Yahoo!ニュース

結局、少子化が加速したニッポン:2023年の合計特殊出生率1.20、出生数72万人台で過去最低を更新

島澤諭関東学院大学経済学部教授
画像はイメージです(写真:アフロ)

厚生労働省は本日(6月5日)、15歳から49歳までの女性の年齢別出生率を合計したもので1人の女性が生涯に産む子どもの数に相当する合計特殊出生率が前年の2022年から0.06ポイント低下し、過去最低となる1.20となったと公表しました。出生数も前年比4万3,482人減の72万7,277人で過去最少を更新しています。

図 出生数と合計特殊出生率(Total Fertility Rate)の推移(厚生労働省「人口動態調査」により筆者作成)
図 出生数と合計特殊出生率(Total Fertility Rate)の推移(厚生労働省「人口動態調査」により筆者作成)

岸田文雄総理が少子化に歯止めをかけるべく異次元の少子化対策を打ちだしたのは2023年1月で、それ以降、児童手当や育児休業給付の拡充等様々な子育て支援策が議論され、本日(6月5日)、参議院本会議で自民、公明両党の賛成多数で可決、成立しました。子育て支援策の財源確保のため、公的医療保険料に上乗せして徴収する子ども・子育て支援金を2026年度に創設するのも特徴となっています。

しかし、出生数は2020年-24,404人、2021年-29,213人、2022年-40,863人、2023年-43,482人前年より減少し、少子化に歯止めがかかるどころかかえって少子化傾向は年々加速しています。

これは岸田内閣の目玉政策、約1年と半年かけて準備してきた異次元の少子化対策にアナウンスメント効果がまったくなかったことになります。つまり、政府の少子化対策には期待が持てずに若い世代は行動変容をしなかったといえるでしょう

少子化に歯止めがかからないのはある意味当然とも言え、その理由は、異次元の少子化対策を含め現行の少子化対策はもっぱら子育て世帯への支援にとどまっていること、子ども・子育て支援金という財源確保のための「増税」が実施される見通しであることを指摘できるでしょう。

特に、未婚であったり、結婚していてもまだ子どものいない世帯にとっては、この子ども・子育て支援金は独身税子なし税として機能するので、今後も出生率の低下は不可避と考えるのが自然でしょう。

少子化への危機感の高まりから政府の子育て関連支出は近年増額が続いているのにもかかわらず結局少子化が加速しているということは、取って配る少子化対策はすでに破綻しているということです。

なにもこうしたバラマキの少子化対策が失敗しているのは日本だけでなくお隣の韓国も同様で、2005年に少子化対策を開始して以来、保育の無償化や児童手当、育児休暇に伴う給付金制度など日本円にして30兆円を超える予算を費やしてきましたが、少子化に歯止めがかかるどころか加速し、合計特殊出生率は0.72となっています。

また韓国だけではなく、日本が少子化対策のお手本としているフランス、スウェーデン、フィンランドなどでも出生率の低下がみられます。つまり、持続的な少子化の反転に成功した国は残念ながら皆無に等しいといえます。

これまで少子化を一向に反転させることもできず、また同様の施策を一足早く実施したお隣韓国の失敗に目を瞑り、取って配る少子化対策を強化するのは日本滅亡への道でしかありません。

少子化対策の一つとしてしばしば若い世代の所得向上が挙げられることが多く、実際、政府は配ることで子育て中の若い世代の所得を増やすことに熱心ですが、取るのをやめれば若い世代の手取り所得はすぐにでも向上します。

子ども・子育て支援金などという世紀の大愚策で、未婚であったり、結婚していてもまだ子どものいない若い世帯という出産予備軍から取るのではなく、そうした世帯からは取ることなく、あわせて子育て中の世帯の所得を増やすのには子どもに対する扶養控除が最適だと思います。

旧民主党政権時代の2011年に廃止された年少扶養控除を復活させれば、政府が強制的に若い世代含めた全ての国民から取り上げることがなくなるうえに、子育て中の世帯の懐を温めることもできる訳です。

取って配るのではなく、取るな、残せ、使わせろ。そして肥大化した社会保障をスリム化して負担が無尽蔵に増加していく恐怖・将来不安を取り除く。

これこそが子育て世帯含めた若い世代の本音だと思うのですが、読者のみなさまはいかがお考えでしょうか?

関東学院大学経済学部教授

富山県魚津市生まれ。東京大学経済学部卒業後、経済企画庁(現内閣府)、秋田大学准教授等を経て現在に至る。日本の経済・財政、世代間格差、シルバー・デモクラシー、人口動態に関する分析が専門。新聞・テレビ・雑誌・ネットなど各種メディアへの取材協力多数。Pokémon WCS2010 Akita Champion。著書に『教養としての財政問題』(ウェッジ)、『若者は、日本を脱出するしかないのか?』(ビジネス教育出版社)、『年金「最終警告」』(講談社現代新書)、『シルバー民主主義の政治経済学』(日本経済新聞出版社)、『孫は祖父より1億円損をする』(朝日新聞出版社)。記事の内容等は全て個人の見解です。

島澤諭の最近の記事