移籍が活発ななでしこリーグ。長野の本田美登里監督が見据える正念場のシーズンとチーム再生プラン(2)
なでしこリーグは12月から1月のオフシーズンにかけて、移籍市場が活発な動きを見せた。
中でも、AC長野パルセイロ・レディースは今シーズン、26名中14名が退団し、新たに7名が加入した。
移籍が活発ななでしこリーグ。長野の本田美登里監督が見据える正念場のシーズンとチーム再生プラン(1)
長野で7年目のシーズンを迎えた本田監督は今シーズン、どのようなチームづくりを進めるのか。1月19日のチーム始動日を取材した。
地域密着を大切にするチームづくりや、なでしこリーグの黎明期からの流れを知るパイオニアとして、なでしこリーグのプロ化計画(*)についても考えを聞いた。
(*)日本サッカー協会の理事会(2018年7月26日)において、前なでしこジャパン監督の佐々木則夫理事を中心にリーグのプロ化についての協議が行われ、東京五輪後の21年、もしくは準備期間を十分に設けて22年移行などの案が出されている。
【本田美登里監督インタビュー/1月19日トレーニング始動日】
●監督として迎える7年目のシーズンについて
ーーパルセイロ・レディースの監督として7年目のシーズンを迎えようとされています。地域密着という点では、継続して力を入れていかれるのでしょうか。
本田監督:地方都市では本当に、(サッカー文化を)根付かせることが優勝と同じかそれ以上に大事だと感じ始めているんです。松本山雅がすごく羨ましいと思うのは、J1に昇格したことよりも、(昨年の)最終戦で約2万人のお客さんが入って、おじいちゃんやおばあちゃん、子供たちが喜んで涙を流していたことです。それが、本当に羨ましくて。パルセイロ・レディースも(県民にとって)なくてはならない存在になりたいし、長野だからこそできるんじゃないかな、という思いが、さらにふつふつと湧いてきています。
ーー長野の監督になった時はお客さんが3、400人ぐらいだったそうですね。
本田監督:そうですね。なんでそんなに(集客に)力を入れるの?って言われることもありますが、私は当たり前だと思っています。私は地方でずっとやってきて、(岡山湯郷ベルの)美作でも地元の人とのふれあいを大事にしてきましたから。
ーー湯郷時代と同じように、講演などにも積極的に行かれていますね。長野でも、意識して地域の人たちとの関わりを大切になさっているんですか。
本田監督:大切にしたいと思っています。犬の散歩をしているときに、声をかけていただくこともありますよ。犬の散歩は、意図的にというか仕方なくやっているんですが(笑)。私もぼーっとしてちゃいけないと思って、近所の人に「おはようございます」と声をかけるんです。朝だから、挨拶をしても流されたり、無視されちゃうこともありますよ。でも、次にすれ違う人に声をかけてみる。その繰り返しです(笑)。都会ならまず、知らない人に挨拶をすることはないですよね。
●選手の移籍とプロ化に向けて
ーー今シーズンは、選手がかなり動きました。2部でも、選手に魅力的なオファーを提示できるチームが出てきましたね。
本田監督:それはそれでいいことだと思います。それで、他のチームも頑張って選手たちにそれなりの条件をあげないと、みんな流れていってしまうから。選手たちにとってはいいことだと思います。
ーー現状、なでしこリーグはプロではないからこそ、移籍しやすい部分もあるのでしょうか。
本田監督:そうですね。ただ、それでチームに愛情を持てなくなってしまうのは嫌なので、私は今年、チームに残った選手の気持ちを考えた時に、そういう選手たちを大事にしてあげたいし、不安なくやらせてあげたいと思っています。
――選手たちに対して、どのようなアプローチをしたいと考えていらっしゃいますか?
本田監督:講演会では、「選手たちはプロじゃなくて働いているんです」と言いますが、試合を見にきてくださる皆さんが彼女たちをアマチュアとして見ているか、といったら、そうではない部分が多い気がするんです。だから、もっと、地域のシンボリックな存在になれるように選手たちの意識を変えて、クラブ側も、一人でも多くの選手をプロ契約にしてくれるような方向に持っていきたい。選手たちにそういう意識や責任感を持たせてあげることで、彼女たちもサッカーに集中できると思いますし、アマチュアだから、と逃げることがないようにしたいですね。
ーー練習の中で、選手たちに具体的に伝えたことはありますか?
