SFジャイアンツのCEOが公共の場でDV。米国の家庭内暴力や虐待の実態
メジャーリーグ(MLB)のサンフランシスコ・ジャイアンツのCEOが、妻にDVをはたらいたとした問題で、球団は同氏がしばらく休職することを発表した。
ラリー・ベア(Larry Baer、本名ローレンス)氏は3月1日、サンフランシスコにある公共の屋外広場で妻のパメラ(パム)氏と言い合いになり、その一部始終をとらえたビデオがゴシップサイト「TMZスポーツ」に投稿された。
投稿された映像 by TMZ Sports
映像からは、パメラ氏が右手に持っている書類か携帯電話をラリー氏が奪おうとして揉み合いになり、イスから落ちたパメラ氏に馬乗りになったように見える。また騒動後、興奮しているラリー氏に対して、周囲の人々が嗜めているような声も。
DV加害者への目がことさら厳しいアメリカで、ラリー氏のような社会的影響力のある人物がDV騒動の張本人になったということで、社会、特に野球ファンに与えたショックは大きい。
同氏はその日のうちに球団などを通して謝罪を表明し、2度と「不適切な行動」をしないことを誓ったが、球団ファンからはさまざまな反応があった。
「ラリーはそもそも虐待やDVのような問題行動を起こす人物ではないのだから、大げさに報道しすぎ」というような、ついカッとなった上での出来事と大目に見る擁護派から、「ラリーの行動には腹が立つ。権力、ドメスティック・バイオレンス、不誠実さを表したよい例だ。球団と共に育ったが、彼が除籍されるまで球団をサポートしない」というような男性からの厳しい意見もある。
ラリー氏は今回の夫婦間の問題は「解決済み」と発表したが、事態を重く見た球団側は本人と話し合い、しばらく休職してもらうことにしたという。期間は発表されていない。
ラリー氏は、ジャイアンツを何十年にもわたって支えてきた人物として知られる。1996年、COO(Chief Operating Officer)に就任し、2008年プレジデントを経て、2012年CEOに就任。2012年と2014年のワールドシリーズ・チャンピオンシップの優勝を、名実ともに支えてきた。
妻のパメラ氏も、ジュエリーなどの販売会社FGS&Co.のCEOとして社会で活躍する人物だ。4人の子どもがいる2人はおしどり夫婦として知られており、さまざまなイベントやパーティーに2人で出席するなどしていた。
アメリカのドメスティック・バイオレンス(家庭内暴力)、知られざる内情
日本では、1月に起きた千葉県の小学生、栗原心愛さんが父親の勇一郎容疑者に虐待され殺された事件が記憶に新しい。この事件のように、一般的にDVは家庭内(特に夫婦間)で起こるため、実態が把握されづらい。
アメリカも同様だ。しかしニューヨークには、DV関連のホットラインやカウンセリング、セラピストから、被害者用の住居サービスなどまで、被害者を助けたり問題解決のためのサポート団体が数多くある。この多さや充実度は、程度の差はあれど、この国にもDV問題が山積みであることを如実に物語っているのではないだろうか。
被害者になりやすいのは配偶者や年老いた親、子どもなど家庭内の弱者から、恋人、移民、身体障害者、LGBT、ペットなど社会的弱者。そして身体的、精神的、社会的、経済的などさまざまな暴力や虐待が存在する。
米Social Solutionsが2018年にまとめた統計結果が興味深いので、ここで紹介しておこう。
また、前述のSocial Solutionsの統計結果には、以下のように、DVが子どもの成長や教育に悪影響だとする記述も。
- 家庭内暴力にさらされている子どもの数は、毎年約500万人。そのような子どもは、自殺や薬物、アルコール依存、家出、売春などをしたり、性的暴行を犯しやすくなる
- 子どものときにDVにさらされる環境で育った男性が、大人になって自身がDVの加害者側になる確率は3〜4倍高くなる
いかなるDVも初めから大きなものはなく、最初はささいなことや「不適切な行動」だったものがだんだんとエスカレートしているはず。ラリー氏には休職中に大いに反省してもらいたい。
(Text by Kasumi Abe) 無断転載禁止