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ガールズバンドの光と影を赤裸々に映し出した、SCANDALのロードムービー

田中久勝音楽&エンタメアナリスト

ワールドツアーで気づいたバンドしての“使命感”

今、音楽シーンはガールズバンドが百花繚乱、まさに咲き乱れている。チャットモンチー、ねごと、FLiP、tricot、SHISHAMO、赤い公園、LoVendoЯ、SilentSiren、キノコホテル、たんこぶちん、惑星ごっこ、がんばれ!Victory……数えきれないほどの、様々なスタイルのガールズバンドが多くのファンを喜ばせているが、その中で、海外にもファンが多く2014年6月には、あのプリンセス・プリンセス以来23年ぶりに横浜アリーナ2days公演を成功させるなど、今、最も勢いがあるのがSCANDALだ。彼女たちのワールドツアー『SCANDAL WORLD TOUR 2015 HELLO WORLD』は、日本以外に4月25日(土)のフランス・パリ公演を皮切りに、イギリス・ドイツ・シンガポール・台湾・アメリカ・メキシコ・中国(香港)、全8か国で10公演行われ、どの国の会場も熱狂的なファンで埋め尽くされた。その海外ツアーにカメラが完全密着し、彼女たちの素顔を追ったロードムービーが『SCANDAL “Documentary film「HELLO WORLD」”』だ。でもこの作品、ガールズバンドの海外ツアーをただ追いかけて作ったドキュメント映画ではなく、バンドがどういうものなのか、どうやって“成立”しているものなのか、メンバーそれぞれの人間的な部分をあぶり出し、バンドの表と裏、光と影を見事に描き切った作品に仕上がっている。

彼女たちはインディーズ時代から海外でライヴを行っていて、デビュー当時は制服を着たガールズバンドという立ち位置、“ジャパンカルチャー”の象徴のひとつとして海外でのイベントに数多く参加し、アジアを始めアメリカ、ヨーロッパでもその知名度は高い。だが、今回のツアーはメンバー一人ひとりにこれまでの海外ツアーの時とは違う“何か”、を残し、気づきや発見に満ちた、インパクトある経験だったようだ。

HARUNA「4人でこのバンドをやってきたこと、これからも続けていきたいということが再認識できました。なんでこの4人じゃないとダメだったのか、なんでこの4人で、ガールズバンドだったのか、自分達を再発見できたツアーでした。最初の頃はただただ楽しい感じだったのですが、途中のメキシコで、メンバー内に不穏な空気が流れまして……それがあって自分達のことをより考えました」。

TOMOMI「今まで何度も海外でのライヴは経験していますが、今回は『HELLO WORLD』(2014年12月3日発売)というアルバムを引っ提げてのツアーで、今までとは全く違う意味合いで行けたことが嬉しかったです。このアルバムは、本当に自然な感じで作ることができた等身大の作品で、それを海外の人に聴いてもらうことができ、受け入れてくれ、私たちのことを“バンド”として観てくれているんだと感じることができ、自信になりました。ライヴ会場の前に並んで待ってくれている人たちに、インタビューをしているシーンがあるのですが、その言葉を聞いていると泣けてきちゃいます」。

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RINA「自分たちが海外にツアーに行く理由をしっかり見つけることができました。今までは、毎年海外でライヴをやっているのでそれを継続させたいとか、SNSを通じてたくさんの海外のファンの方が待ってくださっているのが伝わってくるので、楽しそうだし行こうよとか、日本での活動の箔付けにもなるし(笑)、いいフィードバックがあるといいなぁとか、正直そういう感覚で海外でライヴをやっていました。海外でメディアにインタビューを受けると「なんで女のコがバンドやってるの?」とかよく聞かれますし、「ガールズバンドってなかなか続かないし、希少だ」っていうイメージが強いみたいで、そこでやっぱり求められているということを改めて実感しました。日本のカッコイイ音楽とか、ガールスバンドの良さを、自分たちが世界に届けに行かなくちゃいけない、これは使命だっていう気持ちが初めて湧いてきて、これが海外でツアーをやる理由だったんだなって思いました。気づかされました。ここからがスタートだって感覚があります」。

