「資生堂ショック」から考える、育児中の女性が働く会社経営陣の深いナヤミ
11月9日(月)にNHKで放送された「資生堂ショック」のニュースが大きな話題となっています。(参考記事:“資生堂ショック” 改革のねらいとは)
育児休暇や短時間勤務など、いち早く導入してきた資生堂は「女性に優しい会社」と言われてきた。その資生堂が、育児中の女性社員にも平等なシフトやノルマを与える方針転換を打ち出した。この方針転換が時代の流れと逆行するような内容であったため「資生堂ショック」と呼ばれているようです。
「資生堂ショック」に対するネット上での反応は総じて「悪い」。「批判が殺到した」という記事もあります。資生堂の商品はもう買わない。不買運動する……など物騒な表現も飛び交っているほどです。
このような方針転換に至った理由が、売上減による業績悪化であったからでしょう。「短時間勤務」の美容部員が、より多くのお客様と接点を持つことができず、接点減がそのまま売上減につながったという論法や、それを理解させるためにとった”やり口”がバッシングに繋がっています。
私は企業の現場に入り、目標を絶対達成させるコンサルタントです。経営者目線で考えれば、まずは目標達成が第一。労務上の問題はいったん横に置き、業績安定が先です。そして業績を安定化させるためには、どのような人的リソースを正しい「時間」と「空間」に配分すべきかと考えるのは当然のこと。
良いとか悪いとか、時代に合ってるとか合ってないとかではなく、これが経営者の思考パターンである、ということです。これを理解できないと資生堂の方針転換も同様に理解できないと思います。
「道徳なき経済は罪悪であり、経済なき道徳は寝言である」という二宮尊徳の名言があります。
従業員の生活や幸せを考えない経営は罪悪であり、安定した経営がないのに従業員の幸福を考えるのは寝言である、のです。資生堂の経営者は約3,500人(連結で33,000人)の従業員全体を見ています。業績悪化は、ダイレクトに従業員全員に影響を及ぼすファクターであり、この状態を放置することは絶対にできません。
コンビニのレジ打ちとは違い、お客様のニーズに合わせた対面販売をメインとする資生堂は、「美容部員」の洗練した技術、熟達した接客、確かな話術……などによって支えられています。
これは構造上の問題です。化粧品メーカーには、インターネットやカタログで通信販売するスタイル、訪問販売や連鎖販売取引するスタイル、エステ等の店舗で販売するスタイル……など、多様な販売スタイルがあります。「訪問販売」のようなスタイルであれば、スタッフが比較的自由な時間で販売活動をすることができます。しかし資生堂のように、「時間」も「空間」も制限されているような売り場による対面販売をしていれば、このような問題が出てくることは仕方のないことです。
平日の夜や土日が「繁忙期」であり、ここに実績のあるベテラン美容部員に活躍してもらいたいと願うのは、経営サイドからすれば当然の心情です。
売上や収益を回復させるための方策は、もちろん美容部員の労働時間の変革だけではない。ヒット商品の開発や、新しい販売チャネルの獲得、プロモーション全般の見直しなど、解決すべき問題は山積していることでしょう。
ただ、私が現場で目標を絶対達成させてきた過去の体験からして、最もスピーディに、そして確実に売上をアップさせる方法は、営業や販売員のパーソナルコミュニケーションの量を単純に増やすことなのです。メディアを使ったマスコミュニケーションを変えるのは再現性が乏しく、ましてやプロダクトの変革は時間がかかりますし、売れなかったときのリスクが非常に大きい。
ニュースにもあるとおり、美容部員の「1日18人」という接客ノルマは業績回復のための一番の近道であり、理にかなっています。しかしこの「1日18人」のノルマを繁忙期にも実現させるためには、「短時間勤務制度」を利用している人たちの意識改革であったり、運用ルールの抜本的見直しが不可欠でした。
まずは手元のキャッシュが増えない限り、経営陣は次なる打ち手を考えることができません。女性活躍促進が時代の潮流であるはずなのに、その流れに逆行するような方針転換はあり得ない等と言っていると、みるみるうちに業績が低迷し、経営者は別の問題解決のために奔走しなければならなくなります。
いわゆる財務的な構造変革。つまり「リストラクチャリング」です。
私は資生堂の方針転換を支持します。しかし、美容部員の労働時間や労働量のみだけで、すべての問題が解決するわけではありません。一定の業績回復が見込まれた時点で、次の方策を考えるべきでしょう。「平等」と「フェア」は違います。すべてを平等にすることはできませんし、まさに「寝言」と言えるでしょう。育児中の女性のみならず、そこで働く人たちすべてが「フェア」だと思える制度を、試行錯誤を繰り返しながら作り上げてもらいたいと思います。
これは化粧品メーカーの販売員や店舗スタッフの問題にとどまりません。「時間」と「空間」が拘束される職種は、看護師、塾講師、美容師……等、同じような問題を抱えています。「平日の夜はダメ」「週末はもっとダメ」という主張をそのまま受け入れようとしたら、経営陣は頭を抱えてしまいます。
女性の働き方改革を先頭で走ってきた資生堂だからこそ、この難題を解くカギを見つけてもらいたいですね。