0で圧勝を果たす、という試合もあった。
フランスには、「病気が認識できれば半分は治ったようなもの」という格言がある。
日本のサッカーでも、そうした認識のムーブメントが起きたのではないかと思う。決定力を欠いて日本代表が負けた試合を目にした、10代の選手やその指導者たち。あるいは私自身も上記のUAE戦の後、決定力やFW論をテーマとした『日本サッカーを強くする観戦力』という本を書き始め、元Jリーガーの長谷川太郎氏に長々と取材させてもらった。長谷川氏は『TRE2030 STRIKER ACADEMY』を発足し、現在も精力的にストライカーの専門指導を続けている。
もはや決定力不足は過去の話。今はむしろ、苦しいときでも1点を奪える力が、日本の武器になりつつある。
東京五輪準々決勝のニュージーランド戦は、おそらく決定力がクローズアップされる試合になるだろう。相手は守備が堅く、ゴール前をガチガチに固めてくる。グループステージではキャプテンのDFウィンストン・リードが前半早々に負傷退場したホンジュラス戦こそ、大混乱で3失点を喫したが、韓国戦とルーマニア戦は無失点に抑えている。
この最強の盾に対し、成長した日本代表の決定力を見せつけてほしい。