本田監督:まだそこまでは伝えていないのですが、いずれ、はっきり言おうと思っています。何年か後になでしこリーグがプロリーグ化をしようとしています。まだ決まったことではないですが、そこでパルセイロも手を挙げようとしてくれている。プロ化は、高卒の選手たちにとってはものすごく目標になると思うんですよ。全てのチームがINACのような(昼間から練習できる)環境になるということなので。その環境を、自分たちの力で掴めることは相当なモチベーションになると思うし、意識も変わると思います。(プロサッカー選手として)見られていることが当たり前で、それをストレスにも感じなくなる。
今はチームに長野県出身の選手が増えてきています。彼女たち(*)はまだ18歳、19歳ですけれど、意識を徐々に変えていくことで、3、4年後に「9」、「10」、「11」といった(主力級の)背番号を背負えるようになってほしいなと思います。
(*)今シーズン、長野県出身の3名FW 中村恵実(長野市/18歳)、MF瀧澤千聖(岡谷市/17歳)、FW山岸夢歩(須坂市/18歳) が加入した。
ーー長野県や北信越出身の選手は、意図的に増やしているのでしょうか。
本田監督:そうです。というのも、関東で生まれた子、関西で生まれた子も、シャケが川に戻るのと同じで、いずれは地元に帰ってプレーする子が多い。それなら北信越出身の選手たちを育てることも考えなければいけないと思いました。まだ磨かれていない原石は、特に北信越はいっぱいいるので。
ーー本田監督は今でも子供達のサッカースクールなどに足を運ばれる(*)そうですが、そういう時に見つけるのですか?
本田監督:はい。(パルセイロ・レディースの下部組織の)シュヴェスターの子でも、地元出身の子で「おっ」と思う子がいるんです。ただ、育てられていないし、磨かれていない。もちろん、関東の方が選手の絶対数は多いのですが、北信越にもいるんです。ただ、関東からそういう(才能のある)選手を取ろうとしても、なかなか来てくれない。埼玉や神奈川ならすぐに実家に帰れるから、という理由も。そこもプロだったら違うだろうし、全てを変えていくことが必要だと思っています。
(ベレーザの下部組織の)メニーナのように選手を育成できれば将来的にお金もかからないし、北信越には十分に(伸びしろが)ある。それをやっていくのが地方都市のやり方だと考えています。
*宮間あやが10歳の時にサッカースクールでその才能を見出した。今シーズン加入する瀧澤千聖も、小学生時代にサッカー教室で出会い、将来が楽しみだと感じた選手の一人だったという。
●強力な「個」を11人並べるチームに
ーー今シーズンは、7人の選手が加わりました。どのようなチーム作りを考えていますか。
本田監督:余計な話かもしれないですが、(多くの退団選手が出て)皆さんが心配されるようなことは、一切心配していません。もう一度、前からプレッシングをかけて運動量の多いアグレッシブなチームを作りたいと考えています。選手たちが入れ替わっているので、即優勝というよりは、何年かかけてもう一度土台を作って優勝を狙えるチーム作りの1年目としてやっていきたいです。
ーー1部で4年目です。1年目(2016)は攻撃的なサッカーで、2年目は守備の強化に着手しました。3年目の去年は、再び攻撃的サッカーを目指しながら、うまくいかなかったのはなぜでしょうか。
本田監督:特に昨年の前半戦は、横山が(ドイツ・フランクフルトへの期限付き移籍で)いない中で、全員で攻めて全員で守ろうというチームとしての一体感があったけれど、どうしてもぬるい部分があった。そのぬるさを、横山が帰ってきたところで厳しくしようと思っていたのですが、噛み合わない部分がありました。そういう意味では、一人で守れて一人で突破できる、そういう選手をもっと育てていきたい。そこが私の得意分野でもありますから。
S級(の講習)で、(日本代表の)森保監督の話を聞いていた時も、「やっぱり個だ」と。個で突破できる、ボールを奪える。そういう選手たちじゃなければ世界では通用しない。私はチーム作りは上手くないけど、それは小笠原ヘッドコーチに任せて、個のところを磨いていきたいですね。
ーーどのように個を伸ばしたいと考えていますか?
本田監督:これまで(育成で)培ってきたイズム、というか。「バックパスは必要ない」という強さを植え付けていきたい。センターバックの選手でも、強引に、強気にプレーできるようにしてあげたいですね。
強い個を11人、ピッチに並べて個性豊かなチームを作りたい。3年計画ぐらいで、ここにいる選手たちがどれだけ個性の強い選手たちに育つかな、と楽しみにしています。
ーー小笠原唯志ヘッドコーチが加入した経緯を教えてください。
本田監督:私がリクエストしました。彼はユースを見てきた時期が長いので、一つひとつプレーを止めるところが細かいですね。私なら流してしまうところで止めて、丁寧に説明する。レギュラーを掴めない選手たちもしっかりバックアップしてくれると思います。関西弁も私にないところです(笑)。
●新キャプテンはFW横山久美に
ーー今年は、横山選手をキャプテンに指名しました。
本田監督:昨年末ぐらいから、本人もなんとなく思うところがあったんでしょうね。私からというよりも、彼女の方から、「来年は自分ですよね」と言ってきたので、「その通りです」と伝えました。
ーー点を取るだけでなく、中盤でプレーすることも増えましたが、横山選手にどのようなプレーを期待していますか。
本田監督:私から指示はしていません。前目の選手が多い中で、自分が一列下がって、チームのためにプレーしたいと話しているのを聞きました。点を取ることも、取らせることも考える一年になると思います。
(初練習の)挨拶を1週間ぐらい考えていたようです。その挨拶の中で、「周りを気にするようにしてほしい」ということを、彼女自身がメッセージとして言えるようになったのは、ずいぶん大人になったなと。試合の中でもどれだけ周りに気を配れるかというところは楽しみにしています。