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ローカル線の一番の敵は自然災害!? 息の根を止められた路線と運転再開を果たせた路線

清水要鉄道・旅行ライター
平成25(2013)年9月16日の台風18号により流失した信楽高原鉄道杣川橋梁

先月の記事でもお伝えしたように、令和4(2022)年8月豪雨で被害を受けて運休していた津軽線一部区間について、復旧を断念してバス・タクシー転換となる方針が示された。自然災害からの復旧を果たせずに路線廃止となるのは、JR発足以降ではJR東日本の岩泉線、気仙沼線・大船渡線の一部区間(BRT化)、JR北海道の日高本線の一部区間、根室本線の一部区間に続く6例目だ。また、鉄道の廃止届が提出されていないものの、BRTとして復旧したJR九州の日田彦山線という例もある。

米坂線
米坂線

自然災害による被害を受けて、現在運休中の路線としては津軽線以外に、JR東日本の米坂線(今泉~坂町)、JR西日本の美祢線、山陰本線(長門市~小串)、JR九州の肥薩線(八代~吉松)、くま川鉄道(人吉温泉~肥後西村)、大井川鐡道本線(川根温泉笹間渡~千頭)の6線があるが、このうち米坂線、美祢線、肥薩線(人吉~吉松)、大井川鐡道本線については復旧の見込みが立っていない。

豊橋鉄道田口線
豊橋鉄道田口線

元々利用者の少なかった路線が、被災をきっかけに廃止に追い込まれるという事例は古くから存在した。昭和時代に廃止された路線の中から代表的な例を以下に挙げる。

昭和34(1959)年8月14日の台風で吾妻川橋梁が流失し、翌年4月25日に新軽井沢~上州三原間を部分廃止した草軽電気鉄道。

昭和40(1965)年9月17日の水害で清崎~三河田口間が不通となり、その後不通区間が拡大したまま昭和43(1968)年9月1日に廃止となった豊橋鉄道田口線。

昭和42(1967)年7月9日の水害で休止となり、同年9月1日に廃止となった国鉄柚木線。

昭和43(1968)年5月17日の十勝沖地震で不通となり、昭和44(1969)年4月1日に廃止となった南部鉄道。

昭和47(1972)年7月13日の豪雨で橋梁が流失し、昭和49(1974)年10月21日に廃止された東濃鉄道駄知線。

昭和49(1974)年7月25日の集中豪雨で被災し、昭和51(1976)年4月1日に西日野~伊勢八王子間を部分廃止した近鉄八王子線。

昭和58(1983)年6月21日の豪雨で不通となり、昭和59(1984)年3月18日に廃止された鹿児島交通枕崎線。

昭和58(1983)年9月28日の台風による土砂災害で被害を受け、昭和60(1985)年1月1日に新島々~島々間が部分廃止された松本電鉄上高地線。

昭和に自然災害によって廃止された路線の多くは地方の小規模私鉄の路線で、国鉄の路線の廃止は少ない。これは地方私鉄の経営状況の厳しさによるものが大きく、いわゆる「親方日の丸」の国鉄であれば税金の投入で復旧できたという事情によるものだろう。

廃止後の岩泉駅
廃止後の岩泉駅

平成以降はJR5線区、三セク1線区が廃止となった。

平成17(2005)年9月6日の台風14号で橋梁流失などの被害を受け、平成19(2007)年9月6日に延岡~槇峰間、平成20(2008)年12月28日に槇峰~高千穂間が廃止となった高千穂鉄道高千穂線。

平成22(2010)年7月31日の土砂災害による列車脱線事故で不通となり、平成26(2014)年4月1日に廃止となった岩泉線。

平成23(2011)年3月11日の東日本大震災による津波で被災して一部区間がBRTで復旧し、鉄道での復旧を断念して令和2(2020)年4月1日に鉄道としては廃止となった気仙沼線(柳津~気仙沼)と大船渡線(気仙沼~盛)。

平成27(2015)年1月7日から8日にかけての低気圧による高波で不通となり、その後の台風によって被害が拡大して、令和3(2021)年4月1日に鵡川~様似間が部分廃止となった日高本線。

平成28(2016)年8月31日の台風10号で東鹿越~新得間が不通となり、令和6(2024)年4月1日に富良野~新得間が部分廃止された根室本線

流失した日高本線慶能舞(けのまい)橋梁
流失した日高本線慶能舞(けのまい)橋梁

廃止に追い込まれる一番の要因はやはり復旧工事にかかる費用で、根室本線の場合は約10億5000万円、津軽線の場合は最低でも6億円と試算された。現在、不通となっている米坂線の場合は約86億円にも上り、いずれの場合も鉄道会社単独で負担をするのはいかに大会社といえ困難であろう。また、復旧しても、毎年億単位の赤字が出る不採算路線であれば、当然鉄道会社だけで維持できるものではない。被災路線の多くが古い時代に建設された路線で、長大なトンネルを避けて川沿いや切通に線路が敷かれているために被災しやすいといった事情もある。せっかく復旧してもまた被災してしまえば、復旧費用も水の泡になってしまうのだ。

只見線
只見線

では、誰が復旧費用を負担するのか。負担者の候補となるのは国、都道府県、市町村である。

復旧を果たした只見線の場合は、復旧費用約81億円のうち約27億円をJR東日本が負担し、残りの約54億円を自治体が基金等の活用で負担することで合意しており、線路や駅等の設備を自治体が保有する上下分離方式で復旧している。なお、自治体が負担した復旧費用のうち半分は鉄道軌道整備法に基づいて国が肩代わりすることになった。

信楽高原鉄道
信楽高原鉄道

台風による橋脚流失から復旧した第三セクターの信楽高原鉄道の場合、上下分離方式へ移行後の被災であったために、復旧総事業費約7億円のうち自治体分と鉄道会社分を合わせた4分の3を沿線の甲賀市が負担することとなったが、災害復旧事業費補助金制度により、その多くを国が肩代わりすることとなった。これは上下分離により設備が市有になっていたことから可能だったもので、もし鉄道会社の保有であれば、補助が受けられずに甲賀市の負担はかなり大きなものとなっていたであろう。

復旧が決まった肥薩線(八代~人吉間)の場合は約235億円と試算される復旧費用のうち約9割を国と熊本県が負担し、只見線同様の上下分離方式が導入される方針だ。

上下分離方式を導入すれば、鉄道会社は設備の維持費負担を免れる一方、設備を保有する自治体は毎年多くの維持費(只見線の場合は約2億円)を負担することになる。鉄道をインフラとして考えるなら必要な出費ではあるが、その原資が税金であることや地方自治体の財政の厳しさを考えれば、負担を厭う自治体があっても不思議ではない。鉄道会社任せにせず、自らリスクを被った只見線や肥薩線の沿線からは路線の復旧にかける並々ならぬ覚悟が感じられる。

美祢線
美祢線

現在、復旧と廃止の瀬戸際に立たされている米坂線、美祢線、肥薩線の残りの区間と大井川鐡道本線については、県などが費用負担の肚を決めるかどうかが路線の命運を左右するといっても過言ではないだろう。

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鉄道・旅行ライター

駅に降りることが好きな「降り鉄」で、全駅訪問目指して全国の駅を巡る日々。

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