『白と黒の革命』が映す日本社会の中東観――松本清張と国際ジャーナリズム(4)
石油会社が怒ったと考えるのも一理あるだろう。しかし、この油価の高騰から石油会社も空前の利益を上げていた。当然である。扱う商品の価格が四倍になれば、当然ながら利益も急騰する。と見ると、本当にシャーに石油会社が怒っていたのだろうか。それに油価が上昇したのはシャーの姿勢が強硬だったからばかりではない。基本的には石油価格を押し上げたのは、石油消費量の上昇による需給のひっ迫であった。このころまでには伝統的な石油輸出国だった米国は輸入国に転落していた。そして油価高騰の直接のきっかけは第四次中東戦争でのアラブ産油国による石油禁輸であった。つまりアラブ諸国に敵対的な国には石油を売らないという政策であった。ところがイスラム教徒の国ではあるがアラブ人の国ではないイランは、この禁輸には参加していない。イランは既に見たようにペルシア人の国である。砂漠の民のアラブ人ではない。誇り高い文明の民ペルシア人である。アケメネス朝ペルシア帝国を打ち建てた人々の子孫である。しかもイランはイスラエルと密接な関係を維持していた。従ってアラブ石油禁輸の中でも、安定した石油供給国として信頼されていた。シャー自身の言葉を借りれば「石油と政治をミックスしない」国だった。この重要な産油国に対して石油会社が恨みを抱くだろうか。恨みはイランではなくサウジアラビアやリビアのようなアラブ産油国に向けられていたのではないだろうか。これが清張の陰謀論に対する第一の疑問である。
この記事は有料です。
高橋和夫の中東・イスラム・国際情報のバックナンバーをお申し込みください。
高橋和夫の中東・イスラム・国際情報のバックナンバー 2021年4月
税込275円(記事15本)
2021年4月号の有料記事一覧
※すでに購入済みの方はログインしてください。