豊島将之名人(30)1日目午前中から積極的に仕掛ける 名人戦七番勝負第3局開始
6月25日9時。東京・将棋会館において第78期名人戦七番勝負第3局▲豊島将之名人(30歳)-△渡辺明三冠(36歳)戦、1日目の対局が始まりました。
名人戦七番勝負は日本各地を転戦しておこなわれます。しかし今期はコロナ禍の影響により対局が延期、対局場も変更されました。そして第3局は棋士のホームグラウンドともいうべき、将棋会館での対戦となっています。
名人戦が将棋会館でおこなわれるのは1982年7月30日・31日、第40期名人戦第8局以来です。
伝説の「十番勝負」から38年が経ちました。その時と同様、今期名人戦は真夏に最終盤を迎えることになります。
将棋会館での普段の対局はほとんどの場合、対局者はスーツ姿です。
一方で名人戦の本局。豊島名人、渡辺挑戦者は羽織袴の和装で臨みます。
両対局者はいずれもハードスケジュールの中での対局が続きます。
名人戦第2局と第3局は中5日。その間には、豊島名人は挑戦者の立場として叡王戦七番勝負第1局も戦っています。
名人戦第1局は渡辺挑戦者、第2局は豊島名人と、いずれも後手番の側が勝ちました。
「はい、定刻10時になりました。豊島名人の先手番でお願いします」
立会人の塚田泰明九段の声がかかって、両者一礼。第3局が始まりました。
報道陣のカメラのシャッター音が響く中、豊島名人は初手、飛車先の歩を突きました。
渡辺挑戦者はしばらくの間、瞑想します。そして歩を一つ進め、角道を開けました。
ここで報道陣が退出。豊島名人はさほど時間をおかず、こちらも角道を開けました。豊島名人先手の第1局は角換わりに進んでいます。
4手目。後手番の渡辺三冠はもう一つ歩を突いて、こんどは角道を止めました。これでもう角換わりにはなりません。
名人戦は持ち時間9時間の2日制。このまま1日目は、相居飛車で穏やかな駒組が続くことも考えられました。
しかし開始約1時間後。22手目、渡辺三冠が中央三段目に銀を上がったところで、にわかに戦機が高まります。
豊島名人はちょうど30分、考えました。そして23手目。歩を突っかけて、仕掛けていきました。これはもう、どれだけ激しい展開になってもおかしくはない進行です。
12時を過ぎた時点では27手目、豊島名人が5筋の歩を突いたところまで進んでいます。形勢はもちろんまだ互角ですが、どちらかといえば後手番の渡辺挑戦者がバランスを保つのに苦労する展開になるかもしれません。
12時1分。豊島名人が席を立ち、いったん部屋を出た後、渡辺挑戦者からは「いやあ」というつぶやきが聞かれました。
第1局、第2局と、渡辺挑戦者は黒いスポーツ用のマスク「バフ」をつけて注目されました。第3局はいまのところ、それはまだ登場していません。
「じゃあ休憩にしてください」
記録係が定刻になったことを告げる前に、渡辺挑戦者がそう声をかけ、休憩に入りました。
両対局者の昼食はともに、将棋ファンにはなじみの深い、近所の店からの出前です。
やはり将棋会館でおこなわれた棋聖戦第1局。渡辺棋聖(三冠)はうな重を頼んでいました。
渡辺挑戦者はコメント通り、寿司を頼んだというわけです。一方で豊島名人はマイペース。普段どおりのお弁当メニューでした。
名人戦の昼食休憩は12時30分から13時30分までです。
一方、将棋会館での通常の対局の昼食休憩は、12時から12時40分です。
将棋会館では本日、多くの対局がおこなわれています。中でも注目されるのは、B級2組順位戦1回戦▲佐々木勇気七段-△藤井聡太七段戦でしょう。
順位戦の一局一局は、名人戦へと続いています。佐々木七段、藤井七段がB級1組、A級と昇級を重ね、名人戦七番勝負の舞台に登場するのは、最短でも3年後、2023年のことになります。
数年後、佐々木七段や藤井七段が名人戦に登場していても、なんら不思議はありません。しかしそこに至るまでの過程は過酷で険しい。幼少期から名人候補と言われた豊島現名人、渡辺現三冠も、名人戦に出るまでには相当な苦労を重ねています。
あとで振り返ってみたとき「B2の佐々木勇気-藤井聡太戦は、将棋界のゆくえを大きく左右する一番だった」と言われる可能性もありそうです。