MAMI「ソングライターとしての自信がつきました。『HELLO WORLD』というアルバムがセルフプロデュース色が強いというのもあって、自分たちが作った音楽が日本だけではなく国境を越えて海外にも届いていて、さらにそれを見つけてくれた人たちがコミュニティを作って広めてくれていて、単純にそれが嬉しかったです。特に和の雰囲気の曲が人気で、和メロだったり、ワードが日本の四季を歌ったものとかがキャッチーに捉えられていて、改めて私たちが使っている日本語を美しくしていかなければいけないし、日本語が元々持っている美しさや丁寧さを大切にしたいなと思いました」。

憧れの地・ロンドンの耳の肥えたファンを圧倒し、自信に

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来年デビュー10周年を迎えるSCANDALの4人が、そんな節目を前に異国の地の違う空気の中でバンドとしての存在意義や意味を、期せずして見つめ直すことができ、それは彼女たちにとって何物にも代えがたい時間になった。全10公演のチケットはソールドアウトになる公演も多く、どの会場も日本からのファンではなく、地元のファンで埋め尽くされた。

RINA「特にメキシコのノリは凄かったです」。 

HARUNA「圧倒されましたね」。

TOMOMI「パッションと人が持っている力も凄くて、ずっと笑顔だし、集まると凄まじいエネルギーなんです。自分たちがいるその空間を、どれだけポジティブなものにするか、それを徹底しているような感じを受けました」。

HARUNA「ポジティブなエネルギーが集まってました。みんな陽気で楽しくて、いい国だなと思いました」。

MAMI「2500人のお客さんが、まるでライヴをやってくれているかのように、メキシコのバースデーソングを大合唱して誕生日のお祝いをしてくれて、本当に嬉しかったです」。

RINA「ロンドンでは老舗のライヴハウスでやらせてもらって、そこの常連さんや、日本のガールズバンドってどんなもんなんだろうって、興味を持って観にきてくれている人もいれば、バーカウンターでお酒を飲みながら観ている人もいて、いい意味でシビアに捉えてくれていたと思うし、今、日本でなかなかそういう状況の中でライヴをやることもないですし、すごく新鮮で、気合が入りました」。

TOMOMI「ロンドン公演の次の日ショッピングをしていたら、「昨日ライヴ観に行ったよ」って声をかけてくれた人がいて、その人たちは私たちのことを知らなくて、たまたま観て下さったみたいなんです。でも「昨日ライヴすごく良かったからCD欲しいんだけどどこで売ってるの?」って言って下さって、そんな風にライヴを観てCDを買って下さる人がいるんだ、ということが凄く嬉しかったです。当日券文化というのもなんか素敵だなって思いました(笑)」。

結成以来初の不穏な空気。映画の本当の結末はメンバーだけが知っている!?

4人の憧れの地でもあるロンドン。ロンドンでは、歴史ある、イギリスも最も有名なライブハウスのひとつであるO2アカデミーでライヴを行い、現地の耳の肥えたリスナーからも高い評価を得た。ロンドンっ子達の厳しい目と耳を圧倒した自信、メキシコでは、ライヴにはやはり客席のパワーが欠かせないと再認識し、アジア圏では今までにも増して熱狂的な歓迎を受け、バンドして手に入れたいもの、感じておきたいことを次々と叶えることができ、そんな一見順調だったはずのツアーに暗雲が立ち込めはじめたのは、陽気な国・メキシコだった。しかしこの出来事が映画にとってだけではなく、彼女達にとってもは非常に重要な意味を持つことになる。

