米・外出制限で増加する家庭内暴力(DV)とコロナ離婚、日本も今後増える?
「F---#$%@*&!!!!!」
先日、静まり返ったバスルームに入った途端、窓の外から女性の激しい罵声が聞こえてきた。
その声から2階の住民だとわかった。罵声を浴びせられているのは、長らく違法滞在をしていた東欧出身の男性だ。彼はこの女性と昨年結婚し、喉から手が出るほど欲しかった永住権を手にすることができた。言わば妻は恩人だ。女性は、家の前で会うと気軽に冗談を言ってくるようなざっくばらんな明るい性格でこんな汚い言葉を浴びせるような人に見えなかったので、筆者はその豹変ぶりに驚いた。怒号はエスカレートする一方で止む気配なし。
COVID-19(新型コロナウイルス感染症)危機による自宅待機令(Stay-at-home order、ロックダウン)がニューヨークで発令し22日が経つ。それに比例し、人々のストレスレベルも日に日に増す一方だ。郊外のように家が広ければ夫婦喧嘩をしてもゲスト用の部屋に避難できる。しかし市内のアパートは狭い。同居人といざこざにでもなったらおしまい。逃げ場はもうどこにもない。(店が閉まっているので気分転換に飲みにも行けない)
外出制限により感染者数を表す曲線は平坦化し、ウイルス対策としては奏功しつつある。しかし外出の自由を奪われる中、家庭という最小の社会で弱い立場の人が強い側から暴力を受けているケースがアメリカで増えている。
ニューヨーク州のアンドリュー・クオモ知事は、先日このようにツイートした。
クオモ知事は連日の記者会見で、1918年のスペイン風邪が終息まで10ヵ月かかり、その間3つの波(ピーク)があったことについて触れ、このように発言。「我々は今1つ目の曲線を迎えている。ここで気を抜いたら元の黙阿弥」。今後も引き続き、外出制限要請は続いていきそうだ。
外出制限が続く中での家庭内暴力(ドメスティックバイオレンス)。これはニューヨーク州だけに限らない。
CNNの報告では、「アメリカ国内のいくつかの都市でも家庭内暴力の件数が増え、ホットラインへの相談も増加している。しかし社会的距離の確保のため、どこもシェルターは満員状態」。
20の主要警察署からのデータでは、半数近くの警察署で3月の家庭内暴力事件による911コール(緊急通報電話)は、昨年および今年の3月上旬のデータと比較し、2桁増加した。例えばオレゴン州ポートランド市では、今年3月12日から23日までの家庭内暴力による逮捕者が昨年の同時期と比べ27%増加。 昨年3月から今年3月までの家庭内暴力関連の事件数は、マサチューセッツ州ボストン市では22%増加、ワシントン州シアトル市では21%増加したとある。
またペンシルベニア州では3月30日、新型コロナウイルスによって失業した男が交際相手を拳銃で撃ち、自らも自殺する事件が発生した。パンデミックによる銃の販売が記録的に伸びたことにより、擁護派は「今後数週間、(銃がらみの)危険が及ぶ可能性がある」と警鐘を鳴らす。
日本で家庭内暴力と聞くと男性から女性に暴力を振るうイメージがあるかもしれないが、アメリカでは冒頭のケースにもあるように、女性が男性に暴力を振るうケースもある。
また身体的な暴力を振るったり言葉で精神的に傷めつける以外にも、「配偶者を家から追い出し、ウイルス感染の危険に晒す」「手洗いを傷ができるほど強要する」「石鹸やハンドサニタイザーを使わせない」「失業させることで、経済的に頼らざるを得なくなり対等な立場にさせない」ケースもあるという。NBCニュース
虐待をされる側はする側のそばにいることが多く、家庭外に助けを求めることができないケースも多い。家庭内暴力を研究しているデンバー大学の心理学教授、アン・デプリンス氏は発表されている数値を「氷山の一角だ」と言う。
テキサス州ハリス郡の保安官、エド・ゴンザレス氏は、CNNを通して「新型コロナウイル危機になって人々が突然、虐待をするようになったわけではない。(虐待の根は)すでに前から存在していた」と語っているように、もとからあった家庭内暴力は新型コロナ危機によってさらに表面化されたようだ。
フランスや中国でも
これはアメリカだけではなく、他の諸外国でも同様の問題が起きている。
フランス24は4月10日、このように報じた。「French domestic violence cases soar during coronavirus lockdown」(コロナウイルスによる封鎖中にフランスの家庭内暴力事件が急増)。記事によると、フランスでは新型コロナウイルスによるロックダウン開始の1週目、国内の家庭内暴力事件が30%以上増加したという。
中国では新型コロナ騒動が落ち着いた3月以降、離婚の手続き(コロナ離婚)が急増しているという報告もある。長期間の自宅待機によるストレスで息がつまり、喧嘩、家庭内暴力、心のすれ違いが増えたことが原因ではないかと専門家は指摘する。
どの国でも多くの家庭内暴力やいざこざは子どもの前で起こっていることが多い。アメリカで家庭内暴力にさらされている子どもの数は毎年約500万人。そのような子は、自殺や薬物、アルコール依存、家出、売春などをしたり、性的暴行を犯しやすくなるという統計結果がある。一番の被害者は子どもであることを忘れてはならない。
日本も今後増えていく?
日本は4月7日に緊急事態宣言が発令し、外出制限要請が出てまだ日が浅い。今後どうなっていくだろうか?
ヤフー・データソリューションの統計結果では、日本国内で最近「家庭内暴力」というワードで検索した人が「コロナ」というワードも同時に検索していることがわかった。これは、外出制限要請による家庭内暴力への影響を調べた結果を表しているだろう。
しかも、家庭内暴力を検索しているのは女性が78%と圧倒的に多く、「コロナ」と関連させて検索しているのは100%女性だった。(検索期間:2020年3月30日〜4月5日)
日本はアメリカと違い「ガマン」の文化だ。我慢や辛抱が美徳とされており、家庭内の悩みを恥として隠し、精神的、肉体的な苦痛があってもあろうことか自分のせいだと思いこんだり、公にせず自分の中だけで解決しようとする傾向がある。しかし、夫婦や交際相手において上下関係があるというのはまったく健全ではない。苦痛を自分の中だけに閉まっておくことも。
身体的、精神的なドメスティックバイオレンスはあってはならないものだ。エスカレートする前に、地方自治体による専門機関やセラピストに相談するなどし、まずは外に助けを求めることから解決の糸口を見つけてほしい。
(Text by Kasumi Abe) 無断転載禁止