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RINA「メキシコでメンバーとケンカして、ザラついた空気が流れて……その後にちゃんと4人で話し合ってまた走り出すというのは、実は初めてに近い出来事でした。基本的にいつも平和で穏やかなバンドなんですけど、このタイミングで、しかもワールドツアーの折り返し地点でああいうことが起きたのも、すごいタイミングだなと思いました。それをカメラに押さえることができたのって、すごく意味があるような気がしていて……。反省の意味も込め、そして“一人ひとりの人間”がバンドを組んで、ワールドツアーをしているという証を残しておこうということを話し合いで決め、ギリギリまで悩んで、入れることにしました。刺激が強すぎるという意見もあり、帰国してからも編集の締め切り直前まで4人で話をして、その時4人それぞれが“自分が一番ダサく見えている”ことに気づきました。これは自分のきれいな部分ばかり見せるのではなく、ちゃんと反省できる証というか、しるしというか、本当の出来事を残しておこうという結論に至りました」。

HARUNA「9年やっていると一緒にいることが当たり前で、今まではこういうことは思っていても避けてたというか、避けられていたんですよね」。

RINA「でもドキュメンタリー映画って恐ろしいなぁって思いました(笑)。全部入れないときちんとつながらないですし、そうじゃないと今までCDに付けていた特典映像と変わらなくなっちゃうんで(笑)。もちろん別物なんですが、全部入れないと何か物足りないものになるんじゃないかとは思っていました」。

TOMOMI「映画を撮り終わって、編集の段階でそのシーンを入れるか入れないかの話し合いを4人でしたところが、私達的には結末なんですよ。実は映画の中では本当の解決はしていないんです。それが解決できたことでバンドとしてまた一歩前進できた気がします。このドキュメント映画を撮ったか撮らないかで、これからのSCANDALの進む先が変わってきたんじゃないかと思うほど、この映画を撮って本当に良かったと思っています」。

映画と主題歌「ちいさなほのお」で4人が伝えたいこと

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美しい成長カーブを描きここまで来たSCANDAL。しかしこれからさらに成長していくために必要な事、そしてこのタイミングで気づいておきたいこと、知っておくべきことを今回のワールドツアーで手にした。また、ドキュメント映画という形で残しておくことで、その“想い”を確かめる“すべ”を残した。それはこの映画の主題歌も“すべ”のひとつだ。「ちいさなほのお」という作品は「炎」という漢字から伝わる、燃え盛る感じとは全く違い、強くも優しく温かな感じが伝わってくる。この映画用に書き下ろした曲ではなく、すでに存在した曲がこの映画にピタリとはまったという。

RINA「私が歌詞を書いたのですが、書き始めた時からひらがながしっくりきました。キャンドルに灯っている小さな火をイメージして書きました。映画用に作ったわけではないのですが、内容が驚くほどリンクしていて……。悩んだりつまずいたりした時、究極ですがいつか死んじゃうと思ったら、頑張って乗り越えて、やりたいことをやるべきだし、自分が好きな人生を自分で作るべきだと思って、私は今まで動いてきたので、みんなにもそういうふうにしてほしい。私達にとってはそれがライヴとかツアーで、それがもう自分たちの生活の一部になっていて、聴いてくれる人みんなにもそういう何かがあると思うし、そこは共通しているところなので、悩んでいる人の背中を押してあげることができる、優しくて強い曲になったらいいなと思ってます」。

ワールドツアー後のアリーナツアー、シンプルに等身大で

劇中、ロンドンの街を歩きながらRINAが「生きているうちにあと何回来れるんだろう」と言うとMAMIが「これが最後かもしれないし、もしかしたら10回、20回来れるかもしれないし」と会話するシーンがある。とにかくその瞬間を、毎日を一生懸命生きる、やりたいことをやる、そんな彼女たちの真っ直ぐな想いを垣間見ることができるシーンだ。まさに「ちいさなほのお」の中で彼女達が言いたかったことだ。

彼女達は年末には4万人を動員する初の東名阪アリーナツアー『SCANDAL ARENA TOUR 2015-2016『PERFECT WORLD』』を開催する。ワールドツアー後のアリーナツアーということで力が入りそうだが、今の彼女たちは本当に自然体で、いい意味で力が入っていないことで、逆に素晴らしいパフォーマンスができていることがわかっている。ワールドツアー帰りだからといって気負いは一切ない。

HARUNA「あくまでシンプルに、クールにやりたい。アリーナだからといってそこに向けてド派手なものを用意するとかではなく、映画の中でもRINAが言ってますが今、バンドとしての贅肉がどんどん削ぎ落とされているという意識が強いので、アリーナも等身大、そのままを持っていきます」。

TOMOMI「海外に行くとやっぱり欲深くなって(笑)、もっと上手くなりたい!ってすごく思います」。

RINA「今、バンド人生の中で一番上手くなりたい!って思ってます。それが“伝える”には必要なんです!」。

世界9か国をまわったワールドツアーで、バンドしてまたひと回り大きくなったSCANDALの4人。そのツアーの様子を収めたドキュメンタリーフィルムで、SCANDALというバンドのそのままを、赤裸々に映し出し、ファンとそして自分達のことをまだ知らない人達に、自分達のことをより知ってもらいたいと思った。そして自分達もまたSCANDALというバンドのことをもっと知りたいと思ったに違いない。

『SCANDAL “Documentary film「HELLO WORLD」”』という映画は、実に色々な“奇跡”が重なり、完成した映画だ。時間のいたずらが作り出す”タイミング”に、いい意味でも悪い意味でも“見事”に翻弄されている日常が作り出す“奇跡”の数々。4人も自分達の一部始終が描かれた映画を観てそう思ったはずだ。主題歌「ちいさなほのお」もその“奇跡”の一部だ。

先日、公開に先立って行われた、ファンも招待されたマスコミ向け試写会で、RINAが言ったひと言が強く印象に残った。「日常ってすごくドラマティック」―――。

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■映画情報■

『SCANDAL “Documentary film「HELLO WORLD」”』(監督:Chie Okazawa)

2015年10月17日(土)よりユナイテッド・シネマほか全国の映画館にて期間限定公開

料金:¥2,500(税込)

『SCANDAL “Documentary film「HELLO WORLD」”』の主題歌「ちいさなほのお」がダウンロードできる特製カード付き

※特製カードは当作品観賞時に映画館でのお渡しとなります

'''映画オフィシャルHP:http://www.bsfuji.tv/hello_world/index.html

■ライヴ情報■

『SCANDAL ARENA TOUR 2015-2016 『PERFECT WORLD』』

12月9日 兵庫・神戸ワールド記念ホール

12月23日 愛知・日本ガイシホール

1月12日 東京・日本武道館

1月13日 東京・日本武道館

オフィシャルHP:http://www.scandal-4.com/

<PROFILE>

HARUNA(Vo,G)、MAMI(G,Vo)、TOMOMI(B,Vo)、RINA(Dr,Vo)の4人組。2006年大阪・京橋で結成。2008年「DOLL」でメジャーデビュー。翌年には「少女S」で「日本レコード大賞」新人賞受賞。2012年3月には日本武道館公演を異例の速さで達成し、翌2013年3月には夢であった大阪城ホール公演を5分で即完させるなどライヴでの実績を重ねていく。2014年6月にはプリンセス・プリンセス以来23年ぶりに、横浜アリーナ2dyas公演を成功させた。近年ではSCANDALの影響で楽器を始める女子も増え、2014年12月第5回SCANDALコピーバンドコンテストには国内外から614組のエントリーが集まり10代女子を中心に絶大な人気を誇っていることを証明。2015年SCANDAL史上最大世界9カ国41公演のワールドツアーを大盛況に収め、年末には4万人動員予定の初の東名阪アリーナツアーの開催も発表。さらに来年2016年8月には結成10周年を迎える。名実ともに、日本そして世界を代表するガールズバンド。

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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